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シーン 64

 一日を費やしてようやく会場となる交易都市に辿りついた。

 時刻はもう夕方だが日没まではもう少しと言ったところだ。

 町は大会が近いため活気に溢れており帝都と遜色がないくらいの人ごみだった。

 元々この町は国作りの基礎になった場所で今から数十年前にはこの場所が帝都とされている。

 ちなみに現在の場所に帝都が移ったのは二世代前の皇帝の時代だ。

 遷都の理由は増え続ける人口対策と当時の皇帝の権威を示すもので構想から十数年で移動が完了したと言う。

 これほどの事業を成功させれば死後も後世に名前を残すことが出来る。

 感覚としては時の権力者がピラミッドや古墳を建設したのと同じ気持ちなのだろう。


 この町が交易都市と呼ばれるのは各地から数多くの交易品や特産品が多く集るからだ。

 露店の数だけ見れば帝都よりも多い。

 しかし、店の形態を見てもわかるように事業者に向けた問屋が多イメージだ。

 ただ、業者向けと言っても一般客も買い物をすることはできる。


 僕らはまず馬車を預けて身軽になり宿を取って会場となるコロッセオに向かった。

 大会の会場となるコロッセオは町の中心部にあるため見つけるのは簡単だ。

 会場に向かったのはエントリーの最終確認と参加者の動向を調べる目的がある。

 受付の近くには様々な武器を手にした男女で溢れかえっていた。

 この大会には特に参加基準は特に設けてはいない。

 つまり参加の意志さえあれば年齢や性別は問われないため毎年多くの希望者が殺到する。

 多くの参加者は皇帝の元で働きたいと希望する者ばかりで、僕のように身分証を目的としているのは少数派のようだ。


 「たくさん居るね」

 「武器を持っている連中はみんな参加者だろうな。身なりからしてハンターかバウンティーハンターと言ったところか」

 「あッ!あれって、ニーナさんじゃない?」


 サフラは人混みの中からニーナの姿を見つけた。

 どうやらエントリーの確認をしているらしくこちらにはまだ気付いていないようだ。

 特に声を掛けることもなく視線だけを送っていると気配に気が付いたのかニーナがこちらに振り向いた。


 「レイジ、サフラちゃん!」


 ニーナは手を振りながらこちらに歩いてきた。

 お互い物別れになっていたが今の彼女を見る限り気にしている様子はない。

 むしろ以前にも増して好意的な笑みを浮かべている。

 どちらかと言えば気にしているのは僕の方なのかもしれない。


 「奇遇だな」

 「あぁ、久しぶり…と言うわけではないか」

 「こんにちは、ニーナさん」

 「こんにちは。相変わらずサフラちゃんは可愛いね。それに以前より少したくましくなったみたいだね」


 ニーナはサフラに抱きつくような素振りを見せたため慌てて間に入った。

 どさくさに紛れて彼女を拉致されかねない。


 「まったく…相変わらずだな。受付をしていたところを見るとお前も参加するんだろう?」

 「あぁ、そう言うレイジも参加するんだろう?」

 「そうだな。ただ、お前と違って優勝に興味はないよ。適当に勝って身分証を得られればいいからな」

 「ん?身分証目当てか。君には欲がないのか?」


 ニーナに意外そうな顔をされた。

 ほとんどの参加者が優勝を目指しているため当然と言えば当然だ。

 ただ、何と言われようと今回の目的は身分証を獲得することなので考えを変えるつもりはない。


 「説明を聞いたけど、優勝すれば皇帝直属の部隊へ加入しなきゃいけないんだろう?そんなの俺の望どころじゃないからな」

 「ふむ、確かに副賞として直属部隊への加入権利が得られる。ただ、一つ間違えないでもらいたいのは権利であって強制ではない。それに参加者が目の色を変えているのは皇帝陛下から与えられる「権限」の方だよ」

