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シーン 66

 銅鑼の音と共に予選が終了した。

 本選へ勝ち進んだのは僕を含めて十名。

 予想していた通りクオルとニーナの姿もある。

 残った参加者の中には懐かしい顔もあった。

 初めて訪れた町のローヌルで出会ったハンターのマリオンだ。

 マリオンは僕の顔を見つけると律儀に頭を下げてきた。

 言葉は交わさなかったがあれから変わりないらしい。

 他にも前日に気になった四名も含まれている。


 「これより本選の組み合わせ抽選会を行います。では、こちらへお集まりください」


 抽選は番号が書かれた棒を箱から引く方法で行われる。

 公平性を保つため僕らの周りを運営委員が取り囲んで眼を光らせた。


 「では、一斉に引いて下さい。どうぞ」


 運営委員長の合図で棒を引いた。


 「それではこちらで確認いたします。他の方と番号を交換しないようにして下さい。もし不正が見付かればその時点で失格とします」


 運営委員長は一人一人の番号を確認すると組み合わせボードに数字を書き込んでいった。

 ちなみに僕が引いた数字は三番なので対戦相手は四番を引いた人物になる。

 確認作業が終わり全員の番号と名前がボードに書き込まれた。

 初戦の組み合わせはニーナとピュレーでいきなり女同士の戦いだ。

 ピュレーは「ダブルバンド」と言う見慣れない弓を使う。

 先ほどの予選では戦っている姿を見ていないためどのような戦術を取るのかとても興味がある。


 次の対戦は僕とガウエスで奇術師を自称する四刀流の男だ。

 改めて顔を見ると整った顔立ちで鼻が高く彫りが深い。

 髪は肩まで伸びた茶髪でほどよく筋肉がついた身体はスポーツ選手のようだ。

 しかし、外見から受ける印象とは裏腹にどうやら内面まではイケメンではないらしい。

 先ほどから対戦相手の僕を見下している感がある。

 見下されているのは癪だが慢心と油断を突けば戦いを有利に進められるだろう。


 三戦目はクオルとバリージェイ。

 ハンターとバウンティーハンターによる対戦だ。

 バリージェイは「バトルアックス」と呼ばれる巨大な斧の使いで腕力には相当の自信を持っているらしい。

 過去の大会でも優勝こそないものの本選へ出場する常連だ。

 熊のような大柄の身体と斧の組み合わせは彼を人間なのかと疑いたくなる。

 クオルと身長を比べても頭一つ以上違うため存在感は圧倒的だ。

 四回戦はホリンズとマリオン。

 ホリンズはローブを纏った小柄の男だ。

 予選では乱戦に乗じてハチマキの横取りに成功して本選の出場を決めたため実力のほどはよくわかっていない。

 対するマリオンは先端が三つ叉になった「トライデント」と呼ばれる特殊な槍を使う。


 最後はアルマハウド男爵とグラウドン。

 優勝候補の対戦相手はハンターギルドでも有名な怪力自慢の大男だ。

 ちなみに三回戦目に登場するバリージェンとは兄弟でこちらが弟になる。

 また、彼は「モーニングスター」と呼ばれる巨大な鉄球を武器にしている。

 鎖の先端にスイカほどある鉄球が繋がっているためどうやら振り回して使うらしい。

 「竜殺し」の異名を持つアルマハウド男爵に対して挑戦者がどのような戦いするのか参加者からも熱い視線が注がれるのは間違いない。


 「以上が組み合わせになります。それでは一回戦を行います。両者は準備を済ませ入場してください」


 ニーナは落ち着いた様子で準備を済ませ会場へ向かっていった。

 対するピュレーも弓と矢筒を肩に担ぎ、腰には剣を差している。

 両者は会場の声援に迎えられ互いに武器を構えて開始の合図を待った。


 「それでは一回戦…始めッ!」


 運営委員長の合図と共に銅鑼の音が鳴り響いた。

 沸きあがるような歓声の中、先に仕掛けたのは弓を構えるピュレーだ。

 手元を見ると二本並列に張られた弦にそれぞれ矢が継がれている。

 彼女の弓は弦が二本張られた特殊な弓なので一度に二本の矢を放つことができる優れものだ。

 ピュレーは狙いを澄ませ一気に二本の矢を放った。


 「甘い!」


 ニーナは飛んでくる矢を剣で薙払った。

 彼女には飛んでくる矢が見えているらしい。

 正確に真ん中を切り落とし涼しい顔をしている。

 これを見る限り何本矢を射かけてもピュレーに勝ち目はないだろう。


 「やはり噂に違わぬ実力のようね。安心なさい、ひと思いに殺してあげるわ」


 急にピュレーの雰囲気が変わった。

 無表情な顔は一変し顔には青筋が浮かんでいる。

