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シーン 55

 物件探しはまず情報収集から。

 この世界には不動産屋がないので所有者を紹介してもらい一軒ずつ見て回らなければならない。

 それには町の事情に詳しい人物を見つけることが先決だ。

 まずは身近な町の人と言うことで宿の主人に話を聞いてみた。

 主人によれば東の居住区画を管理しているのは「フマフ」と言う上流貴族らしい。

 また、フマフの従える下級貴族、町を直接管理する高官、区画管理を担当する役人と言う縦割りの組織構造だ。


 直接フマフに話を通せれば言うことはないが貴族とは面識もなしに面会はできない。

 その部下である下級貴族と接触するにもフマフ程ではないがなかなか難しいだろう。

 現実的なところで言えば区画管理を担当する役人に事情を説明して上司にお伺いを立てると言うのが近道だろうか。

 役人は居住区画にある管理事務所にいるらしい。

 役人の役割は区画内で揉め事が起こった際に彼らが仲裁することになっている。

 仕事の一つに治安維持の役割もあるようだ。


 「アレ?今日は起きるの早いね」


 いつも時間に目覚めたサフラがベッドから身体を起こした。

 少し寝癖のある髪が愛らしい。

 まだ眠たいのか目を擦りながら大きく伸びをした。


 「あぁ、宿の主人に話を聞いてきたんだ。居住区画に区画管理の仕事をしている役人がいるらしいんだ。そこから上司に話を付けてもらった方が近道だろうってさ」

 「そうなの?その人にはいつでも会えるのかな」

 「時間については指定がなかったからたぶん大丈夫だと思うぞ。ダメでも町の中なんだから何回か足を運べばいいよ」


 朝食と身支度を済ませると早速町の東にある居住区画に向かった。

 東の地区は西や南とは違い旅行者や行商人の姿はほとんど見られない。

 代わりに煌びやかな衣装を身に着けた貴族や富裕層の姿が目立った。

 僕らの服装は旅人特有の物なので浮いてしまい嫌でも彼らの視線を集めてしまった。

 あまり注目されるのは気分のいいものではない。


 「何か場違いな気がしてきたな」

 「うん…白い目で見られてる…よね?」


 そんな独特な雰囲気の中を抜け目的の役人が居る建物を目指した。

 建物は赤レンガ造りの二階建てで間口が広い造りになっている。

 外観は一見すれば警察の駐在所とよく似ていた。


 「すみません、こちらで区画管理を担当していると伺ったのですが?」

 「えぇ、そうです。どのようなご用件でしょうか?」


 対応してくれたのは銀縁メガネを掛けた中年の女性だった。

 体型は歳相応で痩せているわけでも太っているわけでもない。

 不思議と顔が気難しそうに見えるのは役人と言う職業柄からだろう。

 僕は役人と言う立場の人に対してあまり良い印象を持っていない。

 一応、この世界で役人と話すのはこれが初めてなので、この偏見は前世のものを引きずっている。


 「この町に家を買いたいと思いまして相談に来ました」

 「そうですか。では、身分を証明できる物をご提示ください」


 僕はリュックの中から通行証とハンターギルドの紋章を差し出した。

 女性はそれを見て少し怪訝そうな顔をしている。


 「失礼ですが、身分を証明できる物はこの他にございませんか?」

 「えぇ…何か足りませんか?」


 女性はメガネの縁を右手の中指で押し上げ少し眉間にシワを寄せた。

 おそらく無意識の癖なのだろう。

 ただ、見慣れていない僕らにすれば感じが悪く見えてしまう。

 その行動は気難しい雰囲気をさらに強調する結果となった。

 家を買うにはこれとは別の身分証明証が必要のようだ。

 女性は一呼吸おいて家を買うための手順を教えてくれた。


 「帝都に居を構えるには身分証となる証書が必要になります。ご提出をいただいた物は通行証になるのでこちらでは受理することが出来ません」

 「その身分証と言うのはどうすれば申請出来ますか?」

 「方法はいくつかあります。一つは一定の税金を一年間以上収めることです。税の徴収は所定の機関が定期的に行っていますが、身分証を発行するための金額は概ね金貨二枚程度と定められています。それを毎月続けなければなりません」

