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シーン 30

 夜。

 僕らは宿を出て町へと繰り出した。

 今夜は町で半年に一度のイベントが開催されるそうだ。

 この情報は宿屋の店主から教えてもらったもので、会場となるとは町の中心部にある広場で行われるらしい。

 イベントと言うこともあり普段より多めに松明が置かれているため歩きやすくなっている。

 

 「今日が祭りの日だったなんてラッキーだったな」

 「うん。私も話には聞いてたんだけど、参加するのは今日が初めて」

 「さっきの話だと結構有名な祭りなんだよな?遠くからわざわざ足を運ぶ人も居るって言ってたくらいだし」

 「そうだね。あ、ほら、会場が見えてきたよ」


 視線の先にはイベントのメイン会場に集った多くの人の姿が見えた。

 その面々の大半は各地から集った行商人たちだ。

 中にはハンターやバウンティーハンターと思われる武器を携帯した者の姿もあった。

 広場に通じる町のメインストリートは昼間とは違い飲食物を扱う露店が目立つ。

 松明の明かりに照らされた会場は華やかで日本の夏祭りを連想させる。

 人だかりの中を進むと広場の真ん中にステージが設けられていた。


 「あれがメイン会場か」

 「うん。ここで行われるみたい」


 このイベントは各地から持ち寄られた商品をオークション形式で販売する即売会だ。

 オークションの参加には特別な条件などは設けられていないため、予算さえ合えば飛び入りでの参加も認められている。

 取引される商品は主に武具と言うこともあってハンターやバウンティーハンターの姿が目立つと言うわけだ。

 また、商人たちも珍しい商品を手に入れようと目を光らせている。

 

 「ん?二人も来てたのか、奇遇だな」

 

 突然背後から声をかけられた。

 声の主はニーナだ。

 彼女の声は人混みの中でもよく通るためわかりやすい。


 「ニーナも来てたのか」

 「こんばんは、ニーナさん」

 「こんばんは、サフラちゃん。私は元々このオークションに参加することが目的でこの町に滞在していたからな。今日こそは手に入れたいと思っているんだよ」

 「手に入れる?」

 「あぁ、私が使う魔具だよ」


 ニーナの瞳が怪しく光った。

 魔具と言えばクオルが使っていたブレイズソードが真っ先に思いつく。

 そもそも魔具はエルフ族のみが作れる特別な道具だ。

 そして、使い方さえわかれば人間でも魔法を使うことができる。

 そのためニーナは以前から魔具を手に入れようとチャンスを伺っていたらしい。

 しかし、魔具はエルフ族にしか作れないとても貴重なもので、主な入手方法は魔具を所持しているエルフを倒して奪い取る他はない。

 また、その希少性から一般的な市場にはあまり流通していないようだ。


 「そんな貴重な魔具がここで手に入るのか?」

 「確証はないよ。なにしろ元々の数が少ないのさ。腕のいいハンターならクオルのように直接エルフを倒して奪い取ることもできるが、私は命を掛けてまで危険を冒すほど後先考えない性格でもなくてね。ただ、このオークションには数は少ないが過去に何度か魔具が出品されたことがあるんだ。だからその可能性を信じて足しげく通いそのチャンスを掴まなければいけない。そういうことだよ」

 「つまりクオルの持っていた剣はもの凄いレア物だったんだな。持っていたヤツがバカそうだったからそんな風には見えなかったが」

 「私も実物を見るまで半信半疑だったよ。なにしろBランクに指定されているエルフを一人で討ち取ったんだ。いくらアイツが腕の立つハンターでも最初は耳を疑ったさ」


 魔具はその特性上使い方を誤れば命を危険に晒すこともある。

 具体的には力を使い過ぎたクオルが洞窟の中で動けなくなった例がわかりやすい。

 しかし、上手に使えば心強い武器になるため、ある程度実力に自信のあるハンターなら喉から手が出るほど欲しいもののようだ。

 そのため、この日のために多くの討伐依頼を達成して落札資金を工面する者が後を立たない。

 

 「おっと、そろそろ始まるらしい。二人とも、悪いが私は前の方に移らせてもらうよ。近くで品定めだ」

 「随分気合が入ってるな」

 「仕方ないさ、この日をずっと待っていたんだからね」

 

 ニーナはそう言うと急ぎ足で人垣を掻き分け前の方へと移動した。

 僕らも彼女の後を追おうと思ったが、商品落札に意欲的な参加者の圧力から近寄ることは難しく、少し離れた位置へと移動をする。

 

 「みなさま、大変長らくお待たせいたしました。これより半期に一度のナイトオークションを始めたいと思います。司会は私、副町長のクリムトが務めさせていただきます。どうぞよろしく」

 

 司会を務める男性はこの町の副町長らしい。

 どうやらこのイベントは町が主催するもののようだ。

 副町長はステージ上から挨拶をするとさっそくオークションが始まった。

 入札方法は希望の金額を司会者に伝わるよう叫ぶだけのようだ。

 まず出品されたのは黒い刀身が特徴の長剣だった。

 剣の形からハンターたちにも馴染みの深いブロードソードだとわかる。

 

