百七話
「私が少し聞いてみます」
「頼んだ。先生ともめたくないからな」
三組から出る。次は。
四組だ。一年四組。そして元々の二年一組。
さすがに先頭を歩いていた隆幸の足が止まる。真樹も同様だった。
この教室からすべてが始まったのだ。あの時は、こんな状況に陥るなどとは一切考えていなかった。その時が懐かしい。
隆幸を見ると、目があった。どうしようと無言で訴えかけてきている。
「見逃すか――」
隆幸がそう提案した時。
キィキィと何かが揺れる音がした。音源は、閉ざされた四組からだった。
体が反射的にビクリと震えた。
この音は。
隆幸の表情が凍りついた。この音はどう聞いても、重いものをぶら下げたロープが揺れているそれだ。
文化祭の夜に見た、首をつった女の影が、真樹の両足を鈍らせた。あれと、同じ音程。同じリズム。
動悸が痛い。
「誰かいるのか?」
隆幸が声をかけた。返答はない。頭が痛くなりそうな耳鳴りがした。
キィ……キィ……キィ……。
甲高い音は、一定の速度で鳴っている。
「西条は後ろにいて。俺が見てくる」
ナイフを片手に、隆幸はドアノブに手をかける。その手は小刻みな震えを禁じえない。
前触れなく隆幸は扉を開き、部屋に転がり込んだ。
「……なんだよ」
四組の部屋は散らかっていた。あちこちに散乱した机や椅子。まるで誰かが争ったかのような形跡が残っていた。教壇の上の花瓶は地面に転がり、水をぶちまけている。窓ガラスは割れ、その奥の光景は闇に塗りつぶされたかのように真っ暗だった。どこか鉄の臭いが充満している。




