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シーン 39

 翌朝。

 晴れ渡った青空の下、ようやくトンネル開通の日を迎えた。

 思えば長い間この町に留まっていたような気がする。

 それも今日で終わりだ。

 僕らは旅支度を済ませて宿を出た。

 まだ朝も早いと言うのにトンネルの開通で町は活気付いている。

 町の広場には荷物を満載した馬車が出発を今か今かと待ちかねていた。


 僕らはそんな活気ある雰囲気を横目に臨時キャラバンギルドへと移動をする。

 目的はもちろん臨時キャラバンに参加するためだ。

 臨時キャラバンに参加できれば帝都への道中は馬車で移動することが出来る。

 その変わりに外敵の襲撃から馬を守らなければならいが、そこは互恵関係なのでお互い様だ。

 臨時キャラバンギルドの前にはたくさんの人が集まっていた。

 しかし、最初にここに訪れた時とは違い長い行列のようなものはなく建物を出入りする人の姿もそれほど多くはない。

 

 建物の中に入り遠巻きに人の流れを観察しながら受付の順場を待った。

 カウンターには忙しそうに案件の処理をする職員の姿が何人か見える。

 彼らは要望のあった行商人と旅人のカップリング作業を行う専門のスタッフだ。

 長年の経験と勘、それに行き先と希望者の人柄を精査して組み合わせを決めていく。

 さながらベルトコンベヤーの流れ作業を見ているようだ。

 その中で受付を担当する若い女性職員を見つけ声を掛けた。


 「すみません、キャラバンに参加したいのですが」

 「いらっしゃいませ。ご利用はお一人でしょうか?」

 「いえ、二人です」

 「二名様ですね。行き先はどちらでしょう?」

 「帝都です」

 「商隊の規模でご希望はございますか?」


 商隊の規模とはキャラバンが許容する参加人数の上限のことだ。

 大人数になればその分安全性が増す。

 その代わりに大所帯になるのでキャラバン自体の機動力が落ちるデメリットがある。

 具体的には規模が大きくなるため外敵に狙われやすくなるケースだ。

 反対に少人数の場合であれば安全性が劣る分キャラバンの機動力が良くなるので早く目的地に着くことが期待できる。

 両者でどれだけの差があるかと言えば仮にこの町から帝都へ向かった場合で約半日から一日くらいの差のようだ。

 つまり、急ぎの旅であれば少人数のキャラバンを選択し少しでも移動時間を短縮すると言うことらしい。

 僕らの場合は特に急用と言うことはないのでどちらでもいいと答えることにした。


 「特にこだわりはないですね。すぐに出発する商隊はありますか?」

 「すぐでしたら少人数の商隊があと三名の募集を待っております。お客様はお二人ですので、あと一人揃えばすぐに出発できるでしょう」

 「そうですか。じゃあ、その商隊に参加したいです」

 「わかりました。それではお名前をご記名ください。あとは料金をお支払いいただいて契約成立です」


 言われた通り登録用紙に二人分の記名をしてキャラバンを募集している行商人の元に向かった。

 待っていたのは中年の男性だ。


 「どうも、ギルドで紹介されてきました」

 「やあ、君たちがキャラバンの参加者かい?随分と若いな」

 「えぇ、二人で旅をしています。このキャラバンは帝都行きですよね?」

 「あぁその通りだ。実は帝都へ急ぎの届け物があってね。初めて少人数のキャラバンを募集したわけなんだ」

 「そうでしたか。あと一人揃えば出発なんですよね?」

 「そうなるね。今すでにバウンティーハンターの方が一人参加してくれているから、私を含めて全員で五名になるよ」


 原則としてキャラバンの結成は二名以上と言う規則がある。

 ちなみに最大上限は馬車一台当たりで十五名程度らしい。

 つまり参加する馬車の数が増えればそれだけ上限が増えていく計算だ。

 このキャラバンのリーダーは行商人の「ラトキフ」と名乗った。

 行商人としてはまだ駆け出しで将来は自分の店を構えるのが夢なんだとか。

 同行するバンティーハンターは肩幅の広い初老の男で「バドック」と言うらしい。

 彼の顔には深い切り傷があり戦闘経験は豊富のようだ。

 しかし、あまり感情を表に出さない性格なのか名前を告げた以外に多くは語ってもらえなかった。

 最後の参加者を待っているとこちらへ若い女が近付いてきた。

 雰囲気からして最後の一名なのだろう。


 「あの…ギルドから紹介を受けてきました。ラトキフさんの商隊でよろしいでしょうか?」

 「えぇ、アナタが最後のメンバーのようです」

 「そうでしたか。お待たせしてしまったようで申し訳ありません」

 「いえいえ、これでも早く集まった方ですよ。では、皆さんの挨拶が済んだらさっそく出発しましょう。時は金なり、ですからね」


 キャラバンと言うのは基本的に行商人がリーダーを勤める。

 必ず行商人がリーダーにならなければいけないと言う規則はないが、移動の要になる馬車を所有しているため、同行する仲間よりも優位な立ち位置と言うのが大方の理由だ。

 しかし、中には自らリーダーを放棄する行商人もいる。

 その場合は極めて稀なパターンだが、希望者を募って別のリーダーを決めるようだ。


