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五十五話

 しかし福田先生は首を横に振る。

 「あの子は、隆幸君、君たちが思っているより遥かに呪いに対して執念深い」

 先生は五杯目のビールをあおる。ろれつもおかしくなってきていた。

 「あの子は人の命を簡単に奪える行動力を持っている」

 「んな大げさな」

 晴人がわざとらしく両手をあげた。さすがに言いすぎだと隆幸も思った。現代においてそんな子が存在するとは考えられない。

 しかし彼は大まじめにそれを信じていた。酒の力なのだろうか。

 「あの子は複雑な環境で育ってね。両親が心中し、今は保高のおばの家で引き取られてる子なんだが、厄介者扱いされている。そのせいかな、あの子はとても冷酷な少女に育ってしまった」

 ということは、あのしたたかで、油断ならない雰囲気はそこから身につけられたというわけだ。誰も信用していなさそうな表情を思い出し、少し哀れに思った。

 「まあ、とにかく気を付けてくれ。俺が言いたいのはそれだけだ」

 時刻はすでに九時を回り、いつの間にかレストランは空き始めていた。

 

 帰り道。すっかり凍えたアスファルト。冬の到来を告げる冷たい風が、隆幸らを通り過ぎた。軽装できた晴人はとても寒そうで、何度も鼻をすすっていた。

 「あ~寒! 体が凍りそうだわ。楓も家に帰ってるといいな」

 晴人はのんきにあくびした。もう少し危機感持てよと突っ込みたくなった。

 「だけどさぁ、意外だったよな。岩見さんの住所を教えてくれるなんてよ」

 晴人はポケットから一枚の紙切れを取り出し、ひらひらと見せてきた。

 解散する直前、福田先生が渡してくれたメモ用紙だった。彼女の住所や住んでいる場所を書き記してくれたのだ。先生らしい、不器用な文字だった。

 「呪いを止める手がかりがあるかもしれない。君たちはもう子供じゃない」

 福田先生はどこかさびしげに笑った。

 「行くかは君たち次第だ。岩見は呪いを強く受けた。もしかしたら何かを知っているかもしれない。確証はないけれどな」

 「ありがとうございます。先生」

 晴人はその紙を受け取り、丁寧にポケットにしまいこんだ。

 「じゃ、そういうことで。じゃあな、お前ら」

 後ろ向きのまま、手の甲を見せる先生を見送った。

 「で、どーすんだ? タカちゃん」

 「何が?」

 「行くのか? 隣県だしさ、どうするのかな~って」

 「そんなの決まってんだろ。行ってみる」

 蜘蛛の糸ほどの望み薄であろうとも、これしか望みがないのなら、やるしかないだろう。

 「そーいうと思った。……じゃ、会社オフの今度の日曜日にね」

 大通りに出、隆幸はバス停に向かう晴人に了解とうなずいた。


 ……とにかく、石見翠に会おう。

 ポケットに両手を突っ込むと、冷たい手が暖かさでしみた。


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