シーン 37
火薬製品に対して好印象な僕とは対照的に店員は難しい顔をした。
商品を扱う専門家として何か意見があるようだ。
僕としてはこう言った道具はまったくの素人なので出来る限りの情報は得ておきたい。
「お客さんが何に使いたいかわからないが、素人が簡単に扱えるような代物じゃないぞ?」
「何か問題があるんですか?」
「そうだな、これはあまり口外しないで欲しいんだ、一つここだけの秘密にしておいてもらいたい。これらの一般向け商品は火薬の純度が低いんだ。だからプロ向けの物に比べて火力が落ちる。もちろんサイズも小さいから火薬自体の使用量も少ないんだよ」
男性によるとこの商品は岩盤の発破に使う爆発物と比べて能力は半分かそれ以下程度だと言う。
火薬の量も少ないため鉱業用には適さないと付け加えた。
また、これを兵器に転用した場合も考え物だと言う。
例えば相手が全身を覆うプレートメイルを着込んだ重装兵なら盾を構えて正面から受ければ何とか耐えられる程度の衝撃だ。
つまり、ド派手な演出が売りのアクション映画のように相手を吹き飛ばしたり木っ端微塵に粉砕するような威力はない。
だから直接相手に被害を与える道具としてではなく爆発時の音を利用する目的で使われる。
イメージとしては爆発音のみを楽しむ花火のようなものだ。
もちろん夜空に大輪の花を咲かせるようなものではない。
店員によれば亜人や野生動物に襲われた場合に威嚇の目的で使うらしい。
「なるほど、癇癪玉みたいなものか」
「お客さんの言うカン…何とかは知らないが、武器にするのは難しいだろうな。それに使いどころが難しい」
「確かに。ただ、これは面白いから三つくらい貰っておこうかな」
「まあ、お客さんがそれで納得するならウチは構わないよ」
この商品はその名もズバリ「火薬玉」と言うらしい。
火薬をおがくずと油紙で球状に整形したもので見た目がそのまま名前になっている。
僕は携帯に便利そうな手のひらサイズの火薬玉を三つ購入した。
使用する時は思い切り投げつけて衝撃を与えるか直接火に触れさせればいい。
他にも面白い物があると言って小銭入れほどの大きさがある革袋を見せてくれた。
中には見慣れない白い粉が入っている。
これは燃えると白煙を上げる「煙袋」と言う道具らしい。
名前もズバリ煙が出る袋と言う見た目から付けられている。
使い方は火薬玉と違い直接炎を引火させて使うようだ。
発火と共に大量の煙が発生するので火薬玉と併用して使えば目くらまし効果があると言う。
戦闘時に戦線から抜け出す際にちょうどいいかもしれない。
物は試しにと煙袋も合わせて三つ購入した。
手に入れた商品は腰のポシェットに想像したよりも余裕があり十分収まる大きさだ。
店を出るとサフラはいつにも増して不思議そうな顔をした。
彼女には先ほど買った商品の用途を理解できなかったらしい。
もちろん今までに見たこともない道具なのだから理解できないのは仕方がない。
実演も兼ねて一度使用してみようと思う。
「まぁ聞くより見た方がわかりやすいだろう?一度荒野に出て試してみよう。町中じゃあ迷惑になるからな」
「えっと、煙袋…だっけ、アレは火を付けないといけないんだよね?」
「そうだったな。ライターかマッチがあればいいんだが…」
「ライター…?マッチ…?」
サフラにはまた僕がわけのわからないことを言っているように見えるらしい。
どちらも日本で実用化されたのは僕のいた時代から二百年以上前のことだ。
この世界が中世頃と言う生活水準だと過程すれば現代日本から逆算して三百年以上前になる。
歴史通り順当にいったとしてもライターやマッチが発明されるのは今から百年後になるだろう。
サフラに聞いたところ火を起こすには火打石を用いた方法が一般的のようだ。
火打石を使って火を起こしたことはないがライターやマッチに比べて手間が掛かることは間違いない。
ただ、これとは別にもっと効率よく火を起こす方法があると言う。
それは「烈火石」と言う不思議な鉱石を使う方法だ。
サフラによればクオルが持っていた剣と仕組みは同じらしい。
火を起こす前に呪文を唱えるか胸の中で炎が灯るイメージを浮かべることで烈火石の上にローソクほどの炎が立つ。
この世界の簡易ライターと言ったところか。
「烈火石か。それはどこに行ったら買えるんだ?」
「雑貨屋さんだよ。でも、とても珍しい物だからなかなか見つからないかもしれないよ」
「そんなに珍しいのか。そうだな、とりあえず雑貨屋を漁ってみようか。見付かればラッキーって程度に考えよう」
