シーン 54
食事を食べながら今後のことについて話し合った。
まず優先すべきは家の確保だろう。
さすが帝都と言うだけあってこれまでに立ち寄った町よりも規模が大きい。
つまりどの町よりも人と物と情報が集まる可能性が高い。
帝都があるミッドランドは東西に長いヒューマン族が支配する領土においても中間に位置しているため移動をするにも便利だ。
他にも町を囲む高い城塞は外敵から身を守る盾になりハンターギルドの本部もあることからどの町よりも安全だろう。
物件を探すには町の事情に詳しい人物を探さなければならない。
立ち止まっていては先へ進まないので誰かに声を掛けて情報収集を始めるのが早そうだ。
出来れば町内会や商人の組合のような組織があれば話は早いだろう。
ほぼ食事を終えた頃になって店の入口に見知った顔を見つけた。
目つきの悪い長身の男だ。
よく見るとバレルゴブリンを討伐する際に一緒に戦ったクオルだった。
誰かを探しているのか店内を見回している。
そして僕と目が合った。
この場合、目が合ってしまったと言うのが正しいだろうか。
クオルは僕を見つけると笑みを浮かべて近寄ってきた。
普段から無愛想な男が笑っている姿はどこか不気味だ。
何か良くないことを運んでくる使者の様に見えた。
「レイジ、久しぶりだな。探したぞ」
「…何だよ、笑みなんか浮かべて気持ち悪い。探したって、どうして俺がここにいることがわかった?」
「ギルドでお前の噂を聞いたんだよ。おそらくまだこの町に居るだろうと思って酒場を一軒一軒回ってきたところだ。それでようやくお前を見つけた、と」
「お前、いやに饒舌だな。気味が悪いぞ」
僕の知っているクオルは寡黙で無愛想な男だ。
戦いにしか興味が無く常に強者を探して周りに目を光らせるタイプ。
それが彼に対する認識だ。
だから目の前に居るこの男が本当に僕の知る人物なのか疑問に思うほど別人に思えた。
「お前って酷いことをサラッと言うんだな。まあいい、回りくどい話は俺も好きじゃない。折り入って相談に来たんだ」
「相談?」
「あぁ、お前ハンターにならないか?」
「断る」
即答だった。
答えは前もって決めていたので迷う余地はない。
そのため即答されたクオルも少し動揺したような表情をしている。
「即答かよ。とりあえず断る理由を聞かせてもらおう。話はそれからだ」
「理由か。俺は元々人に指図をされるのが嫌い質なんだよ。ハンターって言うのは招集があれば問答無用で昼夜を問わず危険な場所に向かうんだろう?俺にはサフラだって居るからな。だからハンターにはならない、そういうことだ」
「なるほど。確かにお前の言う通りだ。ハンターたる者、召集があれば常に危険の中に飛び込まなくてはならない。それは義務だからだ。だが、俺はお前が安穏とした日々を求めているようには見えなくてな。だから声を掛けたんだよ」
「俺は最初から平和主義者だよ。守る者だってある」
そう言って隣に座っているサフラの手を取った。
彼女は驚いた様子だったがすぐに目を細くして笑みを浮かべた。
チラリと見える横顔には頬の辺りが少し紅潮している。
繋いだ手は微かに熱を帯び温かかった。
「守る者…か。俺にそんな者は居ないからその気持ちはわからないな」
「そのうち出来るだろうさ。それで、話は済んだんだろう?」
「いや、今のはあくまでも前振りで本題はこれからだ。元々お前が断ることなんて最初から予想していたさ。それで、本題って言うのはな、ギルドからの正式な依頼だよ。お前の実力を見込んで俺の上役が直々に決めたらしい」
「ギルドから?依頼じゃなくて厄介事の間違いじゃないのか?」
「そんなことは無いさ。俺もお前が傭兵団ケルベロスを壊滅させた話は聞いたよ。一人でやったんだってな」
「おそらく聞いた通りだ」
「バレルゴブリンでの働きぶりといい今回のことといい、俺はお前が選ばれても何ら不思議には思わなかった。とりあえず話だけ聞いてみたらどうだ?」
「とりあえず話だけな」
このまま話を聞かずクオルを追い返すこともできる。
しかし、僕を探してあちらこちら探し回りわざわざ訪ねて来た彼の苦労を買うことにした。
ただ、話の内容によっては彼の言う依頼を断るつもりだ。
どちらにしても話を聞いてみなければ始まらない。
この町にはハンターギルドの本部もあるので内容次第では顔を売る機会にもなる。
気になるのはその依頼内容だ。
僕にしてみれば彼が来た時点であまり良い予感はしていない。
むしろ厄介事を感知するレーダーが反応を始めていた。
ここは少し警戒して話を聞いた方が良さそうだ。
「依頼って言うのはここから東にある交易都市シャルネードで行われる武術大会の参加要請だ」
