表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
112/165

百十一話

 桐葉だと身構えるも、すぐに別の人物であることに気付いた。

 フラフラとおぼつかない足取りで近づいてきたのは、楓だった。

 「桜井!」

 隆幸が嬉々とした声をあげる。真樹もほっとした。桐葉の元から自力で脱出したのだろう。目立った外傷はなさそうだった。福田先生の顔色が、わずかに良くなる。

 「楓さん! 無事だったんですね」

 よかった。これで後は晴人と合流さえすれば全てうまく――。

 「……どうした? 桜井。何かあったのか」

 隆幸が彼女の所に歩み寄った時だった。

 楓はぴたりと隆幸の前で歩みを止めた。ゾンビのように、不自然に肩が下がっていることに、真樹は今更ながら気付いた。

 脱力した姿勢のまま、にやりと楓は笑い、どす黒い目を向けた。生きているそれとは違う、魚のように、濁った眼。

 楓の姿をしているそれは、楓ではなかった。

 「な……おい、桜井?」

 同時に彼女の腕が、突然隆幸の太い首筋にかけられた。一秒にも満たない時間が、スローモーションのように映った。


 苔むした壁に背中を叩きつけられる隆幸。その首には、楓の細い腕が当てられていた。

 そのまま締められる隆幸の首。彼はこの期に及んでも状況を理解できていないようで、抵抗することなく驚愕を浮かべていた。

 「桜……井」

 苦しげに唸る隆幸。ぎりぎりと骨がきしむ音が、鈍く響いた。

 我に返る真樹は、すぐさま二人に駆け寄る。

 「桜井! 何やってるんだ!」

 先生が強引に楓の両腕をとった時、彼女の手が隆幸の首から外れる。

 「御堂さん、大丈夫ですか?」

 背中をさすり、真樹は隆幸に尋ねると、こくりとしかめ面のまま頷いた。

 楓はゆらゆらと体を揺らしながら、冷たい眼差しで福田先生を見つめていたが、やがて両手を前に突き出し襲撃してきた。

 「楓さん、やめてください!」

 正気で無いことを確信した真樹は、背後から楓を拘束するが、一気に引きはがされてしまう。何も読み取れない瞳が、真樹を映す。

 赤い口元が、醜く歪んだ。背筋に冷たいものが走る。

 殺される。

 「駄目だ、逃げるぞ!」

 壁に手を当てて立ち上がった隆幸が、そうどなった。一斉に逃げだす真樹たち。このままいれば楓に絞殺される。冷静さを失い、真樹は廊下を駆け抜ける。後ろに誰かが付いてくる錯覚におびえながら、真樹は階段から下へと降りる。

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」

 階段を何段か飛ばして駆け降り、真樹は一目散に一階の家庭課室に身を隠した。ここなら机が多いので、楓が追ってきても逃げ道がある。入口から最も離れた机の下に身をひそめ、机の隙間から家庭課室の扉をうかがう。

 先ほどの騒動が嘘のように、シンと水を打ったかのように静まり返っている。

 「一体どうなってるの……なんで楓さんが」

 どう見ても正気じゃなかった。まるで操られているかのようだった。

 ようやく、隆幸と先生とはぐれたことに気づく。

 「冗談でしょ……」

 震える体をいなし、真樹はそのままうずくまるしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