十四話
「なんであかないんだよぉぉ!」
思い切り扉を殴りつける晴人の目に涙の膜が張る。畜生! 畜生! なんでだ!
そして、不自然に、絶叫が途切れた。重い物がゴン、と転がった音がした。
「持ってきたよ、椅子!」
楓から椅子をもぎ取って、隆幸は思い切り振りかぶる。
「うおぉらぁあ!」
ガシャン!
扉が吹っ飛んだ。けたたましい音とともに扉が転がり、椅子の一本の脚が弾ける。
「冷泉! 大丈夫か! おい!」
勢いよく飛び込んだ隆幸と晴人が、教室を見渡す。
「冷泉さん、無事? 大丈夫?」
あとから入ってくる楓の表情が、絶望に染まった。
先ほどまでに綺麗にされていた机が、あちこちに散っている。窓ガラスにはひびが入り、濃厚な血の臭いが漂っていた。恐ろしい『何か』があったことは、明白だった。
真樹は、いなかった。じわじわと波紋のごとく広がる絶望と脱力感。
「冷泉! どこにいるんだ! おい!」
「返事してよぉ!」
楓が号泣しながら叫ぶ。返答はなかった。脱出した形跡もない。忽然と真樹は姿を消してしまったのだ。隆幸は地面に崩れ落ちる。扉を叩きすぎたせいで赤くなった手で、隆幸は思い切り地面を殴りつけた。
その日から、冷泉真樹は行方不明になった。隆幸が見殺しにしたも同然だった。
目を開ける。晴人と楓が教室内をぶらぶらと見回っている。
「なにもねーな。……まあ、最初も何もなかったからな」
机を片っ端から調べていく晴人が言う。その通りだ。帰ろうとした時、凶事は起こった。
真樹が立っていた場所から外の光景を見る。十五年前とかっちり重なる風景。
「そろそろ学校が閉まる時間よ。帰らないと」
黒板を指で撫でている楓が宣言する。時計を見ると、校内に入ってからかなりの時間が経過していた。
「あ~結局何もわからずじまいかよぉ」
頭の後ろで手を組んだ晴人が、ちょうど最後の机を調べ終えた。もちろん期待はしていなかったが、それでもやはり失望を禁じ得なかった。
かすかな落胆を隠しながら、教室の出口へ歩き出す。……真樹、お前は赤門高校にいると言った。何をして欲しかったんだ? 心の中で問いかけても、もはや意味などなかった。




