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シーン 75

 何とか隙を作ろうと立て続けに弾を放った。

 しかし、何度試しても盾や鎧に阻まれてしまう。

 この状況を打開する方法を見つけなければアルマハウドに勝つことはできない。


 「オッサン…それ反則だから!テイタンの鎧とか酷すぎるって!!」

 「反則ではない。どうだ、そろそろ降参してみるか?」

 「降参か…それも悪くないな。命あってこそだからな。だけど男としてはここで降参して負けるわけにはいかなくてね。俺を信じてるヤツのためにも負けられない!」


 脳裏にサフラの顔がよぎった。

 生きて帰るのは絶対条件だが一撃も決定打を与えられないまま負けるのはこれまでの戦いで散った参加者の思いを踏みにじるようで許せない。

 勝つことは無理でも善戦したと思ってもらえるような戦いをこの会場にいる人たちに見せたいと言う気持ちが心を支配している。


 「その心意気は買ってやろう。だがその程度でこの私は倒せんよ」

 「それは勝ってから言うんだな!」


 振り上げた大剣が一気に振り下ろされた。

 見えないスピードではないため避けるのは難しくない。

 しかし、油断をして少しでも身体に触れればそれだけで致命傷になるだろう。

 まともに受ければ即死は免れない。


 「さすがに素早いな」

 「避けなければ死ぬからな。必死にもなるさ」

 「ならば…当たるまで繰り返すだけだ!」


 再び剣を振り上げた。

 構えも同じだ。

 この間に攻撃を仕掛けるしかない。

 アルマハウドの動きを観察するとあるモノが目に入った。

 それは鎧の継ぎ目にできたわずかな隙間だ。

 よく見ると腹部の隙間が一番大きく開いている。

 甲冑と言っても完全に身体を密閉しているわけではない。

 しかし、剣が振られて体勢が元に戻ると継ぎ目の隙間は隠れてしまった。


 「うむ…素早さだけなら私以上か」

 「オッサンも十分早いよ。ウェアウルフには劣るがな」

 「ウェアウルフか。確かにヤツらは素早いが力は私に到底及ばない。動きを止めてしまえば造作もない相手だ」

 「やっぱりドラゴン相手に商売をしてるヤツは言うことが違うな」


 話を交えながらも攻撃の手は休まることがない。

 アルマハウドは再び剣を構えて振り上げた。

 先ほど見つけた腹部の隙間も確認できる。

 チャンスは今しかない。

 僕は神経を研ぎ澄まして銃口を向け引金を引いた。


 「そこだ!」


 盾の隙間を縫って弾が奔っていく。

 次の瞬間、弾は針の穴ほどしかない鎧の隙間を捉えた。 


 「こ、小僧…」


 狙い通り弾は隙間に命中している。

 アルマハウドは剣を振り上げた体勢こそ崩していないが相応のダメージはあったはずだ。

 これで倒れないところを見ると見た目通り化け物並みの生命力を持っていることがわかる。


 「油断したな」

 「まさか隙間を縫って撃ち抜くとは…しかし、この程度では私は倒れぬぞ!」


 鎧の隙間からわずかに血が流れ出している。

 しかし、それでも気にせず剣を振り下ろしてきた。

 おそらく並外れた精神力で痛みを押さえ込んでいるのだろう。

 鍛え上げられた筋肉の塊とも言うべき身体は凶器そのものだ。

 アルマハウドは全身に力を込めると筋肉が収縮する力を使って無理やり止血をした。

 これなら出血多量の心配をすることはない。

 血の滲むような努力と経験に基づいた無駄のない動きだ。


 「不死身かよアンタ!」

 「この程度の傷、ドラゴンどもの攻撃に比べればかすり傷だ。骨身を砕く一撃でなければ私は倒れんぞ!」


 全面を覆う盾に遮られ表情までは見ることができない。

 しかし、機敏な動きは攻撃を受ける前とあまり変化がなかった。

 むしろ、怒りで痛みを忘れているようにも見える。

 振り上げた大剣は先ほどにも増して早く振り降ろされた。

 ただ、それでも見切れない速さではない。

 僕は後ろに飛んで攻撃をやり過ごした。

 剣先から巻き起こる風圧で地表近くの塵芥が巻き上げられ視界が霞んでいく。

 