 「権限?」

 「あぁ、まず爵位が与えられるんだ。爵位持ちになれば貴族として扱われるから国の中での地位も高くなる」

 「だけど、何か制約があるんじゃないのか?」

 「いや、希望しなければ肩書きだけと言うことも可能だ。それでも爵位で得られたら地位や権利は保証されるんだ」


 ニーナによれば爵位を得られれば庶民と比べて飛躍的に生活が楽になる。

 得られる爵位にもよるが行使できる権限は貴族と変わらないため納税の免除や選挙権の獲得なども認められるようだ。

 選挙権とは各種大臣や要職を決める選挙のことでいわゆる直接選挙のことを指している。

 立場としては国会議員のようなものだろうか。


 「で、お前は貴族にでもなろうってのか?」

 「なれるものならね。まあ、今年は猛者揃いだから優勝は難しいと思うが…」


 ニーナが視線を逸らすと会場にいたある男に向けられた。

 そこには背中に幅の広いツーハンデットソードを背負った騎士が立っている。

 ただし、一般的なツーハンデットソードよりも刀身が分厚くおよそ人間が扱えるような代物ではない。

 どちらかと言えば剣と言うより金属の柱のようだ。

 チラリと見える刀身は黒色なのでおそらくテイタン製だろう。


 「物騒な剣だな。アイツに何かあるのか?」

 「彼はアルマハウド男爵。「竜殺し」の異名を持つ化け物のような人物だ。ちなみに前回、前々回の優勝者でもある」

 「竜殺しって…。そんなことより爵位持ちでも参加できるのか?」

 「爵位持ちはおろかその気になれば皇帝陛下でも参加出来るさ。以前、皇帝自ら参加したことがあるから間違いはないよ。まあ、当時は先代が生きていた頃だから正式に皇帝として認められる前だったがね」


