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シーン 83

 「殴られ屋か、考えたな」

 「面白いだろ?思ったより客が多いんだ。さすが人の多い帝都さ。キミもやってみるか?」

 「遠慮しておく。それよりだ、ここへは依頼に来たんだよ。手伝って欲しい」


 用件を端的に伝えるとニーナは驚いた顔をした。

 しかし、同時に何か思い出したのかニヤニヤと笑った。


 「あの時はと逆だな。今度はキミが私を誘いに来た。あれからいくらも時間が経っていないのに不思議なものだ」

 「今回は状況が状況だからな。大勢で向かうより少数精鋭の方がいいだろうと思ったんだ」

 「なるほどな。それで、その化け物…勝算は?」


 急にニーナの表情が引き締まった。

 先ほどの笑みは消えすっかり仕事モードだ。


 「もちろんある。ただ、どの程度の化け物かは想像がつかないからな。無理だと思えば引くだけだ」

 「なるほど。確か亀の化け物だと言ったな。そして酸を吐くと。そんな化け物聞いたことがない」

 「ギルドマスターでも知らない相手だ。知らなくて当然だろう。もちろん俺も聞いたことがない」


 この世界とよく似たゲーム「Magic&Saga」、俗に言う「マジサガ」の中にも登場しないモンスターだ。

 裏を返せばこの「ブレイターナ」が「マジサガ」に似ていると言うだけで同じと言うわけではない。

 ただ、登場するモンスターの一部は容姿や行動パターンが一致する部分もあるためまったく違うとも言いがたいところがある。


 「ふむ…それで下手に急造した戦力を送るより確実に討伐できるだろうキミを選んだんだろうな。大会の優勝者なら誰も文句はあるまい」


 ニーナはニヤニヤ笑いながら背中をバンバンと叩かれた。


 「それで、手伝ってもらえるか?」

 「そうだな、即答してやりたいところだが…」

 「ダメなのか?」

 「まあな」


 歯切れの悪い答えが返ってきた。

 表情も曇っていているが同時にサフラの方に視線を送っている。

 それに気付いたサフラは一歩前に出た。


 「ニーナさん、手伝ってもらえませんか?」


 伝家の宝刀「上目遣い」がニーナに炸裂する。

 僕なら二つ返事で了承してしまうほどの破壊力。

 仮に計算でやっているとしても許せてしまうほど強力な攻撃だ。

 ただ、サフラはこれを素の状態で行っている。

 本人は無意識にそうしていることに気付いていない。

 だから余計にタチが悪いのだ。

 こんな風に説得されて断れるはずがない。


 「レイジ、ぜ、是非手伝わせてくれ!」


 ニーナはサフラの手を取りハァハァと鼻息が荒くなっている。

 どうやら彼女も例外なく「オチた」のだ。

 以前からサフラに人一倍執着していたから仕方ないと言えば仕方ない。


 「落ち着け!」


 サフラが身の危険を感じ始めたのでニーナの頭を小突いてやった。


 「おっと、取り乱してしまった。すまないすまない」

 「まったく…で、本当にいいんだな?」

 「あぁ、問題ない」

 「さっき歯切れが悪かったヤツとは思えない反応だな。返事に渋っていたくせに簡単に手のひらを返すとは思わなかったぞ」

 「仕方ないだろう。サフラちゃん誘われて断れるほど私も落ちぶれてはいないよ」


 胸を張ってそう答えた。

 こちらとしては手伝ってもらえるなら理由は何だっていい。

 大方、サフラから誘って欲しいと思って行った前振りだろう。

 確かに言わせるだけの価値はある。

 僕も今度機会があればサフラを困らせてやってもらおう。


 「じゃあ、簡単に今回の討伐について説明する。準備が整い次第出発するからな」

 「わかった」


 ニーナは早々に店じまいをすると場所を移した。

 広場は人通りも多くあまり周りへ口外する内容でもない。

 僕は今回の作戦と行動日程、必要な装備などを伝えた。

 まず、作戦としてはニーナに後衛をやってもらうつもりだ。

 ニーナには冷気を操る剣がある。

 これで対象の動きを止めてもらいつつサフラの保護者を担当してもらうつもりだ。

 サフラには戦闘中不意に現われる亜人と魔物の対処をお願いする。

 僕は対象の弱点を探りつつ迎撃しようというものだ。

 行動日程は移動の日数を含めて四日ほど。

 化け物が現われた森まで片道で一日と半日ほどだ。

 グリフォンを討伐したときと同様に近くまで接近して一夜を明かし朝一で討伐すれば間に合うだろう。

 今回の移動は馬車で行うため野宿についてもある程度の安心感がある。

 三名で移動するから見張りを交代することも可能だろう。

 必要な装備については要望があればこちらから揃えることにした。


