六十話
「ほら、売店でお茶かってきたぞ」
「ごめん……一真」
見舞いに来たはずが、怪我人の一真にお茶をもらう始末。情けないやら悲しいやら……。
一気に半分ほど飲み干す。香ばしい茶は、爽快にすとんと胃に落ちた。寒い病室内で、暖かいお茶は真樹の気持ちをリラックスさせてくれた。
「ごめんね、昨日はつらく当たっちゃって。痛かったよね」
「ううん。一真もう少し運動した方がいいよ。痛くなかった」
一真の横に腰を据えて、ペットボトルに封をした。
「私もごめん。こんなことに巻きこんじゃって」
「真樹のせいじゃないよ。僕が浅はかだった。油断してた」
大人っぽく口角をあげる一真。そんなフォローをしてくれる一真が、真樹は好きだ。わだかまりが解け、どんよりと湿っていた気分が晴れていく。
「やっぱり、一真にも悪いことがあったんだよね」
真樹の質問。この前は拒まれた質問を、一真は肯定した。顔を曇らせ、彼は小声で真樹に伝える。
「ああ。視線を感じるんだ。ずっとずっと。どこにいても誰かが見てくるような、そんな粘っこい視線」
真樹はバッと後ろを見やる。……人の姿はない。視線もない。窓の外も。病室の外で忙しそうにしている看護婦が見えるだけ。
「今も、感じるの?」
不安げな彼に聞くと、一真は首を横に振る。
「今はない。だけど、学校にいる間や家に帰った時も、ずっと感じてた。それに――」
「それに?」
「飛び降りたことなんだけどさ、僕は自殺した記憶ないんだよね。真樹が帰った直後、何か窓に首をつった女の姿が見えて、そしたら体に何か冷たいものが入った気がしてさ。瞬間、記憶が飛んで。気づいた時は病室に運び込まれてた」
首をつった女。見たわけではないのに、文化祭の夜に見た『あれ』の姿が脳裏をよぎった。一真にも呪いが感染していたということか。




