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百十話

 隆幸が落胆したようにため息をついて、机に腰を下ろした。ぎぃ、と甲高い音が漏れた。

 「やばいな。三時間保高と会わずに逃げ切れるとは思えない」

 時刻は九時を指そうとしている。スマホは圏外のままだ。

 「どこか教室にたてこもるのは?」

 「目立つうえに数時間も持つ保証がない。非現実的だ」

 隆幸は目をつむりそう返答する。どうすればいいか決め兼ねている様子で、どこか気難しい表情をしている。

 「とりあえず先生のところに戻ろう。話はそれからだ」

 「そうですね」

 隆幸は大儀そうに立ち上がるなり、先頭切って一年四組から出た。


 ホワイエに戻ると、福田先生が厳格な表情のまま待っていた。こちらの存在を認めると、ぎこちないながらも笑顔を浮かべた。

 「どうだった?」

 「首吊りのロープがありました。如月歌月が首をつった時に使われたのかも」

 「……そうか」

 福田先生が悲しげに眼を伏せた。いつもの温和な姿ではなく、弱弱しい姿の先生が見ていられず、真樹は再び一年四組の教室へ視線を向ける。

 「如月があんな亡霊になってしまうなんてな。……保高が俺の命を狙うのも、因果応報なのかもな」

 「如月の担任だったんですよね。先生は」

 「ああ。大切な生徒を守れなかった。俺なんて死んで当然だったのかもしれない」

 「違います!」

 隆幸は大声をあげた。

 「先生は守ろうとしたじゃないですか。現に俺らはこうして守られました。今こうして学校に残っているのも」

 先生を庇おうと必死に言葉をつなげる隆幸。それほどまでに先生のことが好きなんだ。彼の行為は、やはり一真の面影を認めた。

 「そう言ってくれるのはお前だけだよ。……だけど」

 しかし福田先生は暗い顔のまま、何かを言いかけた。その瞬間だった。

 福田先生の背後に、女性の姿があった。


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