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シーン 38

 僕らは場所を移して町の南部にある原野に移動をした。

 町からはそれほど離れていないが突然亜人や魔物が現れないとも限らない。

 辺りに注意を払いながら安全を確認しつつ早速準備に取りかかった。

 準備と言っても先ほど購入したものを手に取るだけだ。


 「まずは火薬玉からだな。とりあえず投げて衝撃を与えてみよう」

 「大きな音が鳴るんだよね?大丈夫かな?」

 「最初だからな。慎重にいくさ」


 まずは火薬玉を適当に投げてみることにした。

 肩の力を抜いて野球の投球フォームを参考にしつつオーバースローから直球を放る。

 全力投球ではないが勢いよく飛んで行った玉は十数メートル先の地面に落ちた。

 しかし、想像していた爆発は起きない。


 「…あれ?何も起こらないよ?」

 「うーん…どうやら勢いが足りなかったみたいだ。ちょっと慎重になりすぎたな」

 「店員さんは「衝撃で」って言っていたから、思い切り投げなきゃダメなのかも?」

 「そうだな。次は全力で投げてみるよ」


 今の失敗を振り返りつつ火薬玉を回収して元の位置にまで戻った。

 炸裂しなかった火薬玉を拾うのはさすがに神経を使う。

 いつ破裂するかわからないので正直なところ怖い。

 「実は時間差で爆発するんです!」と言う仕様だったら今頃は酷い目に遭っているだろう。

 もちろんそんなことはなく、気を取り直して第二投目の投球フォームに移った。

 次に投げる球も最初と同じ直球だ。


 少し精神を集中して火薬玉を遠くへと放る。

 すると火薬玉は地面から顔を出していた一抱えほどある岩にぶつかり、同時に花火を打ち上げたような爆音を轟かせた。

  僕とサフラは一瞬何が起こったのかわからず、爆音とほぼ同時に押し寄せてきた衝撃波に思わず身を強張らせた。

 これを売ってくれた男性は火薬の質が悪く実用的ではないと言っていたが、効果のほどは想像の遥か上をいっている。


 「…ビックリしたら腰が抜けちゃった」


 サフラはペタンと腰を下ろし爆裂した方を呆然と眺めている。

 僕もしばらく開いた口が塞がらずしばらく呆けてしまった。


 「…お、恐ろしい爆発音だったな。町中で使わなくて正解だった」

 「うん…急にこんな音がしたらビックリして心臓が止まっちゃうかも」

 「とりあえず威力と使い方はわかったな。これさ、店員はあんなこと言ってたけど十分武器になるんじゃないか?」

 「そうかも…」


 火薬玉が破裂した場所に行ってみると炸裂した岩に小さな亀裂が入っていた。

 元々ヒビが入っていたのかもしれないが、おそらく今の衝撃によるものだろう。

 しかし、これだけの被害では広範囲の殺傷能力は望めない。

 やはり音で相手を威嚇する道具と言う用途が適当のようだ。

 続けて煙袋の実験に移る。

 使い方は袋に直接火を放つだけなので火薬玉より扱いは簡単だ。

 どれだけ煙が出るのかわからないのでサフラを安全なところまで下がらせてから烈火石で着火を試みた。


 「サフラ、危ないと思ったらすぐに逃げるんだぞ」

 「はーい」


 数メートル離れた後方からサフラの声が聞こえた。

 最後に安全確認のため周りを見渡して袋の端に火をつける。

 すると皮袋を焼き尽くした炎は中に入っていた粉に引火し猛烈な煙を発生させた。

 まるで大量のドライアイスを水の中に放り込んだようだ。

 それが四方八方へと一瞬で周りに広がりあっと言う間に辺りの視界が白の世界に閉ざされた。

 煙は離れていたサフラのところにも届いたらしく、慌てて後ろへ掛けていく足音が聞こえる。

 僕もこのままでは窒息してしまうので息継ぎをせずに煙の外へと駆け出した。


 「ふぅ、これはまた…大惨事だな」

 「…これ大丈夫?」


 遠巻きに見た煙の塊はまるで空から入道雲が降ってきたようだ。

 原野のある一部だけが完全に白い煙に包まれている。

 膨大な煙の塊で向こう側を見通すことはできない。

 確かにこれなら煙幕として使えば十分に目眩ましになりそうだ。

 問題はこの後煙がどうなっていくかと言う点だった。

 しばらく眺めていると煙は横風に煽られて徐々に晴れていった。


 「これさ、トンネルの中みたいなところで使ったら本当に窒息するだろうな」

 「使うところを選ばないとね」


 これを見て思ったことがある。

 やはり使い方次第で有用な道具になると言うことだ。

 火薬玉の破裂音と衝撃波はそれだけで威嚇の効果もあるし、煙袋も使いどころさえ間違えなければ戦線を離脱するのに便利だろう。

 極力無益な戦闘を避けられるなら使わない手はない。

 これならもう少し買い足しておいても損はないだろう。


 「ま、まあ…要は使い方次第だ。俺たちは基本的に二人で行動しているし、大勢の敵に囲まれたら迷わず使う感じだろうな」

 「うん。前みたいにゴブリンがい~~~っぱい出てきたら困るもんね」

 「間違いないな。よし、これを買い足しに行こう。サフラの分もいくつか買ってやるよ」

 「え、いいの?」

 「あぁ、いざって時に使えそうだろう?あと烈火石。これも買い足しておこう。お前が煙袋を使う時にも便利だし、次にいつ買えるかもわからないからな」

 「は~い」


 荒野を後にして再び店を訪れた。

