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六十四話

 日曜日になった。駅付近で隆幸らは待ち合わせをした。十二月に入ったせいで、十時を回っても冷え込んでいる。おかげで暖房が利いた車はとても幸せな気分になった。

 真樹は約束の時間の三十分前に到着していた。制服の上に上着を着、その上にマフラーを身につけているという重装備。

 「さ、乗った乗った」

 運転席には楓が乗り、助手席には寝不足だと言って大あくびする晴人。きっと夜までアポイントメントの作業をしていたのだろう。後ろは右が真樹、左が隆幸という順で搭乗した。

 「西条さんは車酔いの薬持った? 楓の運転荒いから気をつけた方がいいよ~」

 「ハル君、変なこと言うと走行中にたたき落とすよ」

 「そしたらせっかく楓がプレゼントしてくれたライターも巻き添えだぜ?」

 楽しく談笑している二人は、まるで危機感というものがない。これからのことを考えると、その方が気は楽だったが。頭の中は学生時代のままだからな、こいつら。俺もだけど。

 「羨ましいです」

 「そう?」

 聞き返す。こんな関係のどこが良いのか。しかし真樹はさらに笑みを深めた。

 「はい。……ずっと一緒にいられる。素晴らしいと思います」

 真樹にも一緒にいたい人がいるのだろうか。不意に眼鏡の少年の顔を思い出す。

 「一真君だっけ。その人のこと?」

 「な……! なんでそれを知ってるんですか」

 「いや。なんとなく」

 「え~西条さん好きな子いるの? ならば猛アタックすれば男は簡単に落ちるから攻めることをお勧めするよ~」

 すっかりフレンドリーに接する楓に、真樹の顔が赤くなっていく。わかりやすい。

 「楓さんまで何言ってるんですか~やめてくださいよ」

 両手をぶんぶんと振って否定する真樹をけらけら笑い、楓はエンジンを入れる。つかの間の安息に、隆幸たちはついつい盛り上がってしまった。

走行しているうちに、みなシートベルトを装着し終え、ブルルとエンジンの荒い駆動音が響く。

 「さて、みんな出発の準備はいい? 出るわよ」

 ハンドルを軽く握り、アクセルに体重を乗せていく楓。

 「いいっすよ~どうぞどうぞ~」

 アイマスクを付け、そのまま思い切り椅子を倒してくる晴人。狭いんだけど。

 「さぁ、岩見さんの家に向かって、しゅっぱ~つ!」

 「おーああいてぇ!」

 ブゥン!

 突然の猛スピードに隆幸らは真正面から重力を強く受ける形になり、楓を除いた全員が椅子に後頭部をめり込ませた。思わず舌を噛んでしまい、血の味が口の中で広がる。

 「わぅ!」

 初めて楓の運転する車に乗った真樹は物の数秒で目を回し始める。それはそうだろう。楓の車に乗った人は全員酔うのだ、大人でもやばいのに高校生が耐えられるはずもない。

 「ちょ、おい、死ぬこれ死ぬ! もう少しゆっくり!」

 高速道路並みに飛ばす楓の眼は、先ほどの穏やかな印象とは相反した、スピード狂の鋭い眼差し。隆幸を黙殺し、スピードメーターは住宅街なのに七十キロを超えた。水を流すがごとく飛ぶ景色。

 「御堂君、しゃべりすぎると舌をかむよ?」

 「ならスピードもう少し落とせよ!」

 呪いを解く前に事故死するかもしれないと本気で思った昼過ぎだった。



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