 最後に合流した女性は「メイリーン」と言う名前で職業は歌手をしている。

 今回は興行のために帝都へ向かう途中らしく道中の安全を考えてキャラバンへの参加を決めたらしい。

 また、メイリーンは副業で賞金稼ぎをしていると話してくれた。

 ただ、実力はそれほどでもないらしくクローラーやゴブリン程度の相手なら何とか倒すことはできるものの、上位種であるオークやそれ以上の相手には敵わないそうだ。

 得意な武器は極細の鎖を編みこんで作った「チェーンウィップ」と言う鞭を愛用している。

 皮製の鞭とは違い殺傷力が高く剣や槍とは違った変則的な戦い方ができる珍しい武器だ。

 使い手によっては鞭がまるで生き物のように締め上げて敵を仕留めることから別名「シルバースネーク」とも呼ばれる。


 町を出発したキャラバンはさっそくゴブリンたちが巣食っていたトンネルに差し掛かった。

 激しい戦闘の影響で崩落した内部はすっかり整備が終わり戦いの爪あとはどこにも見られない。

 惨殺したゴブリンの死骸も残っておらずあれほど気になった悪臭も感じなかった。


 「そう言えばバレルゴブリンを倒したのは若い女と黒髪の男だったらしいな」

 「私も聞きました。確か男の方は異国からの旅人だとか」

 「そうそう。見たこともないジュウと言う武器を使ったらしい。レイジ、君は何か彼らについて聞いていないか?」


 事情を知らないラトキフとメイリーンは馬車の中でくつろいで居た僕に声を掛けてきた。

 僕がその本人だと知ったら彼らはどう思うだろうか。

 正直に答えるべきか悩んでいるとサフラが身を乗り出した。


 「えっと、この人が今のお話に出てきた男の人です」

 『え?』


 ラトキフとメイリーンは同時に目を丸くした。


 「えっと、だから、この人が私のお兄ちゃんで、銃を使う異国の旅人です」

 「た、確かに黒髪だが…本当にキミがそうなのかい?」

 「えぇ、まぁそう言うことになりますね」

 「信じられない…こんなに若い子だったなんて」

 「えぇ、私ももう少し年上の方だとばかり…」


 ラトキフとメイリーンはお互いの顔を見合って驚きを確認しあっている。

 しかし、多少の誤解はあるためここで訂正をすることにした。


 「一ついいですか?バレルゴブリンを倒したのは俺じゃないですよ。バウンティーハンターのニーナって女性です。俺はただ彼女のサポートをしただけですよ。あと他にもハンターギルドから派遣された実力者二名の協力もありましたから」


 実際にバレルゴブリンに止めを刺したのはニーナだ。

 僕はそのサポートをしただけで特に自慢できる活躍をしたわけでもない。

 それでも二人は僕に興味津々と言った様子で食い入るように顔を見てきた。


 「じゃ、じゃあ、ジュウっていうのは?」

 「あぁ、これですね。これがお二人の言ってた銃です」


 自然な動作で腰に着けているホルダーから銃を抜き二人に見せてやった。


 「こんな小さな物が銃…?」

 「私はもっと大きな剣かと思ってました」

 「これはここから遠く離れた日本と言う国で使われている武器です。これが一つあればゴブリンやオーク程度なら簡単に殺すことができますよ。もちろん人間もね」

 「信じられないな…。小僧、妄言はその辺にしておけ」


 突然、だんまりを決めていたバドックが声をあげた。

 低く腹に響く声でどこか威圧的な印象。

 彼は見た目の通りあまり人当たりがよくないらしい。

 気に入らなければ容赦せず噛み付くタイプのようだ。

 それらを理解した上で舐められない注意しながら返事を返した。


 「嘘ではないですよ、バドックさん」

 「…小僧、ワシは三十年賞金稼ぎ家業をしてきた。その経験から言って貴様のようなモヤシがあのバレルゴブリンと戦って無事なはずがあるまい」

 「言いたいことはわかりますよ。バドックさんの言うと通りですね。私も彼がバレルゴブリンの討伐に加担していなんてにわかに信じがたい…」


 バドックにつられたのか今度はラトキフまで疑問の声をあげた。


 「信じられない気持ちはわかりますよ。人は誰でも自分の目で見たもの以外を信じるのはなかなか難しいですから。俺だってそうですよ

 「ふん、小僧が知った風な口を…」

 「バドックさんの気に障ったなら謝ります。ただ、事実は事実なんで」

 「それほど言うのなら、亜人が現れたときに貴様一人で対処してみせろ。それで信じてやる」

 「なるほど。わかりました」


 この会話のあと僕らは必要なこと以外言葉を交わさなくなってしまった。

 特に険悪な雰囲気と言うわけではないがどことなく僕に向けられた視線が冷たくなったような感じがする。

 このまま何事もなく帝都に到着すれば僕は嘘つきのままになるのだろうか。

 そんな幻想にふけっていると御者台で手綱を握っていたラトキフが声をあげた。


 「オークだ!大変だ、三体居るぞ!」


 その言葉と同時に車内に緊張が走るのがわかった。

 しかし、僕は他の三人とは違い普段通り肩の力が抜けている。

 ここでの立ち回り次第では今後の旅が楽しくなるか不愉快になるかを決める重要な場面だ。

 僕はサフラに笑みを投げかけ馬車の前に降り立った。

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