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十九話

 帰り道。先に一人で帰った晴人とは別方向の道。時折帰りのサラリーマンが見えるだけで、やけに閑散としている。至って平穏だ。下弦の月は青白く発光し、家々の窓からは光が漏れる。時刻はすでに十時過ぎ。よれたワイシャツが汗ばんで気持ち悪い。

 お酒を飲んだからか、薄ら寒いのに暖かい。いい気分だ。

 角を曲がると、出会いがしらに体当たりされた。腕からカバンが離れ、スピンしながら地面に転がる。危うく転倒するところだったが、かろうじて踏みとどまる。

 「あ! す、すみません!」

 そこには塾帰りらしい、バックをもった眼鏡の少年が立っていた。汗で髪がべったりくっついている。焦っていたのだろう。口元も引きつってるし、瞳も揺れている。

 そのまま彼は転がっている隆幸のカバンを取り、差し出してきた。

 「いや、悪い。俺もよそ見してた」

 「僕こそ……では」

 カバンを隆幸に預けてから、彼はそのまま走り去って行った。どこか慌てた調子だった。そのままドタドタと走り去っていく。彼が持っているバッグが左右に揺れた。

 「電車でも遅刻しそうになってたのかな」

 そう思って再び前を向くと、地面に一冊の手帳が転がっているのが目に入った。拾い上げる。生徒手帳だった。表面には先ほどぶつかってきた少年の顔写真があり、横には名前が書かれていた。

 名前は――大森一真。東山高等学校一年四組。

 「おい、少年!」

 声をかけた時には、既に彼は消えていた。後で渡してやらねーと。……また高校に行くのかよ。こらえきれないため息が漏れた。

 手帳を開くと、一枚の紙が挟まっていた。走り書きのメモだった。

 「十九年前、三年二組の女子生徒・岩見翠が自殺未遂」

 岩見翠。知らない名前だ。彼は一体何を調べているのだ?

 それに、この高校……。

 「終わらねーかもしれないな。この呪いは」

 すでに酔いは覚めていた。東山高校――元赤門高校の生徒ならば、何か新しい情報があるかもしれない。隆幸はポケットに生徒手帳を突っ込みながら、そう考えた。


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