百十五話
ふっと目が覚めた。
信じられないが、失神していたらしい。緊張の糸が切れたのか、それとも本能的に現実逃避を実行したか。ささくれ立った机に頭を乗せていたせいか、やけにちくちくする。酸欠のような眩暈がひどく、息切れが起こる。
立ち上がると、パキパキと骨が鳴った。背伸びした後、真樹は警戒しながらも家庭課室から出た。
一階ということだけあって、窓の外の様子が鮮明に映る。本来灰色の地面はどす黒い赤に染まり、樹木も紅葉のようだ。
……これから、どうしよう。
廊下を歩きながら、真樹は考える。何かをしなければならないという焦燥感と、自分に何ができるかわからない不安感が混ざって胸をかき乱す。
「楓さん、どこにいるんだろう」
とても心配だった。襲ってきたとはいえ、楓は楓。大切な人には変わりはない。
誰か、誰かいないのか。吸い込んだ酸素が肺の奥に浸透しないような息苦しさに見舞われながら、やや足早になる真樹。
太ももに固いものが触れた。
最初は気にしてる余裕がなかったのだが、やがて隆幸から借りていたスマホを入れていたことに気付く。
「そう言えば返してなかったな……」
せめて隆幸に渡してから逃げるべきだったと反省した時。
ガラガラ……。
まるで砂利道の中、台車を押すような音がした。ゆっくりと扉が、閉まる音。心臓がきゅっとなる様な嫌な感覚がする。
「……! 誰か、近くにいるのかも」
一階の教室に誰かが入ったのだろう。距離から言って、保健室か自習室、それか経営企画室あたりだろうか。
今の音からして扉は左右に動くスライド式。
その教室は、一つしかない。
「……経営企画室」




