シーン 51
町を散策していると奇妙な話を耳にした。
それはこの町の北にある森にキノコの形をした化け物が現れると言うものだ。
ただ、この世界には様々な姿をした怪物が存在しているためキノコの形をした化け物がいても何ら不思議ではない。
問題はそのキノコの化け物が生息する場所に生える薬草についてだ。
そんな話をしていたのは地方から帝都よりさらに東にある交易都市に向かう行商人からだった。
「何でもスポアが守る場所に「ヒナレ」と言う薬草がある。これを煎じて飲めば不老長寿になると言われているんだ。お前さん、興味はないか?」
行商人は僕らにそう切り出して興味を誘った。
彼の名前はハンネと言うらしい。
ハンネは各地を渡り歩いて珍しい食材を探し交易都市へ持ち込んで高値で取引していると言う。
ちなみに彼の話にあったスポアと言うのはキノコの形をした化け物の名前だ。
「不老長寿とは興味深い話ですね。それで、そいつを倒してヒナレを持ち帰ればいいんですか?」
「その通りだ。ヒナレはピンク色の花をつける植物だが、茎と葉の部分を天日に干して乾燥させると不老長寿の秘薬になるんだよ。ただ、そのスポアと言う化け物はなかなか厄介な相手でね。倒せるだけの実力を持った者を探していたんだ。君にはあのバレルゴブリンを倒した実力者だろう?話には聞いているよ」
「なるほど、そこまでリサーチ済みでしたか。それで俺たちに声を掛けてきた、と」
「あぁ、それでこの話に乗ってもらえないかな?ダメなら別の者を探そうと思っている」
ハンネは説明を終えたところで決断を迫ってきた。
どうやら僕らでなければいけない理由はないらしい。
それでも不老長寿の薬になると言うヒナレに興味が沸いた。
スポアがどれほどの恐ろしい魔物なのか気になるところだがバレルゴブリンを越える化け物とは考え難い。
とりあえず話を受けておいてダメなら途中で断ることもできるだろう。
サフラに目で合図を送るとその意図を察して首を縦に振った。
「わかりました。その話、受けさせてもらいます」
「そうかい、それは助かるよ。じゃあ、さっそくだがヒナレを手に入れてきてくれないかな。私はそこの宿に滞在している。用があれば訪ねてくるといい」
ちなみにヒナレは乾燥させる前のもので一株が金貨一枚に相当するらしい。
これが不老長寿の秘薬になる乾燥させたものになれば富裕層に言い値で売れるそうだ。
そのため各地から噂を聞きつけた行商人たちがヒナレを目指してこの町に集ってくると言う。
この町の北側にある森は国中でも数少ないヒナレの群生地らしい。
僕らはハンネと分かれた後すぐに行動を開始した。
何事も早いに越したことはない。
ただ、一つ問題があった。
ハンネから聞いた森の位置が曖昧でよくわからないと言う点だ。
本人もこの町の出身ではないため詳しく知らないらしく場所を教えてはくれなかった。
そうなれば知っている人に場所を聞くしかない。
そんな時頼りになるのはやはりハンターギルドだろう。
ハンターギルドは僕の暮らしていた世界では警察に相当する組織だ。
そのため困ったことがあれば大抵のことには相談に乗ってくれる。
再びハンターギルドに戻ると先ほど懸賞金を受け取った男性に声をかけた。
「すみません、少し話を聞かせてください」
「ん?また君たちか。今度は何の用だい?」
「この町の北にスポアが棲むと言う森があるそうですね。その詳しい場所が知りたいんです」
「ほう、君たちもヒナレを狙っているのか」
男性はニヤリと口元を歪めた。
どうやら事情は筒抜けのようだ。
こんな時は下手に取り繕うより素直に答えるに限る。
その方が後になって辻褄を合わせるのも簡単だ。
話のついでに一つ探りを入れることにした。
「えぇ、その通りです。俺たちの他にヒナレを狙う者は多いんですか?」
「そうだな。大抵は地方から集る行商人や駆け出しのハンターたちだ。何せヒナレは取引する金額も大きい。一攫千金を狙う輩は後を絶たないよ」
「でも、それだけ多いと値下がりするんじゃ…」
