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百十九話

 桐葉は淡々と隆幸に独白を続ける。

 「調べればすぐに呪いがあって、そのせいで兄さんが死んだと理解できた」

 伏せ目がちになる桐葉は、凶悪殺人犯の顔とは全く違う、さびしそうな表情のままだった。

 「驚いたよ。二十八年前の事件の時の担任が先生だと知った時は。全く、なんで止めなかったんだろうね、あの先生は」

 「だから、呪いを作った人――先生に復讐しようと?」

 「そうだよ。私の家を壊した人を、私は絶対に許さない」

 憎悪に身を焦がす桐葉は、隆幸に向けて一歩を踏み出す。瞳には再び残虐な殺意。

 「兄さんが何をやったというの? 兄さんはとても優秀だった。私なんかと違って、ずっとずっと」

 もはや隆幸に向かって、桐葉は喋ってはいなかった。本能の雄たけびとは違う、しかし理性もない、不安定な感情の元、彼女は感情を吐きつくす。

 「私は兄さんが全てだった。体が弱いのにいつも私のために無理して……。大好きだったのに……それを、あいつは奪ったんだ」

 激高する桐葉は中華包丁を逆手に持ち直す。隆幸との距離は、一台の机を挟んで五メートルを切る。隆幸は生唾を飲み込み、窓に手をかけた。

 「あいつのせいで私の大切な家族が死んだ……あいつが殺したのも同然! 私が兄さんの仇をとる! 私の苦しみを思い知らせてやる!」

 ぶんぶんと凶器を振るい叫ぶ桐葉。血走った眼は冷静さを失い、口からは唾が飛んでいた。

 「そのためにお前は呪いを利用したのか?」

 彼女が呪いを解く理由。それが差す意味を、隆幸はようやく履き違えていたことを知った。彼女は本気で呪いを解こうとしてたわけではない。『呪いを解くそぶりをして』先生を強引に呪いへ引きづり込んで、この状況を作り上げた……。

 「当たり前でしょ? 正確にはこの計画は兄さんと同じ、どろどろしたオーラをまとった西条さんを見つけてからスタートした。よい駒とは言い難かったけど、呪いの案件をかきまわすことはできた。成り行きで貴方達も呪いに近づいてくれたしね」

 ふう、と深呼吸する桐葉は、逆手に持った中華包丁を振りかぶる。赤い光を放つ刀身が、戦慄する隆幸の顔を反射している。

 「じゃ、お話は終わり。ちょっと話しすぎちゃったかもだから――」

 能面のような無表情に、隆幸は息をのんだ。まるで肉食獣にでも捕捉されたかのような緊迫感が、体を駆け巡る。暗い職員室の景色が、無駄に鮮明に映った。

 「バイバイ、御堂さん」


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