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シーン 85

 僕らは目的地の「帰らずの森」へ着実に進んでいる。

 ただ、あと一時間ほどで日没になるため野営地を見つけ馬を休ませなければならない。

 ニーナは出発前に買った地図を取り出した。

 地図は何かの植物から採った粗い繊維を使った紙で出来ている。

 そのためゴワゴワとして肌触りが悪い。

 しかし、書かれている内容は読み取れるため問題はない。

 サフラによればこう言った質の悪い紙は広く一般に出回っているようだ。

 同じ紙でも書類や本などに使われる真っ白な上質紙は作るのに手間が掛かるため高価になるのだとか。


 横から地図を覗き込むとこの近くに小川が流れていることがわかった。

 野営では水の確保が問題になるため水辺でキャンプを張れば水を探す手間も省ける。

 地図を頼りに進むと小川にぶつかった。


 「今日のキャンプ地はここでいいよな」

 「問題ないだろ」

 「いいと思うよ」


 サフラは近くの林から薪を集めてきた。

 その間に僕は河原の石を集めてかまどを作る。

 ニーナは投げナイフの腕を生かし林の奥から野ウサギを仕留めて帰ってきた。

 今晩のディナーになるらしい。

 野うさぎを食べたことはないがこれも自然の恵みと思って感謝をする。

 野営の準備が整った頃には辺りが暗くなっていた。

 僕らは焚き火を囲みながら明日のことについて話し合った。


 「それで、目的地まではあと半日くらいでいいのか?」

 「最初はそのつもりだったんだがな、思っていたより早く着きそうだ。アイツが頑張ってくれたおかげだよ」


 ニーナは立ったまま休む馬を見た。

 さすがに帝都を出てから歩き詰めで疲れたらしい。

 重い荷馬車を引いているので普通に歩くよりも疲れて当然だ。

 改めて馬車の有り難さを実感する。


 「まぁ、これだけ早く移動できたのは敵と遭遇した時の対処の早さが一番大きかったと思う。私の知る限りこれほどスムーズな移動は「フランベルク」の精鋭部隊に匹敵すると言ってもいい」

 「皇帝の直轄部隊か。エリート揃いと聞くが普段は何をやってるんだ?」


 大会の優勝を機に入隊を要請されたのはつい最近のことだ。

 断った理由について一番大きいのは自由が奪われることを嫌ったからだが、決して興味がなかったわけではない。

 今のようにサフラと二人で生活をしていなかれば迷わず加入していただろう。


 「基本的には皇帝の警護さ。あとは皇帝の指示があれば各地へ派遣されて仕事をするんだ。まあ、皇帝が直接指示できるハンターと考えていいだろう」

 「エリート集団なんだろう?過去に大会で優勝したような猛者揃いなんだよな」

 「いや、必ずしもそうではないよ。実際、フランベルクのリーダーをやっているのは元ハンターの女だが大会では優勝していないからな。私の憧れでもある人だよ」

 「女がリーダー?強いのか?」

 「あぁ、恐ろしく強いと聞く。きっとあのアルマハウドよりもな」

 「アルマハウドより?本当かよ」


 アルマハウドの恐ろしさはこの身をもって体験している。

 実際にもう一度戦えと言われれば丁重にお断りをしたいところだ。

 今度戦えば銃の対策をしっかりとしてくるだろうから以前よりやりにくくなるだろう。


 「あくまでも噂だ。ただ、私が信頼している筋から得た情報だからな、あながち嘘ではないと思うぞ」

 「アルマハウドを超える女…か。まさかゴリラみたいな女じゃないよな?」

 「ゴリ…ラ?なんだそれは?」


 ニーナは不思議そうな顔をした。

 隣にいるサフラも首をかしげている。

 どうやらこの世界にゴリラはいないらしい。

 ここは知っている亜人で例えておくべきだったようだ。

 一つ咳払いをして訂正する。


 「あー…日本にいた動物だ。どうやらこちらには居ないみたいだな」

 「ふむ、ニホンと言うところは不思議な生き物がいるらしい。まあ、そのゴリラと言う生き物がどの程度の怪物なのかは知らないが細身の女だと聞いているよ」

 「細身?じゃあ、どんな戦い方をするんだ?」

 「そこまではわからないさ。一応、国家機密と言うヤツだ。国中で一番強いとも言われているが彼女の姿を見たものは少ないんだ」

 「そうなのか。まあ、そんな化け物みたいなヤツが居るなら皇帝も安心だろうな。俺を無理に引き込もうとしなかったのもそのためか」

 「それはどうだろうな。皇帝自身の真意はわからないが一応入隊は任意でとなっている。それでも断られることは前提にしていないと思うぞ」


 先ごろ行われた大会はフランベルクの入隊を夢見て各地から猛者が集まる争われる選考会と言ってもいい。

 優勝すれば爵位も得られ比較的安定した生活を送ることができる。

 感覚としては学校を卒業して世界的超大企業に入社し、いきなり役員か取締役にでも抜擢されたくらいの凄さと言ったところか。

 とにかく一般人から一目を置かれる存在になることは間違いない。

 それは僕も感じていることだ。

 勲章を胸につけて歩くだけで周りの視線を一手に集めてしまう。

 注目されるのにはまだ慣れていないがそれに見合うだけの効力もある。

 家を買ったときの対応もそうだし買った後でもそうだ。


 「そのリーダーの女、気になるな」

 「やめておけ。いくらレイジだろうと敵う相手ではないさ」

 「別に戦いたいというわけじゃないさ。興味本位…と言うやつだよ」

 「興味…ね。まあ、その気持ちはわからなくはないよ」

 「私も会ってみたいな、その女の人」


 黙って話を聞いていたサフラも興味があるようだ。

 僕としては彼女の素性を知りたいと思っている。

 もしかすれば転生者ということも考えられるからだ。

 機会があれば会うこともあるだろう。

 僕らは火の番を代わりながら馬車の中で夜を明かした。

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