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百十四話

 一年一組、二組、三組、そして、四組。

 西条真樹や、その友人の大森一真の名前はすぐに見つかった。

 しかし、保高の名前がない。数回ほどは行からマ行を確認したのだが、在籍は認められなかった。

 「つーか、俺はいったい何やってんだ。そんなことより先に先生たちを――」

 冊子を閉じようとした時。

 出席番号三番のところに、桐葉の名前があった。

 保高のほは、どう見ても三番ではないだろう。

 見れば、桐葉の名字に二本の斜線があり、その横に赤文字で保高と記されていた。

 「……! おいおい、マジかよ」

 斜線で消された名字は――。

 今岡だった。

 「今岡……桐葉?」

 今岡。今岡仁。その名前が脳裏をよぎらないはずがなかった。

 「だけど、彼女の名前は保高だった。今岡じゃない」

 その時に思い出す。

 レストランで先生から聞いた、彼女の話を。

 『あの子は複雑な環境で育ってね。両親が心中し、今は保高のおばの家で引き取られてる子なんだが、厄介者扱いされている』

 両親が心中。叔母の家に引き取られている。

 叔母の名前が保高。だとしたら桐葉の氏名は変化する。

 じゃあ、本当の名前が今岡だとしたら、五年前に死亡した今岡仁は……。

 次々と頭の中でばらばらだったパズルが構築されていくのを感じる。まるで難解だった数学の証明が形成されていくような、驚きを含む感じ。

 ようやく理解した。

 福田先生があの時仁のことを隠したがった訳は、心苦しいとか、もちろん保身に走ったわけではない。ただ桐葉の親類か何かだったから言わなかったのだ。よく考えれば先生は当初、真樹が呪いに触れた女子生徒だと口を割らなかった。つまり先生が口をつぐんだのは、現在在籍している生徒の情報だったから。

 おそらく、年齢差から言えば、桐葉の兄だろう。

 そして、両親が心中。類推すれば、仁が死んだことにより精神不安定になったためだと考えることだってできる。そのため桐葉は厄介者扱いをする叔母の家に預けられ、現在こうして高校に通っていたわけだ。

 家庭がばらばらとなった桐葉が、呪いを作り上げる一因となった先生を恨まないはずがない。だからこうして地獄の檻を作り上げ呪術を発動し、福田先生を殺そうとしているのではないだろうか。

 一体桐葉がどうやって仁の死が呪いと関連していることを知ったのかは不明だけれども、この推理はあながち間違っていないような気がしていた。

 「だったら早く先生を探して合流しないと」

 この推理が正しければ、一番の危険は先生だ。

 畜生。スマホを真樹に預けたままだったのが痛い。

 いずれにせよ校舎内にはいるはず。絶対に見つけないと。

 そう思って振り返った時だった。

 すぐそばに、少女が立っていた。

 「うお!」

 「なんでこんなところに出席簿があるんでしょ~ね~」

 中華包丁をクルクルと弄ぶ桐葉が、職員室の扉を遮るように仁王立ちしていた。赤い月光に照らし出された横顔は、魔女の如く不気味で、その目だけが青く光っていた。

 「保高……」

 「その様子では、私の名前が今岡だというの、ばれちゃったみたいですねぇ」

 職員室の前で、桐葉は不敵に笑って。

 隆幸へ一直線に襲いかかってきた。

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