 「以上だ。異論は?」

 「問題ない。そうか、馬車での移動か。レイジも出世したな」

 「馬車は大会で優勝する前からだよ。オルトロスのリーダー格だったテューポンが使っていたものだ」

 「なるほど。ああ、そうだ。オルトロスの一味、どういう末路になったか聞いているか?」

 「いや?」

 「やはりな。まあ、こう言ったことは秘密裏に行われることがほとんだ。知らなくて当然と言えば当然だ」


 ニーナによればハンターギルドを経由して仕入れた情報らしい。

 確かな筋から仕入れているため間違いはないだろうとのことだ。


 「どうなったんだ?」

 「まず、リーダー格のテューポンは斬首だそうだ。ギロチンと呼ばれる装置で首をはねられたらしい。次にエキドナだがこいつは酷い死に方だったようだ」

 「酷いってどんな?」

 「馬引きだよ」


 馬引きは極刑の中でも特に凄惨なものに分類される。

 身体を縛り上げロープを馬の尻尾に結ぶところから始まり、尻を叩かれた馬が全力で走り出すと地面との摩擦で四肢がバラバラに千切れると言うものだ。

 そのため、この処刑方法はほとんど行われることがないと言う。

 ニーナがこの情報を知り得た理由も珍しい処刑方法だったために一部で噂になったからだった。


 「四肢をバラバラか…背筋が冷たくなるな」

 「斬り殺されるより惨い死に方だよ」

 「だが、何でテューポンじゃなくエキドナがそんな殺され方をしたんだ?」

 「先にエキドナが殺されたそうだ。テューポンはそれを見せられ、絶望して絶叫したそうだよ。その後、無抵抗になったテューポンは首をはねられた…そう言う末路さ」

 「精神的に責めてからの斬首か。確かに殺し方としては行き過ぎている気がするな」

 「仕方ないさ。ヤツらはこれまでにいくつもの村を襲い罪もない人々を殺して回ったんだ。表向きは傭兵団を語っていても殺人集団と同じさ」


 ちなみにこの処刑は大会が行われた当日に帝都で執行されたらしい。

 民衆の目が大会に集中している期間に行われたのにはどんな意図があったのかはわからないが、全ての実権を握った皇帝の意向だったようだ。


 「残った部下は見世物になったらしい」

 「見世物?」

 「あぁ、大会が行われたコロッセオで定期的に開かれる猛獣ショーさ。部下の男は武器も持たないまま、猛獣と一騎打ちになるようだ。開催は…あぁ、ちょうど我々が化け物に討伐に向かっている頃だな」

 「つまり、明日か明後日と言うわけか」

 「そうだな。万が一にも生き残れはしない死の遊び…そんなところだ」


 罪を犯した者が罰せられるのは仕方のないことだ。

 ただ、その処刑方法によって罪の重さが決められるなら、それは正しいことなのだろうかと疑問に思う。

 僕を襲ったあの場で殺しておけば三人の死に方はもっと安らかなものになっただろう。

 それを選んでしまったのは僕なので仕方がないと言えばそれまでだ。

 この世界では命の重さは現代に比べてかなり軽い。

 そう実感せざるを得なかった。


 僕らは準備の時間を一時間ほど取り目的地に向けて出発した。

 目的地は南西にある森。

 街道からは外れているが南へ遠征する補給路のほど近くにある。

 目的地の森は最近「帰らずの森」と呼ばれている。

 ここ近年、森へ狩猟に入った猟師が行方不明になっていることからこう呼ばれているようだ。

 化け物が確認された時期と符合するかは分からないが、関連性は否定できないだろう。

 御者台にはサフラが座り僕とニーナは中で待機することになった。

 危険が迫ればすぐに飛び出して迎撃できるよう準備を済ませている。

 街道から外れていることもあり近くには多くの亜人が出没するエリアを通らなければならない。

 心なしか荷台を引く馬も緊張しているように見える。


 「ここらはフォーモルの目撃情報がある。注意が必要だな」

 「フォーモルか。まだ相手にしたことはないが…大丈夫だろう」

 「そうだな。オークより少し強力な亜人だが、単独行動が多いから倒すのは難しくない。確か、ハンターが定めている難易度もCランクだったはずだ」

 「それでもCランクか。気を抜くわけにはいかないな」


 Cランクはハンターが一人前と認められる程度の難易度だ。

 ハンダーではない並みの人間なら十数人が武器を持って取り囲み何とか倒せる程度の強さと言われている。

 ただ、フォーモルが恐ろしいのは強靭な腕力だ。

 その力オークに換算すれば倍近くになるらしい。

 常に棍棒を持ち歩き気に入らないモノがあれば破壊する「暴れん坊」として有名のようだ。

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