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シーン 79

しばらく抱き合っていると空気を読まない腹の虫が鳴った。

 こうしたムードをぶち壊す行為は自重したいところだ。

 ただ、生理現象なので抑えることができないのは非常に悲しい。


 「…レイジ、お腹空いちゃった?」

 「あ、あぁ…腹ぺこだ」

 「じゃあすぐに作ろうね。買ってきた物で何ができるだろう?」

 「いろいろ買ったから食材を見て決めようか。そう言えばサフラって料理できるのか?」


 思い付いた質問をぶつけると不意にサフラが目を逸らした。

 それが意味する答えは深く考えなくてもわかってしまう。


 「えっと…出来ないんだな?」


 念を押して確認するとサフラは小さく頭を上下に動かした。

 知識も豊富で運動神経抜群の彼女にも苦手なものがあるらしい。

 これまでの彼女を見ていて完璧超人と羨ましく思っていたが意外にも料理が苦手だとは思いもよらなかった。

 これまで料理の腕を披露する場がなかったから気付かなくて当然だ。


 「じょ、上手になろうと努力はしたんだよ?」

 「何だ、かわいいところがあるじゃないか」


 顔を赤くするサフラを見て微笑ましく思った。


 「か、かわいくなんか…」


 サフラの顔がさらに赤くなった。

 困っている彼女は普段の十倍増しでかわいいと思う。

 もちろん普段も十分かわいいのは言うまでもない。

 ただ、こんなギャップは僕でなくとも好む男は少なくないだろう。

 ニーナのようなツンデレも捨てがたいが今の彼女の方が心に響くものがある。

 彼女の頭に手を伸ばし安心させるよう撫でてやった。


 「いいよ、これから覚えていけば」

 「れ、レイジは料理できるの?」

 「簡単な物ならな。チャーハンとかハンバーグは得意料理だぞ」

 「ハンバーグはわかるけど…チャーハンって?」

 「そっか、こっちにはないんだな。字にすると炒めた飯って書くんだけど、米をフライパンで炒めてコショウと薬味で味付けした料理って言えば伝わるかな?」

 「お米…だよね?じゃあ、サラダなの?」

 「いや、主食だよ」


 こちらではパンが主食に当たるため米はサラダに使われることがほとんどだ。

 そんな常識から米を使った料理と聞いてサラダと勘違いしたらしい。

 

 「うーん、じゃあ今日の晩飯はチャーハンにしてみるか?」

 「いいの?楽しみ~」


 チャーハンを作るにはまず米を炊くところからだ。

 そのため準備には少し時間がかかる。

 出来れば冷蔵庫で保存した冷や飯を使いたいところだがこの際贅沢は言っていられない。

 むしろ、この場合炊きたてのご飯を使う方が贅沢のような気もする。

 雑貨店でオススメしてもらった調理道具の中から土鍋を見つけた。

 蓋がついているため火にかければ米を炊くことができる。

 元々は煮込み料理に使うもののようだ。

 次にフライパンを取り出す。

 中華鍋のように底は深くないが底が平らなので卵焼きを作るに向いている。

 

 キッチンで火を使うには二種類の方法がある。

 一つは炭を使う方法。

 雑貨店に行けば木箱に入った炭を売っているため帝都でなくても簡単に手に入れることができる。

 一般的な料理店や家庭では炭を使うようだ。

 しかし、炭の場合は火加減が難しく慣れが必要になる。

 生前、夏に海でバーベキューをしたことがあり、何度も食材を焦がしたことがあった。

 その経験から炭火の難しさを身に染みて知っている。

 もう一つは烈火石を使う方法だ。

 サフラによればこちらの方が炭よりも炎の管理が簡単らしい。

 イメージとしてはカセットコンロのようなものだと言えばわかりやすいだろうか。

 ただし、炭に比べてコストパフォーマンスは数倍から十数倍必要になる。

 なぜならガスボンベを交換する要領で烈火石を消費するからだ。

 いろいろ悩んだ結果後者を選ぶことにした。


 「うーん…火は烈火石を使おう。今度、露店で見付けたらたくさん仕入れないとな」

 「料理に使うと寿命が短いからね。私のお母さんは炭を使っていたけどたまに焦がしちゃうこともあったよ」


 炭の場合は例え普段から料理をする主婦であっても扱いが難しいらしい。

 やはり烈火石を選んで正解だった。

 準備が終えたところで早速調理に取りかかる。

 洗った米を土鍋に入れて火にかけ最初は強火で一気に炊き蓋のふちにフツフツと泡が出るのを待つ。

 途中で蓋を開けたら美味しいご飯にはならないため蓋を取ろうとしたサフラにもよく言って聞かせる。


 「いいか、ここからが肝心なんだ。米を炊くには忍耐力が必要だ。これがウマい飯を炊く鉄則だから覚えておくように!」


 自動車学校の教官にでもなったつもりで米の炊き方を教える。

 その間に泡が立ち始めた。

 ここから弱火にして五分ほど我慢する。

 五分経てば一応炊き上がってはいるが、ここから火を消して約十分間蒸らす。


 「すぐに蓋は取っちゃダメなの?」

 「できれば取らない方がいい。炊けたらそのままにして少し蒸らすんだ。そうするとふっくら炊き上がるんだぞ」

 「そうなの?何だかいい匂いがしてきたね」

 「あぁ、そろそろ完成だ」


 十分経過して米が炊けた。 

 蓋を取ると視界が真っ白になるほどの湯気が立ち上った。


 「うん、いい出来だ」


 ちなみに、使った米は日本人好みのジャポニカではなくインディカのような細長い形をしたものだ。

 三日月形と言えばわかりやすいだろうか。

 できれば日本人好みのジャポニカを使いたいところだがどうしても見つからなかったため仕方なくと言うのが本音だ。

 それでも炊き上がったご飯は美味しそうでよく見ると米が立っている。


 「うわ~炊けるとこうなるんだね。初めてみたよ」

 「そっか、じゃあ食べた事もないんだよな。一口食べてみるか?」

 「いいの?」

 「これも勉強だ」


 スプーンで一口分だけ掬い手渡してやった。


 「…ん!?美味しい」

 「だろ?噛めば噛むほど甘くなるぞ」

 「本当だ。私、パンよりこっちの方が好きかも」

 「日本じゃ主食だからな。気に入ったなら今度から晩飯はご飯にするか」


 僕としてもパンは嫌いではないがご飯を食べられるならそちらを選びたい派だ。

 どちらかと言えばパンは朝食に留めておき昼と夜はご飯を選びたい。

 これからは自分たちで料理を作るため好きなモノを食べられるからいくらでも融通は利く。

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