表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/125

シーン 52

 草原をしばらく歩くと前方に森が現れた。

 ハンターギルドで教えられた位置と合致しているためどうやら目的の場所らしい。

 目視で確認したところ森の大きさはサッカーグランドほどだろうか。

 まるで砂漠の真ん中にあるオアシスのようだ。

 木々が密集しているため遠くからでは森の中を見通すことはできなかった。


 「あれが目的地か」

 「そうみたい。思ったより広そうだね」

 「もう少し近付いて様子を見よう」


 僕らはなるべく気配を殺して森へと近付いた。

 まだ森の中へ足を踏み入れてはいないがすでにこの時点でいくつかの気配を感じる。

 気配はそれぞれ別々の場所にあり独立している。

 そんな気配はゆっくりとした動きで森の中を動き回っていた。

 どうやらこの気配の主がヒナレを守るスポアのもののようだ。

 サフラもスポアの気配を感じ取っていた。

 

 「スポアって思っていたよりたくさん居るみたいだね」

 「そうだな。戦うにしてもなるべく一体ずつ戦いたいところだ」

 「できれば戦いたくないけど…この状況だと難しそうだね」

 「元々戦う気ではいるから仕方ないさ。まずは銃を使って様子を見る。サフラは俺の背中を守ってくれないか」

 「うん。任せて!」


 すぐに戦えるようお互いに武器を手にして森へと踏み込んだ。

 木々のほとんどは高さが十メートルほどある大木で針葉樹や広葉樹など様々だった。

 下から見上げると青々とした葉で空が覆われている。

 森の中は全体的に薄暗かった。

 ここである異変に気が付く。

 足元には人が落としていったと思われる荷物が散乱している。

 そして、近くに見たくないものが転がっていた。


 「被害者か」

 「レイジ、怖いよ…」

 「あまり見るな。俺たちも仲間入りはゴメンだ」


 遺体にはしっかりとサーベルが握られている。

 どうやらスポアと対峙して殺されてしまったらしい。

 遺体には特に出血などの外傷は見られなかった。

 では一体どうやって殺されたのか。

 その答えは別の遺体を見つけたときにハッキリした。


 「おいおい…冗談だろう?」

 「この人、どうしちゃったの?」


 別の遺体はまだ新しかった。

 死後数日と言ったところか。

 遺体は口から胃の内容物があふれ出し身体を「くの字」にした状態で死後硬直している。

 この状況から察するに死因について大方の検討はついていた。

 悪い予感と言うのはよく当るものだ。

 

 「これは毒だ」

 「毒?」

 「ヤバイな…スポアってヤツは思ってたより厄介な相手みたいだぞ」


 僕らが足を止めている間に一匹のスポアが近付いて来た。

 目の前に現れたのは体長一メートルほどのキノコ型をした化け物だ。

 身体の色は毒キノコを思わせる赤と白のまだら模様で先ほど戦ったクローラーとよく似ていた。

 身体の中央部には不気味な一つ目といくつもの鋭い牙を生やした大きな口がついてる。

 しかし、手や足はなくホッピングの要領でジャンプをしながらの移動だ。

 スポアが一歩移動をして着地をするたびにズシンと重たい音がする。

 スポアは大きな口を開けて僕らを威嚇してきた。

 よく見るとスポアの身体には刃物による傷が無数にあることに気が付く。

 どうやらヒナレを狙ってやってくる人間たちと何度も戦ってきたようだ。

 傷は深いものから浅いものまで様々だった。

 これが人間なら動くのは不可能なほどの手傷だ。

 どうやら事前の情報通り痛みは感じないらしい。

 僕は様子を見るためにスポアの顔に向けて銃を構え慎重に狙いを定め引金を引いた。

 弾は顔の真ん中を捉えると親指ほどの穴を空ける。

 しかし、スポアの様子に変化はない。

 

