六十五話
午後二時。
地獄のカーレースが終わった。
結局あれからずっと運転の仕方は変わらなかった。方向間違ったと言って車をスピンさせるのは勘弁して欲しい。
真樹は気分が悪そうで、駐車場の電柱に手を当ててうずくまっていた。寝入っていた晴人はだから言ったっしょ、と真樹の反応を楽しんでる。
「大丈夫? なんか死にそうだけど」
「楓~言っただろーが、お前運転荒過ぎなんだよ」
「私の運転に耐えられないのが悪い~。やっぱり風を感じなきゃ」
「お前、長生きできねーよ」
隆幸は新鮮な空気を吸い込む。清涼感あふれる風だ。
見れば、都会よりも車が通る頻度が少ない。それに町並みもどこか寂れている雰囲気があり、汚れたレンガ造りの家が多かった。
通行人もお年寄りの方が大多数だ。過疎化が進んでいるのだろう。
「見ろよあれ! 富士山じゃねーか! 静岡じゃねーのに見えるってすごくね!」
興奮気味に肩に手をかけてくる晴人に促され、指された方向を見る。
しばし、言葉を失った。
遠くには霧に囲まれ、それでも圧倒的な存在感を放つ富士山が見えた。ここからだとかなり小さいものの、頂上には雪が積もっているのが確認できる。その幻想的な光景に、隆幸はしばし言葉を失った。
「きれいな水色。まるで消えてしまいそう」
車のキーをポケットに入れた楓も、それに魅入られていた。いつの間にか顔色が良くなった真樹もすぐそばに立ち、きれいと漏らす。映画のワンシーンのような風景は、摩耗しきった隆幸の心を洗ってくれるようで。深呼吸がとてもおいしかった。
「また来てーな。呪いとか忘れて、純粋にまたここにきて景色眺めてー」
背伸びをする晴人に、これ以上ないほど同感する。
冷泉にも、見せてやりたい。隆幸は切実にそう願った。
「そうね。西条さんも好きな人ときたら? いい思い出になるよ、きっと」
「うん。……て、何言わせてるんですか!」
真樹が楓に突っ込みを入れ、しばらく場がなごむ。
「さて、そろそろ時間だし、ここからは俺が案内するよ」
晴人が身軽にステップを踏み、隆幸らの前に立つ。気分は壮快とは言い難い。だけど、ほんの少しだけだけれど、なんとかなる気がしてきた。確信はないけれど。




