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百十二話

 三階廊下。

 「見失ったか……」

 武器を納め、ぶらぶらと見回っているのは晴人だった。桐葉は早かった。小動物のごとくあちこち駆け巡り、見事に姿を消した。

 「畜生。完全にボッチじゃねーか。タカちゃんや西条ともはぐれちまったし」

 突発的な行動は慎まねーと、と晴人は反省した。

 ……それより、楓はどこに行ったんだ。

 教室を見て回りながらも、晴人はそればかり考えていた。未探索の三階の教室も僅か。図書室を見て回るのに時間がかかった程度。

 「楓……何があっても俺が見つけてやるからな」

 絶対桐葉を見つけて居場所を吐かせてやる。

 楓からもらった銀のライターが、赤く光る。大切な品物。

 生まれてからずっと晴人はバカやってきた。時としてそれは悪目立ちしたことだって数知れない。そんな時楓はいつもフォローしてくれた。隆幸と一緒に晴人を支えてくれた。

 真樹に次いで、大切な楓が消えてしまうのだけは御免こうむる。

 「それにしても、なんで楓を拉致してまで俺らを呼んだんだ? 少なくとも俺と彼女は初対面のはずだったはず」

 桐葉と会ったのは三人の中では隆幸だけだったはずだ。なんで俺らまでを殺そうとしている?

 外を見ると、月食に照らし出された赤い校庭が望めた。

 「ほんと、現実離れしてるよな、ここは」

 赤い校庭なんて初めて見た。まるで地面に血をぶちまけたかのような光景。お化け屋敷を凌駕する光景に鳥肌が立つ。

 四階に上がる。予想通り何もいない。蔦やコケが生え始めた階段を一瞥し、晴人は上へと上がろうとする。

 踊り場に出たとき、すぐ脇に人影があった。距離は一メートルもない。心臓が止まりかける。

 「うぉ!」

 声が漏れたが、よく見ると大鏡に映った自分だった。かなり大きな鏡だった。

 「ったく、なんだよ~ビビらせんなって」

 舌打ちし、鏡をコンと叩く。そんな失笑顔の自分が、どこか間抜けだった。


 自分の後ろに、一人の女性が映った。


 「え――――」

 ザグ!

 抵抗する間もなかった。影が、晴人と交わった。

 一本の包丁が、晴人の脇腹に食い込んでいた。ドラマでしか見たことのない光景に、一瞬目を疑う。

 ぎらついた、中華包丁。

 口からこみ上げてくる何かが、思わず外へ垂れた。おびただしい量の血。

 「てめ……」

 足に力が入らず、意識が遠ざかろうとしていく。力を振り絞り、振り返る。

 桐葉が立っていた。握られた出刃包丁から、晴人の血が滴り落ちる。

 「ばいばい。平野さん」

 水に顔を突っ込んだかのように、声がぼやけた。


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