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シーン 47

 街道を道なりに進むと前方に建物が見えてきた。

 どうやら目指していた町のようだ。

 遠目に見ても町の規模は大きく見える。

 きっと市町村の単位なら限りなく市に近い規模と言ったところか。

 高い建物もあり中には塔のようなものも見える。

 サフラによれば町の中心部にある大聖堂の一部らしい。


 馬車は町の門をくぐりメインストリートと思われる幅の広い道路を北上する。

 通りの左右には高級品を扱ったブティックや武具を扱う鍛冶屋、それに間口の大きな雑貨屋や良い香りを漂わせるパン屋が見えた。

 これだけ店が連ねる様子から規模の大きな町だと実感する。

 特に、高級品を扱う店ともなれば身分の高い富裕層を商売相手にしていると想像することができた。

 それを証拠に身なりの良い紳士や貴婦人が優雅に買い物をする姿も見える。


 僕らは町の西側にあるハンターギルドを目指した。

 建物は基本的にどの町のギルドも同じ造りになっているので場所さえわかれば見つけることは難しくない。

 また、甲冑姿の屈強な男たちの姿も目印になる。

 僕は馬車を降りギルドの受付に向かった。

 室内の様子も前に訪れた支部と変わりはない。

 他の町のハンターギルドと違いがあるとすれば知らない顔ばかりと言うくらいだ。


 「いらっしゃい。何の用かね?」


 受付に座っていた老齢の男性が声をかけてきた。

 見た目の様子から現役を引退して裏方を務めている印象だ。

 どうやらこの世界に定年退職と言うシステムは存在しないらしい。

 働けるうちは働くと言うことなのだろうか。

 それ以前に社会保障についての法整備が行き届いていなのが原因だろう。


 「昨日、傭兵団オルトロスを名乗る一団に襲われ、その主犯格の二人と部下の男一名を逮捕しました。彼らを引き取ってはもらえませんか?」

 「オルトロス…だと!?アンタ、よく無事だったな」

 「いえ、一度命を落としかけました。手強い相手だったので苦労はしましたが、何とかと言ったところです」

 「そうかい。それじゃあ、すぐに担当の者を呼ぼう」


 男性は事務員の女性に声を掛けると奥に居る担当者を呼びに姿を消した。

 しばらくして現れたのはラグビーの選手かと思うような肩幅の広い男性だ、

 体型は見事な逆三角形をしている。

 身長も僕より高く見下げられる感じは威圧感たっぷりだ。

 年齢は僕よりも上だろう。

 実年齢はわからないが見たところ三十代前半と言ったところか。


 「私が担当官のジェイズ。この支部で対盗賊部隊のリーダーを努めている」

 「私は令二。旅の途中でオルトロスの連中に襲われました。まあ、返り討ちにしたんですが…」

 「もしや、たった一人で?」

 「そうですね」


 ジェイズはそれを聞いて驚いた顔をした。


 「信じられんな…オルトロスと言えば、ここら一帯を牛耳る有名な盗賊団だ。傭兵を自称しているが悪行の数々から殺人集団として手配書も出回っている」

 「なるほど…それはかなりの凶悪犯だったようですね」


 ジェイズに経緯を説明してサフラの待つ馬車に案内した。

 縛られたままの三人は彼の姿を見つけると恐ろしいモノを見るような目をして怯えている。

 反抗しても敵わないと理解しているのか不穏な動きはない。


 「なるほど。手配書の特徴通りだ。しかし、他にも仲間が居ただろう?」

 「あぁ、それなら残らず殺しましたよ。一応、正当防衛にはなりますよね?」

 「殺したって、コイツらは総勢で三十を超える大盗賊団だぞ?それを一人でか?」

 「えぇ、そうです。ここより西に行った小さな村に遺体が転がっていますよ。嘘だと思うなら確認した方が早いと思います」


 正当性を認めさせるためにわざわざ連行してきたことを告げると再び驚いた顔をされた。

 ジェイズによれば生け捕りにするのは手間が掛かるため通常このようなことはしないそうだ。

 死人に口無しと言う言葉の通り仮に加害者であろうと自分に優位な説明をする。

 だから、相手を生かしておくことは不利な証言に繋がる可能性もあるので敬遠するのが通例になっているようだ。


 「私は人殺しをしたいわけじゃないんですよ。それに彼らはこのまま殺すより正当な罰を受けるべきだと考えています。この国にもそう言ったルールはありますよね?」

 「そうだな。刑の判決は皇帝陛下直々に下される。まあ、コイツらの悪事を考えれば、極刑以外には考えられないがな」


 ジェイズによれば刑の種類は主に三つあるようだ。

 一つは身分を奴隷に落として強制労働をさせるケース。

 奴隷には人権が一切認められておらず「物」として扱われる。

 奴隷としての刑期は様々だがどちらにしても過酷な労働が待っているため生き残れる可能性はそれほど高くない。

 二つ目は極東の地にある強制収容所に収監するケース。

 こちらは光と音を遮断した「無限牢」と呼ばれる独房に入れられ僅かな食事と水しか与えられないと言う。

 刑の重さによっては両手両足を縛られ自由が奪われるそうだ。

 こちらは多くの受刑者が数日で錯乱状態に陥り刑期の終了を待たずに絶命すると言われている。

 一度入れば出ることは叶わず無限の孤独を味わうと言うことからこのような名前が付いたらしい。

 三つ目は極刑、つまり死刑の執行だ。

