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五十八話
「あ……」
トン、と真樹の顔に軽く男の胸があたり、鼻が痛くなる。
「す、すみません!」
ぺこりと腰を折ってから、視線をあげると――。
驚いた顔をした一真がそこにいた。太陽の光が反射して眼鏡が光る。患者の服で身を包み、真樹を見下ろしている。
「か、一真……」
言葉が出てこなくなった。挨拶も違う気がしたし、大丈夫と聞くのも違和感がある。真樹の貧しいコミュニケーション能力は、真樹たちに気まずい間を作った。
「真樹……」
一真も動揺しているらしく、今までにないほど視線が泳いでいた。
見れば、彼の右腕には包帯が巻かれており、首からつられていた。頭や、よく見れば左足も包帯で覆われている。どう見ても重症だった。いや、四階から飛び降りて、これだけで済んでましだったのかもしれない。
「なんか、新鮮だな」
「え?」
声が裏返ってしまい、遅れて羞恥心が押し寄せた。
「そ、そうかな? いつも通りだと思うけれど」
「いや。お前よく転んで、その時は僕が手当てしたじゃん。いつもとは逆だから」
「あ、なるほど」
確かに子供の頃から怪我が絶えなかった。毎回のように一真に助けてもらったっけ。
「とりあえず病室入ろうか?」
左腕の親指を自分のベッドを向け、彼は引き返した。そんな一真の後姿を追い、真樹も恐る恐る病室に入った。