 「これを食らって平気なのか!?」

 「レイジ、後ろからもスポアが迫って来てるよ」


 僕の背中を守っていたサフラが声を上げた。

 スポアは僕らの前後から挟み撃ちにしようとしている。

 そんな時だった。

 銃撃を受けたスポアは頭を振って煙のようなものを撒き散らした。

 煙の正体は胞子だ。

 どうじに危険を感じサフラの手を取って煙の範囲外へ離れた。

 この勘は正しかったらしく煙を浴びた植物が茶色く変色していく様子が見られた。


 「サフラ、あの煙を吸ったり触れたりするなよ。毒が回って死んじまうぞ」

 「わかった。でもどうやって戦ったらいいの?私のスティレットじゃあ…」

 「俺が出来る限り銃で応戦してみる。お前はその間にスポアの弱点を探ってくれないか?」

 「わかった、やってみる!」


 僕は風向きに注意しながらスポアから距離を取った。

 胞子と思われる煙に触れれば無事では済まないだろう。

 距離の近いスポアに銃撃をしながら撃ち抜く場所を変えつつ様子を見た。

 しかし、どこを撃ち抜いても一向に倒れる気配はない。

 一体どうすれば倒せるのだろうか。

 このまま闇雲に銃を撃っても勝ち目はない。

 そんな時だった。


 「レイジ、私に考えがあるの。ちょっと見てて」


 サフラの手には烈火石と火薬玉が握られている。

 彼女は素早く火薬玉の導火線に着火するとそれをスポアの口に投げ入れた。

 火薬玉は時間差で爆発するとスポアの体内で炸裂する。

 火薬玉は使われている火薬の量が少ないとは言え狭い場所で爆発すれば力の分散が抑えられるため闇雲に爆発させるよりも効果は大きい。

 身体の内側を破壊されたスポアは前のめりに倒れこみ動かなくなった。


 「やった!」

 「なるほど、口の中は案外脆いんだな」

 「たぶん口のどこかに急所があるんだと思うの」

 「わかった、口の中を蜂の巣にしてやる」


 僕は残った一体に向けて銃を連射した。

 狙いはもちろん口の中だ。

 数発撃ち続けるとスポアの動きに変化があった。

 どうやら急所を貫いたらしい。

 スポアは身体を大きく揺らすと仰向けに倒れて動かなくなった。


 「やっぱり口の中に急所があったみたいだな。そうなるといくら身体を傷付けても死なないわけだ」

 「対処法がわかってよかったね!」

 「あぁ、お前のおかげだ。それにしてもよく急所が口の中だってわかったな?」

 「よく観察してたからわかったよ。ほら、身体にはたくさん傷があったけど平気そうだったじゃない?そうなると、身体の表面はいくら傷付けてもダメだと思ったからね。じゃあ急所はどこかなって思った時に口が開いていたから試しに火薬玉を使ってみたの」

 「そう言うことか。お手柄だな」

 「えへへ」


 サフラのおかげでスポアの対処法が判明した。

 これで次からスポアに襲われても冷静に対処することができる。

 スポアは動きが遅いため倒し方さえわかればそれほど恐ろしい相手ではない。

 僕らは目的のヒナレ探しを開始した。

 行商人の話ではピンク色の花が目印になるらしい。

 足元に目を凝らすとそれらしい花をつけた草を見つけた。

 しかし花の色はピンクではなく茶色だ。

 よく見ると他にも茶色の花が点々と広がっている。

 その中にピンク色の花をつけたヒナレは見つからなかった。


 「見つからないね」

 「一株で金貨一枚らしいからな。簡単に見つけられるものじゃないんだろうさ。松茸みたいなものじゃないか?」

 「マツタケ…?」

 

 サフラの頭にクエスチョンマークが浮かんだ。

 どうやらこの世界に松茸はないらしい。


 「松茸って言うのは高級なキノコの名前だよ。たぶんこの国の価値にしたら高い物で金貨一枚はくだらないと思うぞ」

 「金貨一枚もするキノコ!そんなのあるんだね」

 「あぁ、そのまま焼いて食べてもいいし、茶碗蒸しや土瓶蒸しで食べるのもおすすめだ」

 「焼くのはわかるけど、その何とか蒸しって?」

 「調理法だよ。説明するのが難しいけど機会があったら作ってやるよ」

 「ホント?やった!」


 この世界に松茸がないようなので別のキノコで代用できるものがあれば作ってやるつもりだ。

 食材や調理器具などが整えば元の世界で食べていた食事を再現することも可能だろう。

 どこまで本物に近づけるかわからないが機会があれば試したいと思っている。

 そんなことを考えている時だった。

 サフラは立ち止まって足元を見ながら指をさした。


 「見つけたよ!ピンクのお花」

 「おぉ!ホントだ。たぶんこれだ」

 「なかなか見つからないんだね。でも見つかってよかったよ」

 「そうだな。無駄足にならなくて済んだよ」


 他にもヒナレがないかと辺りを見渡したが結局この一株しか見つけることができなかった。

 僕はナイフでヒナレを根元から切り取り布に包んで鞄の中に収めた。

 他にもないかと名残惜しい気持ちになるがあまり長居をする場所ではない。

 スポアの対処法がわかったとは言え油断は禁物だ。

 幸い他のスポアは僕らの居る場所から遠く離れているためすぐに襲ってくることはない。

 早々に探索を切り上げて町へと戻った。


 「ハンネさん、ご所望のヒナレです」

 「おぉ、君たち無事だったか!確かにこれはヒナレだ。よく見つけたな」

 「結構大変だったんですよ。言われた通りピンクの花を探してようやく見つけたんです」

 「そうか、そうか。そう言えばこれに似た茶色の花は見なかったか?」

 「え?確かにいくつか生えてましたけど、まさか…」

 「やはりそうか。うん、察しの通りそれもヒナレだ。ただ、花が茶色になったヒナレは薬用効果がピンクの物よりも劣る。茶色のヒナレなら銀貨一枚程度の価値だろうな」


 ハンネによると茶色のヒナレは元々ピンク色の花をつけていたらしい。

 しかし、ヒナレはとてもデリケートな植物で外部から刺激を与えると徐々に花が茶色に変色をしていくそうだ。

 刺激と言うのは動物が踏むような直接的なものだけでなく、スポアの胞子による毒素も関係している。

 つまり、あの一帯にあった茶色の花はスポアが歩き回り胞子を撒き散らしてしまったおかげで商品価値が著しく低下したものだった。


 「なるほど、勉強になりました」

 「では約束の金貨だ。受け取りたまえ」

 「どうも」

 「またヒナレを見つけたら遠慮なく声をかけてくれ。私はしばらくこの町に滞在しているよ」

 「そうですね。機会があれば是非」


 僕らはハンネと別れて宿を出た。

 外はオレンジ色の光に包まれている。

 東の空は徐々に藍色へと変わろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