 殺し方はいくつかあるらしく最もポピュラーな方法はギロチン台を用いた「斬首」で公開処刑と言う形が取られる。

 この他にも生きたまま火にかける「火焙り」や馬の尻尾にロープを巻き付けて引きずられる「馬引き」などがありどれも残酷な刑だ。

 特に馬引きは五体がバラバラに引き裂かれるので死ぬ間際まで苦痛に襲われる痛ましい殺し方だと言う。

 刑の内容を聞くだけでも背筋が寒くなった。

 悪いことをすれば罰せられるのは当たり前だが、できれば僕の知らないところでやってもらいたい。

 冷静に考えれば彼らに下される刑が極刑と決まっているようなので僕が直接手を下さなくても必ず死が待っている。

 彼らもそれを理解したのか表情は絶望の色に染まった。


 「そう言えば手配書が出ていると言っていましたね。懸賞金が貰えたりするんですか?」

 「あぁ、それについては後日の引渡しとなる。まずは現場に行き証言通りなのかを確かめる必要があるからな」

 「そうですか。では、私たちはしばらく町に滞在しています。後日また顔を出しますよ」


 身柄の引き渡しが終わったところで僕らは宿探しを始めた。

 この町にも宿はいくつかあり高級店から安宿まで種類は豊富だ。

 出来れば水浴びのできる設備が整った場所を選びたいと思っている。


 「サフラはこの町にも来たことがあるんだよな?」

 「うん。帝都に行く時はいつもここに宿を取ってたから」

 「じゃあ、オススメの場所とか知らないか?探して歩くよりもその方が早いだろう。なるべく早く落ち着きたいからさ」

 「それならコッチだよ」


 サフラを先頭に後を追った。

 荷物を背負っているのでなるべく早く宿で休みたいところだ。

 昨日からの疲れも残っているので気を抜けばすぐにでも眠れる自身がある。

 ちなみに馬車はハンターギルドに引き取られた。

 元はテューポンの持ち物なので指名手配犯として捕らえられたら罪人の所有物はハンターギルドが管理する決まりになっている。

 この先も旅をするなら馬車は便利な代物なので機会があれば自分の物を手に入れたいところだ。


 賑わう繁華街を通りハンターギルドとは反対側の区画へやってきた。

 この地域は旅行者に向けた施設が充実しており通りに面して何件も宿が並んでいる。

 他にも旅に必要な携行品を売る店や装備の類を扱う雑貨店もありわざわざ繁華街で買い物をしなくても済むらしい。

 そんな一画でサフラが足を止めた。

 どうやらここがオススメの宿らしい。

 概観から受ける印象は決して豪華とは言えないものの今まで泊まってきた宿と比べても遜色がない佇まいだ。

 サフラによれば旅人が泊まる宿としては少し上等な場所らしい。


 「いらっしゃいませ」


 受付で若い男に声を掛けられた。

 

 「部屋は空いていますか?」

 「ダブルルームでよろしければすぐにご用意ができます。いかかでしょうか?」


 ダブルルームと言えばダブルベッドが一つ置かれた二人部屋だ。

 ちなみに今まではシングルベッドが二つ置かれたツインルームだった。

 だからと言うわけではないがダブルルームとなればサフラと同じベッドで寝ると言うことになる。

 僕は平気だがサフラはどう思うだろうか。

 チラリと横を見て様子を伺ったが特に気にした様子はなかった。

 ここはデリケートな問題なので今のうちに聞いておく必要がある。


 「サフラ、ダブルルームって言ってるんだがどうする?」

 「私は平気だよ?」

 「ベッドが一つだが…いいのか?」

 「お兄ちゃんはベッドが二つあった方がいい?」

 「いや、取り立てては…」

 「じゃあ、このお部屋にしようよ」


 鶴の一声で本日の宿が決まった。

 渡された部屋の鍵は二階の角部屋だ。

 建物の中央に設置された階段を上り客室へと移動をする。

 部屋は説明通り壁際にダブルベッドが置かれていた。

 他にもクローゼットや水浴びをする浴室など希望通りの設備も整っている。


 「ふう…やっと落ち着けたな」

 「そうだね。昨日はいろいろあったもんね」

 「あぁ、あんなことは二度とゴメンだけどな」


 目を閉じて昨日のことを思い返すと脳裏に鮮明な映像が浮かんできた。

 必死で戦う姿は手に汗握るものがある。

 いや、正確には一方的な蹂躙とでも言うべきか。

 銃を使えば人であろうが亜人であろうが簡単に命を奪い取る。

 これはテューポンも言っていたことだが僅かな力で引金を引けば弾が発射させる仕組みだ。

 殺す側の僕にしてみれば労力が少なくて済む。

 反面、殺される側からすればたまったものではないだろう。


 「…お兄ちゃん、昨日は全然眠れてないんでしょ?」

 「お前…知ってたのか?」

 「一度だけお兄ちゃんが眠ってる時に目が醒めたの。その時すごくうなされてたから」

 「そっか…でも、お前はどうなんだ?よく眠ってるように見えたけど、無理はしてないか?」

 「私は大丈夫。それより、やっぱりお兄ちゃんの身体が心配だよ」

 「心配してくれてありがとうな。今日はもう出かける予定もないしゆっくり休めると思うから心配は無用さ」


 ここでまだ昼食がまだだったことを思い出した。

 朝食も食べていないのでいつも以上に腹のムシが鳴いている。

 こうして二人で食事を食べているととても穏やかな時間が流れていく。

 昨日とは正反対に平穏を実感する瞬間だ。

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