 「それは今から一括でお支払いして一年分免除してもらうことはできませんか?」

 「それは出来ません。中にはアナタのように申請を希望される方もいらっしゃいますが、これは申請者の収入や信用を精査するために設けれた条件になります」


 話を整理すると納税の義務によって毎月金貨を二枚ずつ納めなければならない。

 それを最低一年続けるには相当の財力が必要だ。

 つまり一朝一夕では申請が出来ない仕組みになっている。

 それに、金貨二枚と言う額は一般庶民から見た場合は到底続けて支払える金額ではない。

 地方の村や町なら一年間人並みの生活ができるほどの金額だ。

 先ほど見た居住区画の雰囲気からわかるようにある程度の資産と仕事をしていなければ身分証を取得できないようになっている。

 おそらく旅人や浮浪者をふるいにかけるため制限を設けているのだろう。

 そうなるとこの手段での身分証の取得はあまり現実的ではない。


 「他にはどのようなものがありますか?」

 「この他ですと、すでに身分証を取得された方と婚約をして身分証を分与する方法があります」

 「婚約…」

 「他にも二つの方法があります。一つは帝都へ貢献する方法です。具体的にはハンターギルドに依頼のあった対象の退治です。こちらは貢献度と言う点数が加算される仕組みで実力のある冒険者やハンターが好んで利用します。もう一つは年に一度開かれる武術大会を勝ち進み準々決勝にまで進出すれば自動的に獲得することができます」

 「なるほど…」

 「以上が身分証を獲得するための条件になります。帝都で住居を得るにはいずれかの条件を満たすしかありません。申し訳ありませんがいずれかの条件が整い身分証が交付された時点で再びお越し下さい」


