十三話
三秒ほど状況判断ができず硬直した。
しかし、やがて響く断末魔の絶叫で、隆幸らは現実に戻された。
「いやぁぁあああああああ!」
真樹の声だ。恐怖に怯え、涙に曇っている。続けてドンドンドンと激しく扉をたたく音が響く。突然の豹変ぶりに、あとから恐怖が忍び寄る。
「……! おい、冷泉!」
隆幸が戸に両手をかけ開けようとした。しかし先ほどとは違い、全く扉は動く様子がない。セメントで押し固められたかのように、びくともしなかった。
「何もたもたしてんだ!」
晴人も扉を開けようとするが、彼にもできない。大きな愕きの表情を浮かべた晴人も、隆幸と一緒に扉を引く。ガタガタと音が鳴るだけで中の様子がわからない。当時、扉はガラス張りになっていなかったのだ。
「おい! どうなってんだよ!」
「知らねーよ! なんであかねーんだよぉ!」
「冷泉さん、何が起こってるの? ねえ!」
「来る! 女が来る! 助けて! いやだぁあああああああ!」
ドアを隔ててすぐ傍で、ガタガタと何かを投げつける音が響き渡る。抵抗しているのだ。机などを投げつけている。もしそうならば、『真樹以外にも、誰かがいる』ということになる。鳥肌が立ち、手汗のせいで扉を掴む力が緩んでしまう。
扉は開かない。引っ張りすぎて両手の爪から血がにじんでくる。なんで、なんでなんでなんでなんであかないんだよおい!
「畜生! 桜井、ほかの教室から椅子とかを持ってこい!」
「椅子って、どうするの?」
「ぶち破るんだ! 扉をぶっ壊す!」
「わ、わかった!」
ばたばたと走り、隣の教室に飛び込む楓。しかし。
「ああああああああああああああああ!」
ひときわ大きい絶叫。最後は喉から無理やり出したような、獣のような声だった。鼓膜が破れそうになる。焦りに任せて扉を引く。指の第一関節が引きちぎれそうになるまで引っ張っても、扉は無情にも開く兆しを見せなかった。




