シーン 90
ニーナは話の途中で急に真顔になった。
どうやら何か言いたいことがあるらしい。
真剣な様子を見るとただごとではないように思える。
「それよりレイジ、私は腹が減った」
僕はそれを聞いて思わずコケてしまった。
今までのまじめは話はどこへ行ってしまったのだろうか。
真顔でそう言われると少しは遠慮と言う言葉の意味を理解して欲しいと思う。
ただ、僕にしてみればニーナは姉のような立場のつもりだから少しくらい無理難題を言われても応えてやりたいと思うのは不思議だ。
きっと前世で姉が居たらこんな気持ちになっていたのだろう。
サフラはサフラで妹のような存在なのだから今の状況を整理すると長女のニーナ、長男の僕、次女のサフラという関係になるのだろうか。
余計なことを考えながらも夕食の準備に取り掛かった。
今日のメニューはサフラが希望したご飯に合う料理を作ろうと思う。
まずは土鍋でご飯を炊く。
これはサフラも一度見ているから残りの作業は任せることにした。
わからないことがあれば手を貸してやるつもりだ。
次にフライパンで卵料理を作る。
料理と言っても卵焼きだ。
これも昔はよく自分で手作りして翌日の父親が持っていく弁当の中に入れていた。
丸いフライパンでの調理は初めてだが慎重に形を整えて皿に盛り付ける。
続けて同じフライパンを使って野菜炒めを作った。
ただ単に野菜だけを炒めるだけでは芸がないため保存用に取っておいた干し肉を一口大に切り一緒に炒めていく。
最後に玉ねぎを使ったオニオンスープを加えて食卓に並べた。
「ニーナ、出来たぞ」
「あぁ、すまな…な、何だこれは?」
礼を言いかけたニーナは食卓に並んだ料理を見て動きを止めた。
どれも僕の自信作だがニーナもサフラも見たことがない料理ばかりのようだ。
「日本で食べてた料理だよ。ウマイから食ってみな」
「バゲットがないようだが…」
「主食は米だ。そう言えばこっちは米食と言えばサラダなんだよな」
「あ、あぁ…そうだが…これを食べろというのか?まあ、おいしそうな匂いはしているが…」
「文句があるなら無理に食わなくてもいいんだぞ?」
警戒するニーナをよそに僕は先に食べ始めた。
サフラもそれに続きようやくニーナの手が動く。
恐る恐る口へ運んだ野菜炒めを食べよく咀嚼すると手が止まった。
「ウマイ!」
「だろう?たくさん作ったから遠慮するなよ」
今回は少し濃い味付けにしてある。
疲れている時は濃い味のモノが食べたくなるものだ。
食欲をそそられて気が付いた頃には皿が空になっていた。
見事に食べつくされた皿を見ると気持ちがいい。
苦労をして作った甲斐があるというものだ。
きっと料理人はこの感覚が味わいたくて調理をしている人も少なくないのだろう。
そんな気持ちになった。
「どうやら満足したみたいだな」
「あぁ、最初はバケットがなくて驚いたが、ご飯と言うはいいものだな。噛めば噛むほど甘みが出て美味しかったぞ」
「私も白いご飯は初めて食べたけどこっちも美味しいね」
「前はチャーハンだったからな。普通は白飯なんだよ」
「この味…店を出してみたらどうだ?」
いつになく神妙な面持ちでニーナが口を開いた。
今度は真剣に何かを考えているようだ。
「いくらなんでも大袈裟だろ。自分たちの分を用意するのに手一杯さ」
「もったいないな。やり方次第で商売になると思うんだがな」
「商売か。まあ、機会があれば考えてみるが期待はするなよ?」
「そうだな。キミが使用人を雇って彼らに作り方を教えて経営すると言う手もある。それこそ、やり方次第だよ」
脳裏に「経営」の文字が浮かんだ。
自宅の一階を店舗に利用できることを考えればまったく不可能と言う話ではない。
問題は料理人を雇い入れこの味を覚えて提供できるレベルに昇華させることが出来るかだ。
僕には人に教えると言う技術は向いていないタイプだと思っているので、職人のように姿を見せて教えるしかない。
ただ、それこそやる気になれば出来なくはない話だ。
店が軌道に乗れば事業を拡大することもできる。
考え始めれば夢はどんどん広がっていった。
それこそニーナの言葉ではないがやり方次第で如何様にもなる話だ。
今すぐに答えを出す問題でもないが、これも今後の課題の一つにしておこう。