 説明を聞き終えて区画管理の事務所を後にした。

 ここへ来てクオルの言っていた意味がよくわかった気がする。

 僕らには今すぐ納税をする時間も身分証を持った誰かと婚約することもできない。

 そうなれば残る手段は二つに絞られる。

 貢献度を稼ぐか武術大会で勝ち残る場合のどちらかだ。


 「レイジ、落ち込んでる?」

 「少しな。それにしても家を買うって思ったより難しいんだな。金さえあればって思ってたけどやっぱり信用か」

 「商人だったお父さんがね、信用は大事だってよく言ってたよ。特に大きなお金が動く取引の時は大変だって口癖のように言ってたからね」

 「そうだよな。仕方ない、ルールがあるならそれに従わないとな。とりあえずハンターギルドに行って貢献度について聞いてみようか」


 ハンターギルドに着くとロビーの待合室あるベンチにクオルが座っていた。

 どうやら待ち伏せをしていたらしい。

 ここへ来ることはお見通しだったようだ。


 「そろそろ来る頃だと思ったぞ。その顔だと東の管理事務所に行ったようだな」

 「まあ、そう言うことだ。お前がここに居ると言うことはこうなることを予想していたんだろう?」

 「そうだな。それで、ここへ来たと言うことは大会へ参加する気になったのか?」

 「そのつもりはないと前にも言っただろう。今回は貢献度について説明を受けに来たんだ」

 「なるほど…お前らしいと言えばお前らしいな。だが、あまり過度な期待はしないことだ」

 「何故だ?」

 「説明を聞けばわかる。お前の説明が終わるまで俺はここに居るから気が済むまで説明を聞いてくるといいさ」


 クオルは僕に興味を無くしたのか、そっぽを向いて右手をパタパタと振り受付に行くように促してきた。

 こちらとしてもあまり関わりたくない相手なので指示に従うことにした。

 貢献度の担当しているカウンターは専門の受付が別に用意されている。

 そこには担当官と思われる中年の品のいい女性が座っていた。

 体格もどちらかと言えば痩せ型なので元ハンターと言うわけではなさそうだ。


 「あの、こちらで貢献度について説明をしてもらえると伺ってきました」

 「いらっしゃいませ。かしこまりました。貢献度についてはどの程度ご理解していますか?」

 「いえ、ほとんど何も。なので出来る限り詳しくお願いしたいです」

 「そうですか。では、説明は専門の者がお教えしますので奥へ進んだ部屋でお待ちください」


 女性の案内で建物の奥にある小さな部屋へ案内された。

 室内には長机と椅子、それと黒板のような黒いボードが壁に掛けられている。

 待合室と言うより小さな会議室と言った印象だ。

 しばらくすると先ほどの受付の女性よりも若い女性が現れた。

 手には資料のような用紙の束を持っている。


 「お待たせしました。私は担当官のスピカと言います」

 「どうも。俺はレイジ、こっちはサフラといいます。早速ですが、貢献度についてご説明いただいてよろしいですか?」

 「わかりました。では、こちらが資料になりますので、合わせて目を通してください。まず、貢献度についてですが、当方のハンターギルドが指定する任務をこなしていただく必要があります。また、危険度に応じて与えられるポイントが異なる事をご理解ください。貢献度は依頼の達成に応じて加算されていきます。一定数、つまり百ポイントに達した場合、自動的に町への定住権である身分証が授与されます」

 「百ポイントというのは、具体的にどの程度の難易度でしょうか?」

 「レイジさんはハンターから報酬を受けたことがおありでしょうか?」

 「えぇ、何度か。調べてもらえばわかると思います」

 「そうですか。その際、報酬と共に受け取る書類に記載された難易度、つまりランクがポイントに直結します。例えば、クローラーを討伐した場合、難易度が最低の魔物になりますので、こちらは一ポイントとなります」

 「じゃあランクに応じてというのは…仮にCランクなら三ポイントと言う事でしょうか?」

 「その通りです。ちなみに、我々人間と敵対関係にあるドワーフやエルフを倒した場合に限り、得られるポイントが倍になります。ただし、こちらの依頼は非常に危険性が高いため、好んで参加される方はあまり多くありません」


 説明によると依頼を達成した場合、同時にポイントが得られるという仕組みらしい。

 特にドワーフやエルフの場合、通常よりも多くのポイントが貰えるが、リスクも高くなっているようだ。

 時間を短縮するためにはあえて危険な相手と戦う方法もある。

 しかし、リスクを考えればあまり得策とは言えないだろう。

 それよりも確実にポイントを稼げる難易度の低い相手と戦った方が効率的のように思う。

 どちらにしても貢献度を稼ぐには相応の実力と時間が必要になる。


 「つまり依頼の達成が条件と言うわけですか」

 「そうです。ただし、これらの条件には仲間と協力して行ってならないと言う決まりはありません。お一人で難しい相手であれば、仲間を募って挑む事も必要になるでしょう」

 「なるほど…」

 「ご理解いただけたのであれば、貢献度システムへ登録されてみてはいかがでしょう。登録料は掛かりませんので、名前だけという方も大勢いらっしゃいますよ」

 「そうですね。それでは、登録をお願いします」


 女性は持って来た登録用の証書にサインを求めてきた。

 何だか街中で署名を求められた気分になったが気にせず二人の名前を書き込んでおいた。


 「それでは、これにて説明および登録を完了いたします。ご用命の際は、受付にて別途ご案内いたしますので、お気軽にお越しください」


 説明を終え少し複雑な気持ちだった。

 納税の件と言い婚約による身分証の分与と言いどれも簡単にできるものではない。

 特にこの貢献度と言うシステムはある程度の実力がなければ達成できず腕に覚えのない旅人や行商人は対象外になる。

 万人向けて門戸が開かれているように見えて実際にその門をくぐれるのは一握りだ。

 僕らのように帝都での生活を夢見る者も決して少なくない。

 ただ、これはルールなので従うしか方法はなかった。

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