二十話
次の日は休日だった。目を覚ますと朝の七時半。気分が悪かったのは、二日酔いのせいではないだろう。
「……呼んでたよな、いまの」
いつもは覚えていない悪夢。しかし今日はおぼろげながら記憶にあった。二日酔いの影響なのか、それは分からないけど。
暗い教室。二年一組の教室。ぼろぼろになった室内の真ん中に、真樹は立っていた。
隆幸は真樹の目の前にいた。しかし、触れようにも金縛りにでもあったかのように動くことができない。話しかけることもできない。ただ、変わらない真樹の笑顔だけが脳裏に焼き付いていた。
「くそったれが」
何で十五年経た今になって呪いがぶり返している?
晴人を呼びたかったがやめておく。余計な心配をかけさせたくないし、できれば楓のそばにいてあげてほしかったから。軽く汗をぬぐい、ワイシャツを羽織る。
「……行くか!」
一週間弱ぶりの赤門高校。生徒たちが不審げな眼差しで見つめてくるのが分かる。まあさすがに社会人丸出しだからな。髭もそっていないし。
「とりあえず受付に渡して帰るか」
夜来た時とは違う、打って変わって明るいイメージ。学校ではこうでないと。おまけに隆幸らが通っていた時より偏差値が上がっており、挨拶も飛び交っている。気持ち良い高校だ。昔はもう少し殺伐としていたイメージがあったのだが、すでにその面影もない。
「おはようございます」
最初、その言葉が自分に掛けられている自覚がなかった。見れば、健康な小麦肌をした女子生徒が立っている。笑顔は貼り付けているものの、やはり警戒している目つきだった。
「おはよう。ごめん、知り合いだったっけ?」
「いえ。少し気になったものですので。関係者の受付は、正面玄関の右の扉からお入りください。では」
そそくさと去っていく女子生徒。ハキハキした子だったな、と隆幸は微笑ましい気持ちになった。……とはいえ不審者かと疑われるのは避けられないらしい。
受付に入る。先生のげた箱と共用らしい。受付の人に自分の素姓を名乗り、昨日の生徒手帳を渡す。これで用事は終わりだ。
一人頷いて、隆幸は学校を立ち去ろうとした時、ばったりと見知った人と出くわした。
彼はそのまま立ち止まり、目を大きく見開く。
「君は……御堂、なのか?」
老人らしいガラガラとした声とともに、面喰った表情を浮かべる男は――。
「……ええ。本当に久しぶりですね。福田先生」
十五年前にお世話になった、福田賢治先生だった。