 「…あぶねぇ。どこにそんな力があるんだ!?」

 「うぬ…また避けられたか。ちょこまかと鬱陶しい」


 アルマハウドは少しイライラしているようだ。

 心なしか攻撃も正確さを欠いているように見える。

 どうやら腹部に受けた傷がジワジワと効果を上げているようだ。

 いくら鋼の肉体を持つ彼でも長い間戦い続けるのは精神的に厳しいらしい。


 「イラついているな?」

 「…仕方がない。貴様が強い事は認めよう。だが私の本気がこの程度だと思うなよ!」


 アルマハウドは剣を振り上げて下ろすだけの攻撃から一転して距離を縮めてきた。

 巨体が地面を蹴るたびに砂煙が舞いあがりガシャガシャと言う鎧の音とともに迫ってくる。

 超重量の装備を身に纏っているとは言え僕に迫るスピードで一直線に向かってくる姿は恐怖すら覚えるほど迫力のあるものだ。

 そして、全力疾走の勢いを乗せた大剣は思い切り真横に振りぬかれると僕の数センチ手前を通過していった。

 少し遅れて突風のような風圧が襲ってくる。 

 ちょうど猛スピードの大型トラックがすぐ近くを通り過ぎた時の感覚だ。

 大型トラックがぶつかれば生身の人間などひとたまりもない。

 どうやら彼の一撃はそれに匹敵するほどの威力があるらしい。


 「甘い!」

 「!?」


 剣戟を避けたところで予想もしていない攻撃が飛んできた。

 左手に構えていた盾をブーメランのように投げ付けてきたのだ。

 想像すらしていない攻撃に対応が遅れて直撃をしてしまった。

 身体でまともに受けたため受身も取れずに後方に吹き飛ばされ全身に痛みが走る。

 しかし、骨折をするような深いダメージには至らず打撲程度の軽症で難を逃れた。

 身体の内側に痛みは感じないため内臓や骨は無事のようだ。


 「戦いと言うものは常に優位に立つ者の独壇場だ。貴様はまだ戦士としては未熟だな」

 「…言ってくれるぜ。まったく、盾ってのは身体を守るためのものだろう?」


 痛みに耐えながら立ち上がったものの足に力が入らない。

 受けたダメージは猛スピードで突っ込んでくる原付バイクと正面から衝撃したのと同じくらいだろうか。

 転生前の身体なら全身がバラバラになるような痛みでしばらく動けないはずだ。

 ただ、この身体でも下手をすれば打ち所が悪くて死んでしまう可能性もある。

 頑丈な身体に生まれ変わったとは言え痛いものは痛い。


 「まだ立ち上がるか。この程度では足りないらしい」


 この身体では次の攻撃を避けるのは難しい。

 大剣で斬り付けられれば身体が真っ二つになるだろう。

 同じように盾を投げつけられても起き上がれる自信はなかった。

 そうなれば次の攻撃を受ける前に倒さなければ僕の負けとなる。


 「悔しいな…あとちょっとなのに…」

 「悔しがることはない。貴様はよくやった。敬意を表し私の最高の技で貴様を倒すとしよう」


 そう言うとアルマハウドの構えが変わった。

 腰を低くして剣先は地面に突き立てられている。

 

 「何のつもりだ?」

 「直にわかる。だが、わかった時はお前が死ぬ瞬間だ」


 不気味な構えだった。

 言葉の通り近付けば簡単に殺されてしまいそうな凄みがある。

 しかし、アルマハウドがいくら化け物じみた肉体を持っているとしても不死身と言うわけではない。

 銃弾が通用しないのは彼が着ている鎧が問題だ。

 鎧さえ貫通する強力な銃があれば撃ち倒すことができる。

 それさえあればこの状況は一変するはずだ。


 僕は銃に願いを込めた。

 求めるのはあの鎧すら貫く強力な銃だ。

 銃は僕の思いに呼応すると眩い光を放ってその姿を変えた。

 現われたのは銃身の長い回転式の拳銃だ。

 しかし、その大きさは通常のモノとは異なり一回り大きく作られている。

 そして、この銃には見覚えがあった。

 世界最強の拳銃と言われる「M500」つまりマグナム銃だ。

 この銃は口径が大きく「.500S&Wマグナム弾」と言う強力な弾を発射することができる。

 ただし、この銃は射手のことを考えて開発されておらず連続して十発ほど撃てば手が痺れ文字を書くこともままならなくなると言う。

 最悪の場合使用者に後遺症が残ることから欠陥銃と呼ぶ者もいるが事実上最強の拳銃としてその筋では有名な化け物銃だ。


 「また形が変わったか。だがいくらやっても同じことだ!」

 「…アンタ、楽しかったぜ!」


 鞭を捨て両手持ちで銃を構えた。

 おそらくオリハルコンの能力で発射時の衝撃は全て無効化されているはずだ。

 しかし、生前の記憶からこの銃を片手持ちで使うのはさすがに気が引ける。

 「ハンドキャノン」の異名を持つこの銃は片手で撃てば手首を脱臼し下手をすれば腕の骨が折れることもあるのだから。

 狙いを定め走ってくるアルマハウドに向けて引金を引いた。

 予想通り発射時の反動はない。

 さすがは神様がくれたチート武器だ。

 これまでと同様に重さも反動も弾の制限もない。

 銃身からは発射時に噴出した大量の火炎ガスがあがり花火を打ち上げたような爆音が会場に響いた。

 それと同時に彼に向けられて放たれた一撃はテイタンの鎧を貫いた。


 「…き、貴様…」

 「驚いたろう?いや…俺も驚いたが…」


 実際、資料でしか知らない銃だったがその威力は想像の遥か右斜め上を行っていた。

 撃たれたアルマハウドを見ると腹部の装甲に親指大の穴が開いている。

 そこから噴出した血の量は先ほど拳銃で与えたダメージとは比べ物にならなかった。

 どうやら貫通した弾が内臓まで達したらしい。

 背中には弾が貫通してできた穴もあった。

 元々この銃は熊を殺せる威力を持っている。

 いくら鎧を着た人間とは言え無事で済むはずがない。

 ましてや数メートルしか離れていない至近距離なら貫通力も凄まじく腹部に受けた衝撃は想像を絶する痛みになったことだろう。

 さすがのアルマハウドもこれには堪えきれず膝を突いた。


 「わ、私が膝をつくとは…」

 「アンタはよくやったよ。むしろコイツを受けて生きているなんて信じられないぞ」

 「…ちッ、身代わりのコインが割れたようだ。この試合、貴様の勝ちと言うわけか…」


 アルマハウドは剣を背負い両手を挙げて降伏した。


 「し、勝者、レイジ!優勝はレイジ選手です!!」


 運営委員長が試合終了を告げると会場にどよめきが広がった。

 それと同時に半数近い観客が立ち上がり一斉にスタンディングオベーションが始まった。

 それを聞いてようやく長い死闘が終わりを告げたことを知った。

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