 ちょうど、日本の神話に登場する醜女(シコメ)を思わせる顔つきだ。

 鬼のように顔を赤らめて興奮する姿はまるで別人で、見ているこちらも嫌悪したくなる。

 元が美人だっただけに、この変貌ぶりは少し驚いた。

 しかし、ニーナは至って冷静に剣を構え左手を腰のポシェットの中に滑り込ませている。


 「命乞いをしたければ今のうちよ。私はこう見えて慈悲深いのだから」

 「酷い面をしてよく言えたものだな。その言葉がハッタリでないならさっさと矢を射かけて来い!」


 ニーナは神経を逆撫でするように挑発的な口調でピュレーを焚き付けた。

 ピュレーは元々プライドが高い性格のようで、醜いと言われて逆上したのか、彼女の顔がさらに赤くなっていく。

 ついには怒りに我を忘れ冷静さを欠いて一本の矢に二本の弦を継ぎ思い切り引き絞って放った。

 これはこの弓の特徴でもある。

 二本の弦を使って反発力を増幅させることで放たれた矢は先ほどの倍近い速さで空を切った。


 「はあああぁッ!」


 ニーナは雄叫びをあげると飛んでくる矢を片手で切り落とした。

 空中で真っ二つになった矢はそのまま地面に落ち乾いた地面から微かに砂埃があがる。

 それを見てピュレーは唖然して思考と動きを止めた。

 ニーナはその一瞬の隙を見逃さずポシェットの中から投擲ナイフを取り出して投げつけ一気に攻勢をかけていく。

 ピュレーは思わぬ反撃に体勢を崩しながらも紙一重でかわし数歩下がって距離を取った。


 「ば、バカな…避けるならまだしも、叩き落としただと!?」

 「確かに速いが見切れない速さではない。相手が悪かったな」

 「ならば…斬り伏せるのみ!」


 ピュレーは弓を捨て代わりに剣を抜いた。

 剣は「レイピア」と呼ばれる先の尖った突き刺し用の武器だ。

 この剣の特徴は斬ることよりもリーチを生かした素早い突き攻撃に優れている。

 形状がフェイシングに使う剣に似ているが競技用のものとは違い殺傷力は比べ物にならない。


 「苦し紛れに剣を使うとは…ダブルバンドの名が嘆いているぞ?」


 それを見たニーナは少し呆れ気味だった。

 もはや勝負はついたと思っているのだろう。

 実際、いくら素早い突きが繰り出せると言っても先ほど放たれた弓の速さを超えることは不可能だ。

 しかし、ピュレーは剣の扱いに自信があるのか聞く耳を持とうとはしなかった。


 「期待はずれかどうか…その身に刻んでくれる!」


 ピュレーは剣を構えたまま一直線に駆け出すと一気に距離を詰めた。

 対するニーナは避ける素振りも見せず剣を握り直して迎え撃つ体勢に入る。

 直後、剣と剣が交わると高い金属音が会場にこだました。


 「…やはりこの程度か。アンタの舞台はここで幕引きだよ!」


 ニーナは交差した剣を力強く振るうとその勢いでピュレーは剣を弾き飛ばし切っ先を喉元に突きつけた。

 この間、瞬きをするほどのわずかな時間だ。

 僕にはその一部始終がはっきり見えていたが素人には何が起こったのかわからなかっただろう。

 気づいた時には勝負がついていたと言っても過言ではない。


 「さて、これでおしまいだ」

 「くッ…私は…負けるわけには…」

 「往生際が悪いな。まあ、そう言うところ嫌いじゃないけれど、相手が悪すぎたんだよ」


 ニーナは一瞬だけ目を瞑ると刀身が青い光に包まれた。

 そして、そのまま空を斬るように剣を振ると青い光がピュレーを包んでいく。


 「な…ッ」

 「命までは取らないよ。強くなって出直しな」


 青い光は波となって襲いかかりピュレーの身体を凍結させた。

 光が奔った瞬間、会場を包む空気が少し冷たく感じた。

 どうやら光に見えたモノは冷気だったらしい。

 クオルが使うブレイズソードとは対照的な能力だ。

 ピュレーは冷気に包まれると全身が氷漬けになって動かなくなった。

 季節はずれの氷像になったピュレーを見てニーナは剣を鞘に収めた。


 「そこまで!勝者、ニーナ」


 決着を告げるアナウンスと共に銅鑼の音が鳴り響いた。

 試合内容は危なげない一方的な展開だ。

 涼しい顔をしているところを見るとまだ実力を出し切っていないらしい。

 飛んでくる矢を切り落とす技術も凄いが手にしている剣の能力は凄まじいものがある。

 一瞬で氷漬けされては逃れようがない。

 そのまま氷漬けの身体を砕かれればひとたまりもないだろう。

 観客の大声援を受けながらニーナは会場を後にした。

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