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五十九話

 ベッドの上に座った一真の横の棚には、学校の教科書が平積みになっていた。

 「学校がない間も勉強しないとな。と言っても僕のせいで休校なんだけどね」

 フッと笑い、一真は眼鏡を押し上げる。

 「……違うよ。一真のせいじゃない」

 「そう言ってくれるのは真樹だけだよ。周りから見たら、僕が自殺して休校になったという認識なんだから。お前もさぼってないで勉強しろよ。赤点取っても助けないからな」

 「それは困る。絶対留年しちゃうって」

 「全く……しばらくは自力で勉強しろよ? 頼むからさ」

 あきれ顔の一真。いつもの、大好きな一真だ。

 「大体勉強法なんて分かんないし……。一真みたいに何でもできる人じゃない」

 「おい。少なくとも運動はお前には勝てない」

 ん? それただの脳筋と言いたいわけですか。

 「つまり脳筋だろ? 真樹は」

 「それ違う! それ乙女に言う言葉じゃない」

 つい本気で突っ込んでしまった。さすがにこれは聞き捨てならない。

 「なら勉強すること。お前はまず行動するタイプだから、やる気になればできる」

 「神に誓ってできないことを誓います!」

 「そこは誓うなよ」

 鋭い突っ込みをもらい、真樹はけらけらと笑う。

 なんだ。

 「だからお前はな――え、おい、ちょ、なあ待てって」

 視界が歪む。彼らしくない焦ったトーンで、一真は真樹の目元に優しく触れた。

 「なんで泣くんだよ、真樹」

 いつの間にか、真樹の目からは涙がこぼれていた。一真の顔がふにゃふにゃになり、拭っても拭ってもあふれてくる。鼻をすすり、嗚咽を必死に堪えた。

 なんだ、私。

 「一真ぁ……」

 気づけば彼の胸元に飛び込んでいた。力いっぱい、そのまま一真の胸元にぐりぐりと顔を押しつけてしまう。濡れる水色の患者服。動揺したように、一真の体が揺れた。

 「……真樹」

 「馬鹿! 言ったよね、何かあったらいつでも話してって!いつもいつも一人で全部抱え込んで! ありえないよ! 私そんなに頼りないの? 心配したんだよ! 苦しんでるの知ってたら私――」

 せき止められたダムが決壊したように、真樹は本能のまままくしたてた。ふわりとした、女の子のような匂いがした。嗚咽混じりのどうしようもない叫びに、一真は口を挟まず真樹の頭を優しく撫でた。心地よい感触。

 「ごめんな、真樹。本当に、悪かった」

 甲高い、聞きなれた声。大好きな人の声だ。

 予想以上に一真の胸は厚くって、少しだけ驚いた。

 私は、一真に嫌われてなかったんだ。いつもどおりにいられるんだ。

 幸福感と安心感が、涙になっていく。これまでのことを全てひっくるめ、そのまま真樹は三十分も一真にくっついて号泣していた。


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