「武術大会?」
「あぁ、国中のハンターや腕に覚えのある者が集まって行われる競技大会だ。まあ、相手を制圧する際、生死は問わずって言うルールもある危険な大会だけどな」
「人前で殺しをしろと?」
「そう警戒するなって。悪い話ばかりじゃないぞ。この大会は皇帝陛下が直々に主催しているんだ。実力が認められればそのまま陛下直属の騎士団に入隊することもできる栄誉ある大会なんだよ」
クオルの話を整理すると皇帝が主催する競技大会で国中から腕自慢たちが集って実力を競うらしい。
その中で勝ち残った者を皇帝直属部隊の配下に従えようと言う選考会の意味合いもある。
皇帝を専門で守護する騎士団は知力と武術の双方が秀でていなければ入団することができない狭き門だ。
しかし、騎士団に入隊できれば相応の待遇も用意されている。
騎士団と言うのは皇帝を専門に警護するセキュリティポリスで警察庁の皇宮警察のようなものだ。
入隊することが出来れば貴族と同等の地位を与えられる。
そのため大会に参加して優勝を狙う参加者が後を絶たないらしい。
ただ、今の僕には騎士団に興味など一切なかった。
地位や名誉よりも平穏無事な日々をサフラと二人で営むことを望んでいる。
「話はわかった。だけど、やっぱり答えはノーだ。何より今のところ騎士団に興味は無い。大会は出たいヤツが出ればいいさ」
「騎士団にも興味なしとは…お前は変わってるな」
「興味も何も俺は元々旅人だ。安住の地を探してようやくここにたどり着いたんだよ」
「お前、ここに住むつもりなのか?」
「あぁ、できればそのつもりだ。明日から物件探しを始めるさ」
「なるほどな。では、尚更この大会に参加した方がいい」
「何故だ?」
「大会で優勝をせずともいくつか勝ち残れば帝都での暮らしが保障される。つまり、お前が希望している帝都への定住も敷居が低くなるわけだ」
「ふむ。その話が本当だとしてその大会はいつ行われる?」
参加するかは別にして情報を知っておいても損はないだろう。
この世界のことは何一つわからないため知れる情報は知れるうちに仕入れると言うスタンスだ。
「今から二週間後だ。一応、毎年行われている行事ではあるからあえて公に募集は出されていない。エントリーするには最寄のキルドで申請を済ませるだけだ。あとは試合開始の前日までにシャルネードにある会場の寄宿舎に集合すればいい。ちなみに使用する武器に制限は無い。武具の持ち込みは持ち運べるものまでと比較的制限は少ないんだ」
「前日までに集合か。そして何でもあり…。それはそうとお前は参加するのか?」
「もちろんそのつもりだ。俺は元々騎士団志望でな。ハンター家業も嫌いじゃないがやはり強大な相手と戦うなら騎士団をおいて他にないと思っている」
「そうか。わざわざ足を運んでもらって悪いが参加をするか回答は控えさせてもらうよ。それに、大会に参加しなくとも物件は探せるんだろう?」
「そうだな。まあいい、用件は伝えた。俺はお前が参加してくれることを楽しみにしているぞ」
クオルはそう告げると何も食べずに店を出て行った。
本当に話をしに来ただけらしい。
たんぱくな性格ではあるが元々人間関係が得意ではないと言うのは前回一緒に戦ってわかったことだ。
それを証拠に話をしている最中もあまり目を合わさなかった。
「レイジ、武術大会に参加するの?」
「いや、今のところは考えていないよ。だからお前は心配しなくていいぞ」
「ホント?」
「あぁ、大丈夫だ。安心しろ」
サフラの頭を撫でてやると安心したように目を細くした。
まるで子猫のような可愛らしい表情だ。
ずっと愛でていたい気持ちをどうにか抑えつつクオルの言っていたことを思い返した。
表向きでは参加を表明してはいないものの少しは気になっている。
むしろ、優勝や騎士団などには興味はない。
帝都への定住権が公式に獲得できる機会と言う点への興味だ。
この世界では実力主義と言うわかりやすい評価体系を採用しているので実力を認めさせるには相応の努力をしなければならない。
その一つとして武術大会はそれなりに魅力的な舞台だ。
しかし、やはり問題になるのは勝敗に関して生死を問わない点だろう。
参加者の中には血気盛んな猛者も居るはずだ。
勢い余って殺されてはたまったものではない。
他にも武具の持ち込み制限について考えてみた。
僕が参加した場合はもちろん銃の持込にも制限はない。
反対に相手はどのような武器を使ってくるのかはわからないと言う不安もある。
クオルの持つ特殊な剣やエキドナが使っていた鞭などエルフが用いる武具が持ち込まれればどんな危険があるのかわかったものでない。
それらを考慮した上で今のところ参加の意志は示さなかった。




