五十七話
簡単に朝食をとり、シャワーを浴びた。昨日の汗を流したが、これからのことを考えるとリフレッシュできる気分ではなかった。シャワーのお湯は不安や憂鬱は振り払ってくれない。
ドライヤーで髪を乾かし、制服を身につけ、真樹は家を出た。
昨日見たときには気づかなかったが、とても清潔感あふれる病院だった。汚れない白い壁に、板チョコのように並んだ窓。立派な三階建ての病院だった。『風見総合病院』。
なにしろこんな大きい病院に来たのは初めてのため、緊張しながら入口に入る。保健室のような消毒液の匂いがした。マスクを付けている人が多く、看護師さんたちは忙しそうに走り回っている。ホラゲーのようなおどろおどろしい雰囲気は微塵もなく、とてもアットホームだった。
看護師さんのおかげで、呆気なく病室にたどりついた。二階の廊下の真ん中ほどの場所にある、四人用の病室。案内してくれた看護師が去ってからも、真樹はずっと病室の前で立ち尽くしていた。扉の前には四人の名前のプレートがあった。そのひとつには一真の名前がある。
いざ入ろうとしても、真樹はそこから一歩も動けずにいた。覚悟なんてなかった。
もし拒絶されたら。
もし嫌われたら。
もし嫌悪されたら。
もしもは実体をもち、真樹の行動を鈍らせる。一真を訪ねた日のことがリフレインして、両足に力が入らないのだ。もし嫌われたら、真樹は自分を保っていられない気がした。
「ほんと、ダメだな、私」
自嘲しかこぼれない。もともと自分がまいた種だというのに。引き返す? いや、引き返したら一生逃げてしまいそうな気がする。逃げてはいけない。一真からは、絶対に。向き合わなきゃ。
コクリと唾をのみ、大きく深呼吸する。いつの間にか掌は汗ばんでいて、ぬるぬるした。
ガチャリ。
ドアノブに触れた途端、扉が開いた。