 アルマハウドと言う男は無類の戦闘狂としてその筋では有名な人物らしい。

 自分の身長ほどある大剣を軽々と扱い一振りでオーク数体を八つ裂きにすると言われる。

 実際に前回の大会では対戦相手のほとんどを瀕死に追い込みその戦闘能力は比較対象を挙げるのが難しい。

 通り名である「竜殺し」は過去に討伐した飛竜(ワイバーン)をたった一人で狩ったことからこの名で呼ばれるようになった。

 彼は男爵の爵位を持ちながらその権限をほとんど利用していないことでも知られている。

 事実、彼は以前行われた選挙を欠席し一人でエルフの討伐に出かけていたようだ。


 「他にも居るぞ。アイツは「奇術師」を自称するバウンティーハンターで「ガウエス」と言う男だ」


 視線を移すと腰に四本の剣を差した長髪の若い男が居た。

 人心を操る技術に長け「奇術」と呼ばれる方法で相手を倒すと言う。

 また変幻自在の剣は見切るのが不可能とまで言われるらしい。


 「そこから視線を右に移してみろ。妙な弓を持った女が居るだろう。ヤツはハンターの「ピュレー」ち言う。あの弓は「ダブルバンド」と言うらしい」


 ダブルバンドは弦が二本張ってある弓で同時に二本の矢を射ることができる。

 弓自体は和弓のような長大な物ではなくコンポジェットボウと呼ばれる小型の弓を改良して作ったものだ。

 また、二つの弦で一本の矢を射ることもでき、それによって得られる貫通力はプレートアーマーを貫通するとまで言われている。

 二本の弦を使えば飛距離が飛躍的に伸びるため遠距離からの狙撃は脅威になる。


 「じゃあアイツは何てヤツだ?おかしなローブを着てるヤツだ」


 目に入ったのは全身をローブで覆った小柄の人物だ。

 フードを被っているため表情まで見る事はできないものの体格や雰囲気から女性ではなさそうだ。


 「アイツは知らない顔だな。大方、田舎からやってきた素人だろう」

 「素人…俺にはそんな風に見えないがな。まあ、お前が知らないってことは無名なんだろうな」

 「何だ、アイツに興味があるのか?」

 「いや、アイツから微かに人並みならぬ殺気を感じるんだ。ローブで姿を覆っているとは言え俺が見るに相当の使い手かもしれないぞ」

 「殺気か。確かに微かだが感じるな。しかし、脅威と言うほどの気迫は感じないぞ?」

 「能ある鷹はってヤツだろ?まあ、完全に隠しきれていないし、試合前で気持ちが昂ぶっているんだろうな」


 気配に意識を集中すればそこら中で殺気を感じることができる。

 どうやら殺気を放って牽制しあっているようだ。

 他にも気になる人物がいたが会場にいる参加者でめぼしいのはこの四人くらいだろうか。

 あとは多めに見積もってもオークかトロール程度の実力の者ばかりだ。


 「そうだ。レイジ、身代わりのコインと言うモノを知っているか?」

 「エルフが使うルーンが刻まれたミスリルのコインのことか?」

 「知っていたか。あれは便利なものだ。大会への持ち込みも特に禁止されていない。死にたくなかったら一枚持っておくといい」

 「この町でも手に入るのか?」

 「あぁ、風変わりな商人が露店を開いている。私もソイツから買った。ただし気をつけることだ。模造品も数多く出回っているからな」

 「どう見分けるんだ?」

 「まずはルーン文字の違いだな。魔力によって刻まれているから、塗料で上から塗ったものとの明らかに違う。あとは音で調べる方法もある。ミスリル銀は鋼鉄よりも甲高い音が鳴るんだ。まあ、慣れが必要だから素人には難しいかな」

 「なるほどな」


 納得はしたが疑問が解決したわけではない。

 直接現物を見て判断するしかなさそうだ。


 「それはそうと珍しいものを持っているな。そういえばケルベロスを全滅させた若い男の冒険者の噂を聞いたが…まさかレイジではないよな?」


 ニーナは僕の腰に掛けてあった鞭のことを言っているようだ。

 特に隠す必要はないため素直に答えることにした。


 「そのまさかだ。これはエキドナが使っていた物だよ」

 「なるほど…ギルドでも手を焼いて相手を一人でとは…」


 ニーナは感心を通り越して少し呆れていた。

 僕の実力はバレルゴブリンの一件で一応理解していたはずだがあの時は後方支援に徹していただけなので言ってみれば全力で戦っていたわけではない。

 むしろニーナの引き立て役だったのだから。


 「それはそうと、お前もその剣は使いこなせるようになったのか?」


 脇に差しているのは以前オークションで手に入れたミスリル銀の長剣だ。

 よく見ると柄頭には装飾品の青い宝石も埋め込まれている。


 「それなりにな。まだ全力を出す相手と出会ったことがないのが悩みの種だよ」

 「物騒なことを言うんだな」

 「ふふッ、君となら全力を出せそうだよ」

 「やめてくれよ。できれば戦いたくはないさ」

 

 それを聞いて瞳の奥が光るのを感じた。

 新しいおもちゃを手に入れてはしゃいでいるようにも見える。


 「順当に勝ち残れば君と戦えるんだろう?これを喜ばずして何と言う」

 「結局お前も戦いたいだけか」

 「おいおい、私をクオルと一緒にしてもらっては困るよ。ヤツは根っからの戦闘狂だが私が興味あるのは強い男だけさ。ザコには興味ないよ」

 「大して変わらないだろ」

 「ふふッ。それにしても、クオルの持つ「ブレイズソード」には気をつけることだ。気を抜けば一瞬で灰になるぞ」


 クオルの持っている剣は正式名称をブレイズソードと言うらしい。

 ブレイズとは炎と言う意味なので直訳すれば炎の剣と言ったところか。

 一度使っているところを見ているだけに脅威であることは間違いない。

 使用者の力を高める能力もあるためまともな剣の撃ち合いでは押し負けるだろう。


 「お前はどっちの味方なんだ?」

 「私か?私は可愛い子の味方だよ。君が負ければサフラちゃんが悲しむからね。そうだろう?」

 「大丈夫です、レイジは負けませんよ。私が保証します」


 サフラは胸を張って答えた。

 今日ばかりは彼女の背中が大きく見える。


 「なるほど、サフラちゃんが勝利の女神か。それは適役だな。しかし大会で対戦するとなれば私も手を抜かない。覚悟するんだな」

 「それはお互い様だろう?命を奪うことになっても後で怨まないでくれよ」

 「それは恐ろしいな。明日が楽しみだ」


 恐ろしいと言うわりには笑みを浮かべている。

 何を考えているかわからないのは出会った頃と変わらないようだ。

 彼女自身「飄々」と言う言葉がよく似合う。

 風の吹くまま気の向くまま、どこへとも知れず、一方的に別れを告げると雑踏の中へ消えていった。

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