 男性に経緯を説明すると彼は顔をクシャクシャにして喜んでくれた。

 ただ、実際に使ってみてわかったこともある。

 どちらの商品にも導火線のようなモノがあると便利だ。

 特に火薬玉は火をつけた瞬間に爆発するのだろうから手放すまでの猶予が一切ない。

 男性にこのことを話すと納得したように頷いてくれた。

 そして、少し待つように言って奥へと引っ込んでいった。

 僕らは店先で待たされる形になったため、何気なく通りを行きかう人の群れを眺めた。

 この町に滞在する旅人はここ数日のトンネルの封鎖によって長い間足止めされている。

 しかし、ここから西へ向かうルートは何の問題もない。

 ただ、僕らのように東を目指す旅人や行商人にとっては不便極まりない。


 「お待たせ。早速改良してみたよ」


 店員は手を真っ黒にしながら僕が要望した通りの改良品を持って来た。

 火薬玉には鉛筆ほどの太さがあるロープが伸びている。

 長さは三十センチほどもありロープを短く切るか着火する場所を変えることで爆発までの時間を調節する仕組みだ。

 どうやら彼なりに考えて工夫をしたらしい。

 続けて見せられた煙袋の口の部分からも同様のロープが伸びていた。

 しかし、こちらのロープは長さが数センチほどですぐに着火できるようになっている。

 店員によれば煙袋を使うシーンは緊急時がほとんどなのですぐに着火出来るよう工夫したようだ。


 「これはなかなかいい出来じゃないですか」

 「そうかい?喜んでもらって嬉しいよ。ウチは材料が整っているからね、お客さんのオーダーにもすぐに応えられるんだ」

 「ちなみにこの改良版は売って貰えますか?」

 「もちろんだとも。今後はこの商品もラインナップに加えさせてもらうよ」


 店員はよい物が出来たとご満悦の様子だった。

 僕にしてみれば先ほどよりも使い勝手が向上しているので言った甲斐があったというものだ。


 「じゃあこれを各五個ずつお願いできますか?」

 「了解した。数が多いんで改良に少し時間がかかると思う。また後で来てもらえないだろうか?」

 「わかりました。別の店にも用があるんで、そっちを済ませたらまた覗きに来ますよ」


 次はあの怪しげな魔具を売る露店へと向かう。

 先ほど確認した限りではまだ烈火石は残っていたためすぐに売り切れると言う心配はないだろう。

 あの店構えと店主の風貌と店の雰囲気を怪しんでなかなか人が寄り付かない感じだ。

 店に付くと案の定商品を見ている客はいなかった。

 店員はあくびをしながら暇そうに通りを行きかう人を眺めている。


 「どうも。また来ましたよ」

 「おや、今度はどうしました?」

 「烈火石をもう一つ買おうと思って。まだ残っていますよね?」

 「あぁ、ここに置いてあるよ。一つでよかったかな?」

 「はい」

 「では金貨一枚だ。それと、こんな珍しい商品もあるんだが、買ってはみないか?」


 そう言って並べられた商品の一つを手に取った。


 「何です、それは?」

 「これは古代の文字が刻まれたミスリル銀のコインだ。この文字は保護を表すものらしくてね、災いから一度だけ救ってくれると伝えられている」

 「一度だけと言うことは救った後どうなるんですか?」

 「実際には見たことがないがコインが砕けると聞いているよ」

 「つまり、コインが身代わりになると?」

 「まあ、そう言う代物だろうな。もちろん断言は出来ないがね。ただ、旅人やハンターはこれをお守りとして持っているから、お客さんにもどうかと思ったんだ」


 説明の通り本当に身代わりになる物かは非常に怪しい。

 しかし、ミスリル銀と言えばとても貴重な金属だ。

 もし本物なら希少価値で言えばコルグスから受け取ったネックレスに使われているダマスカス鋼に匹敵するくらいの価値はあるだろう。

 効果のほどは期待できないがミスリル銀を所有してみたいと言う欲が出ていた。


 「じゃあ、これも一つ」

 「毎度。こちらは金貨二枚だよ」

 「二枚…高くないですか?」

 「こちらはかなり貴重な物でね。物好きな金持ちが収集しているんだ。高価なのはそのためだ」

 「まあ、価値があるなら仕方ないか…。わかった、では金貨三枚だ」

 「確かに。今後ともご贔屓に」


 代金を支払って店を後にした。

 そんな様子を見てサフラが心配そうな顔をしている。


 「お兄ちゃん、烈火石はいいとしても、どうしてコインまで買っちゃったの?」

 「うーん、あの店主の話が本当なら、凄いコインだと思ったんだよ。だから騙されたと思って買ってみたんだ」

 「ダメだよ。興味本位でたくさんお金を使ったら、ね?」

 「大丈夫だよ。まあ今後は少し控えるけどな」


 サフラに釘を指されたので自重することにした。

 ただ、このコインが本当に身代わりの役割を果たすなら金貨二枚では安すぎるくらいだ。

 これがロールプレイングゲームの中に登場する類似した効果を持つアイテムだとすれば物凄く便利なアイテムと言うことになる。

 つまりこのコインがその類のアイテムだとすれば金貨二枚で命を一つ買ったと同じだ。

 そこまでご都合主義なアイテムが存在するか疑問だが魔法が存在するのなら期待してみる価値はあるだろう。

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