「普通はそうだろうな。ただ、ヒナレの近くには必ずスポアがいる。ヤツらが厄介なんだよ。毎年スポアの餌食になるものも少なくない。危険だからこそヒナレの価格は高止まりしているんだよ」
「スポアってそんなに危険な化け物なんですか?」
「名前だけ聞けば間抜けのように聞こえるだろうな。ただ、ヤツらは集団で行動するんだ。そして、非常にしぶとい生命力を持っている。一説によればスポアには痛覚と言うものがないらしい。だから、完全に息の根を止めなければ例え身体を刻まれようと襲い掛かってくるわけだよ」
どうやらスポアは並外れた生命力をもっているようだ。
ただ、痛みを感じないと言う点では昨日戦った傭兵団の団員も痛覚麻痺の薬物を使っていたので大差はないように思える。
僕らは男性に森の正確な位置を聞いてハンターギルドを後にした。
「スポアって初めて聞いた名前だけど、どんな姿をしているんだろうね?」
「今のところキノコの化け物って言うくらしか情報もないからな。実際に見るまでのお楽しみってところだろ」
「完全に息の根を止めないといけないんだよね。一体どうすればいいんだろう?」
「刃物で傷をつけても動きが止まらないらしいからな。どうやって倒せばいいか正直見当もつかないよ」
二人で話し合いながら着々と準備を進めた。
今回はハンターギルドからの討伐依頼ではないためスポアを倒しても懸賞金は出ない。
本来の目的はヒナレをハンネに届けることだ。
運がよければスポアと対峙することもないだろう。
そんなことを思って町を出た。
北にある森へは石畳の街道が伸びていないため草原を歩くことになる。
そうなれば必然的に亜人や魔物に出会うのは当然のことだ。
僕らの前にさっそく魔物が現れた。
「お?でかい芋虫だな。初めて見る」
「糸に注意してね」
目の前に現れたのは芋虫型の魔物クローラーだ。
体長は大型犬ほどあり身体は緑と茶色のまだら模様をしている。
ハンターギルドが指定する難易度は最低ランクだが初めて戦う相手なので油断はできない。
サフラは以前対峙したことがあるため対処法を心得ているようだ。
クローラーの動きを観察しているといきなり身体を起こして立ち上がった。
「こいつ、俺たちを威嚇してるのか?」
「気をつけて、糸が来るよ!」
サフラが注意を発するとクローラーは尻から勢いよく糸が噴出した。
勢いがいいと言っても見切れない速さではない。
横に飛んで糸をやり過ごした。
同時にホルダーから銃を取り出してクローラーにお見舞いする。
弾は胴体に風穴を開けた。
しかし、急所を捉えていないため一撃で仕留めることはできない。
クローラーは身体を丸めると前転をしながら体当たりをしてきた。
ただ、この攻撃も簡単に見切ることができる。
サフラはクローラーの動きが止まったところでスティレットを構えて身体にある模様を一突きした。
その瞬間、クローラーの身体は激しくねじれ悶え苦しんでいるのがわかる。
「サフラ、何をしたんだ?」
「クローラーの急所を突いたの。頭の後ろに一つだけ大きな茶色の模様があるでしょ?あそこが急所になっているの」
サフラに言われた場所を見ると一回り大きい茶色の模様を見つけた。
そこには彼女が突き立てたスティレットの傷がはっきり残っている。
そして、クローラーは徐々に弱り完全に動かなくなった。
「死んだのか?」
「そうみたい」
「初めて戦ったけどやっぱりゴブリンよりは弱かったな。さすが最低ランク」
「私のお父さんもクローラーを倒すのは得意だったよ。よく畑を荒らして野菜を食べちゃうから村の人に頼まれて駆除してたから…」
サフラは急に声のトーンを下げた。
どうやら亡くなった父親のことを思い出してしまったようだ。
そんな彼女の身体を僕は引き寄せた。
「辛かったな…」
「うんん、平気。今はレイジが居てくれるから」
「そっか…」
「心配掛けてごめんね。でももう大丈夫だよ」
サフラは笑みを浮かべた。
それを見て僕は救われた気持ちになる。
これから先もこの笑顔を守り続けて行きたい。
そう心に誓った。