「うん。さっき、それらしいお店があったから聞いてみようよ」
来た道を戻ると通りに面した二階建ての路面店を見つけた。
露店とは違い商品はすべて棚に並べられている。
うず高く陳列されたその光景は大型大量販店のようだ。
日用品雑貨から何に使うのかわからない道具までいろいろな物が並んでいる。
商品を物色しているとカウンターに居た中年男性の店員が御用聞きにやってきた。
「いらっしゃいませ。どのような品をお探しでしょうか?」
「烈火石を探しています。この店にはありますか?」
「烈火石でございますか…大変申し訳ございません。当店で取扱はございますが、只今在庫を切らしておりまして…」
店員は深々と頭を下げてきた。
サフラの言う通り雑貨屋で取扱はあるようだが希少と言うだけあって簡単には見付からないようだ。
「次回の入荷予定は?」
「申し訳ございません、そちらも現在は未定でございます。火打石でしたらすぐにご用意できますがいかがでしょう?」
「いえ、烈火石を探していますので遠慮しておきます。どこか別の店で取扱は知りませんか?」
「そうですね…雑貨を扱う店はいくつかございますが、なかなか手には入らない貴重品ですので、どこでと限定することは難しいです。ですが、もしかすれば…と言う店ならございます」
「それはどこです?」
「当店のような路面店ではございませんが、露店商の中に「魔具」を扱う怪しげな店がございます。ですがどれも怪しい道具ばかりですので本物かどうかは定かではありませんが」
店員の言う魔具とはエルフ族が作った特殊な道具のことだ。
入手方法はエルフの討伐によって得られる戦利品なので産出量が極めて少ない。
ただし、その中には紛い物が含まれていることが多く、本物を求める買い手には懐疑的な面が大きいようだ。
「怪しげ…か。それでも一度見てみる価値はありそうだな」
「さようでございますか。それでしたら、地図を描きましょう。その方がわかりやすいかと思います」
「ありがとうございます」
店員は高価な紙片に地図を書いて渡してくれた。
ここは何かお礼をしないと気が済まない。
地図のお礼に銀貨一枚を手渡した。
すると店員は驚いたようだったが、厚意と言うことを説明すると素直に受け取ってくれた。
地図には町の簡単な見取り図が描かれている。
中央の通りを中心に、露店街、居住区、繁華街などが書き込まれていた。
よく見ると露店商が立ち並ぶ通りの中に丸印が打たれた場所がある。
どうやらそこが魔具を売る露店のようだ。
位置は露店街の南側になっている。
この場所は何度か前を通っているところだが意識をしていなかったため気付かなかった。
地図の指示に従い町の中を歩くと目的の店にたどり着いた。
店にはローブを纏った怪しげな男が気だるそうに店番をする姿もある。
商品も何やら読解不能な文字が刻まれた物が多く目に付く。
しかし、用途のわからないものがほとんどだ。
その中でゴルフボールほどの大きさがある真っ赤な球体を見つけた。
サフラもそれに気が付き手に取って目的の物だと教えてくれた。
「お兄ちゃん、あったよ、烈火石!」
「お嬢ちゃん、それが烈火石だとわかるのかい?」
「違うんですか?」
「いいや、それが烈火石だ。希少な石だから知る者もあまり多くはないが…お嬢ちゃんは物知りだね」
「店主、これはいくらだ?」
「それはなかなか希少な物でね。金貨一枚だよ」
「ふむ。確かに高価な物だな…。だが、これが本物という保証はあるのか?」
金貨一枚と言う金額は決して安くない。
これが偽物なら痛い出費になってしまう。
失礼は承知で店員に疑問を投げかけた。
「呪文を唱えるといい。「炎の精霊よここに集え」だ」
教えられた通りに呪文を唱えてみると烈火石の上に炎が浮かんだ。
炎は消す時は吹き消せばいいらしい。
一度吹き消してから今度は胸の中で同じ言葉を念じてみた。
すると再び炎が立ち上がった。
ライターと違ってオイルの代わりに魔力を消費するらしく魔力の残量は石の色で判断するようだ。
つまり、魔力が完全になくなった状態の石は真っ黒に変色する。
今手にしている烈火石はほぼ魔力が限界まで蓄積されているようだ。
多用しなければしばらくの間使えるらしい。
「気に入った。これを貰おう」
「毎度どうも。今後ともご贔屓に」
とりあえずこれで必要なものは揃ったことになる。
あとは荒野に出て先ほど買った物の実験をするだけだ。




