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シーン 76

 死闘を演じた大会から早いもので三日が経った。

 今は帝都の宿で午後のゆっくりとした時間を過ごして居るところだ。

 あの日アルマハウドを倒して優勝が決まると会場から僕の名前を連呼するスタンディングオベーションが巻き起こりちょっとした騒動になった。

 観覧席にいたサフラや観客たちが僕を祝福してくれたのは記憶に新しい。


 大会の優勝者には様々な特典と副賞が授与される。

 まずは皇帝直属の精鋭騎士団「フランベルク」への加入権だ。

 ただし、これは強制ではないため丁重にお断りをした。

 次に爵位が授与され貴族の仲間入りを果たした。

 階級は男爵でアルマハウドと同等の権限だ。

 また、貴族になれば納税の免除と選挙への参加が認められ一般市民よりも帝都の出入りが自由に行える。

 納税は収穫期に合わせて毎年秋に行われるが今後は気にする事なく生活できそうだ。

 選挙の参加は立候補と投票権が行使できる。

 こちらはあまり魅力を感じないためアルマハウドと同じように不参加になる予定だ。

 最後に優勝賞金として金貨五百枚を受け取った。

 ちなみに、本来の目的であった身分証は優勝しなくとも手には入ったため管轄する大臣から試合後に証書を手渡された。

 これで念願の家を買うことができる。

 一体どれくらいの予算になるか見当はつかないが今回の優勝賞金とこれまでの討伐で得た報奨金で購入できる範囲の買い物をするつもりだ。


 「レイジ、準備できた?」

 「あぁ、出かけようか」

 「はーい」


 これから僕らは家を探しに行く。

 今回は身分証があるためちゃんと取り合ってもらえるだろう。

 身分証とは別に皇帝から直接もらった男爵の勲章を胸に付けておく。

 決して権力を振りかざしたいわけではないが今は利用できるものは何でも使うつもりでいる。

 そのため普段から常に身に付けておくわけではない。

 賑わう通りを抜け東の居住区画へと移動する。

 途中、胸につけた勲章を見て驚く通行が何人かいたが全て無視しておいた。

 一人一人相手をするのは時間がかかってしまう。

 誰か一人を相手にして「後は知りません!」ではいけないため心を鬼にして突き進む。

 東の区画に入れると通行量は少なくなり煌びやかな衣装を着た富裕層や役人の姿が目立つようになる。

 以前、一度訪れた赤レンガの建物はすぐに見付かった。


 「すみません、家を買いたいんですが」


 受付で声を掛けたのは以前応対したメガネの女性だ。

 何度見ても規則にうるさそうな顔をしているが今はそんなことを気にする必要はない。


 「あら…アナタは確か以前相談された方でしたね」

 「覚えてくれていましたか。それなら話が早い。早速なんですが、身分証が手には入りました。これで条件通りですよね」


 僕は受付に用意しておいた証書を提出した。


 「確かに。そう言えば胸の勲章…アナタがそうでしたか。お噂は聞いていますよ。武術大会を優勝されたそうで、おめでとうございます」

 「ありがとうございます」

 「では早速物件のご案内をさせていただきます」


 大会のことは特に聞かれなかった。

 興味がないと言うより仕事に徹している感じだ。

 女性は物件の情報をまとめたファイルを取り出した。

 厚みは三センチほどあるだろうか。

 紙は高価な代物だけにこれだけでも物凄い価値がある。

 物件自体も高価なため売れた差額から費用を賄っているのだろう。

 一軒ずつ見て回ると思っていたが一度に情報収集できるのはありがたい。


 「ご希望はいかが致しましょう?」

 「なるべく新しい所がいいですね。できれば築五年以内でお願いします」


 条件を出すといくつか候補が挙がった。

 その中から気になったモノを絞っていく。


 「なるほど…家具付きの物件もあるんですね」

 「はい。私どもとしましても、家具付きの物件はオススメしております」

 「確かに一つ一つ揃えるのは大変だしな…。じゃあ、この中から家具付きの物件に絞ってもらえますか?」

 「かしこまりました」


 女性は慣れた手つきで書類を仕分けると四つの候補に絞られた。


 「こちらになります」


 提示されたのは大小様々な物件だ。

 まずは小さいところから見ていく。

 写真やイラストなどはなく案内は全て細かい文字で説明されている。

 それを一つ一つ読み取って頭の中でイメージを膨らませるようだ。

 一軒目は小さいと言っても二階建ての建物で田舎の町長や村長の家が住む規模らしい。

 イメージは最初に訪れたロヌールの町長の家と言ったところだろうか。

 次の物件は三階建てだった。

 こちらも田舎の宿屋ほどあるだろうか。

 ただし、部屋数は全部で五つとなっている。

 よく見ると三回のフロアは一間になっているため主な用途は物置として使うらしい。


 「なるほど…。これは一度見ておく必要がありますね。案内してもらえますか?」

 「かしこまりました。それでは担当の者を呼びますのでお待ち下さい」


 しばらくすると奥から若い男が現れた。

 歳は僕と同じか少し上だろうか。

 好青年だがこの歳で案内役を任されているところを見るとやり手の役人と言ったところだろうか。


 「お待ちいたしました男爵様」

 「いや、レイジでいいよ。歳は近そうだし、気にしないでくれ」

 「そうでございますか?では、レイジ様とお呼びいたします」

 「いや、だからレイジでいいよ。堅苦しいのは苦手なんだ」

 「さようですか。では、レイジさんと呼ばせてください。レイジさんはお客様ですので」

 「わかった」


 案内してくれる男性の名はマルスと言うらしい。

 マルスの案内で一軒目の物件に向かった。

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