 「それでは始めたいと思います。最初の品物はこちらのブロードソード、使われている素材テイタンはこの町の特産品でもあります。ご存知の方も多いでしょうが、テイタンは鋼鉄に比べて頑丈で重さは半分しかございません。耐久性にも優れた業物の一品です。それでは入札を開始いたします」

 

 司会者が商品の簡単な説明を済ませ入札開始の音頭を取った。

 すると参加者たちは一斉に入札金額を大声で叫び始め、司会者はそれに耳を傾けながらどんどん値段をつり上げていく。


 「はい、そちらの方、金貨二枚が出ました!他にはございませんか?」

 「こっちは金貨二枚と銀貨五枚だ」


 今度は別の参加者が値段をつり上げ、司会者もそれに同調してさらに参加者を煽っていく。

 声が上がるたびに会場がざわめき熱気を帯びていくのがわかる。 


 「おっと、そちらのお客様から金貨五枚がでました!さあ、他にはございませんか?」

 「金貨六枚だ」

 「金貨六枚、金貨六枚が出ました!さあ、これ以上の方がいらっしゃらなければこれで落札となります」

 

 司会者は最後に会場を見渡し金貨六枚でブロードソードを落札した。

 商品の引渡しはステージ上で行われる仕組みだ。

 落札したのは商人の中年男性で、受け取った商品を会場の全員に見えるよう高く掲げ誇らしげな顔をしている。

 

 「これがオークションか、面白そうだな」

 「私も初めて見たけど何かワクワクするね」

 「よし、じゃあ気に入った商品があったら声を掛けて見るか」

 

 続いてステージに新しい商品が運ばれてきた。

 今度は一見すると何かの卵のようだ。

 しかし、卵と言っても鶏の卵ほどの大きさではなくボーリングの球ほどあり、表面は茶色と緑の迷彩模様でどこか毒々しい印象を受ける。


 「今度は珍しい商品の登場です。こちらは怪鳥ズーの卵、とても稀少なものなので皆さんお見逃しなく!さあ、オークションスタートです」


 今度は怪物の卵が出品された。

 確かに珍しい品物ではあるがこんなものを欲しがる者はいるのだろうか。

 疑問をよそに次々に希望落札価格が釣りあがっていく。

 

 「こちらのお客様、金貨三枚です!他にございませんか?」

 

 最後に司会者が会場を見渡すと怪物の卵は最終的に金貨三枚で落札された。

 最初のブロードソードが金貨六枚だったので決して安いものではない。


 「サフラ、アレって何に使うんだ?」

 「とっても高級な食材みたいだよ。でも、卵だけで金貨三枚だからね。私たちみたいな庶民の口には入らないよ」

 「でも、怪物の卵だろ?よくそんなものを食べる気になるよな…」

 「そうかな?結構そう言う料理はあるって聞くよ」

 「マジか…」


 サフラの話によればこうした珍しい食材は他にもあるらしい。

 これも異世界ならではと言うべきか。

 確かに珍味と呼ばれる物はあまり見た目が良くないこと多い気がする。

 そう考えればあの卵も食べてみたら実は美味しいのかもしれない。

 オークションは大きなトラブルもなく順調に進んだ。

 しかし、僕らが落札したいと思うような商品がないままついに最後の商品の入札が始まった。

 最後の商品は何の変哲もないサーベルだ。

 しかし、刀身にはどこかで見覚えのある文字が刻まれていることに気が付く。

 

 「それでは最後の商品です。今回のメインイベント、ミスリル銀のサーベルです!ミスリル銀と言えばエルフ族にしか作れない稀少な金属。とても珍しい商品でハンターギルドの本部から提供されたものになります」

 

 司会者がそう告げた瞬間会場がどよめいた。

 それを聞いて思い出したのはクオルの持っていたブレイズソードに刻まれた文字だ。

 司会者の話が本当ならあの剣は魔具に違いない。

 しかし、それ以上細かな説明がないためどんな能力を持っているのかはわからなかった。

 そんな中、参加者の一人からとんでもない数字が飛び出した。


 「金貨三十枚!」


 煌びやかな衣装を着た中年の商人がそう高らかに宣言する。

 金貨三十枚は今回のオークションで出た最高金額だ。

 僕も参加をしようと思ったが今後のことを考えるとさすがに手が出ない。

 司会者も他の参加者が意気消沈したのを確認して入札を終了しようとしている。

 そんな時だった。


 「ちょっと待った!こっちは金貨五十枚だ!!」


 「待った」の声を掛けたのはニーナだった。

 それを聞いて司会者だけでなく会場に居た全員が驚く。

 中でも印象的だったのは金貨三十枚を宣言した商人だった。

 しかし、商人は冷静さを取り戻すとさらに声を上げる。

 どうやらまだ続ける気らいし。


 「金貨五十五枚!」

 「おっと、そちらのお客様から金貨五十五枚が上がりました!さすがにこれ以上はないでしょうか?」

 「金貨七十枚!」

 

 ニーナが声を上げて会場が再びどよめいた。

 司会者も釣り上がっていく金額を聞いて笑顔が引きつっている。

 

 「き、金貨七十五枚だ!」


 商人も負けじと入札額を釣り上げた。

 しかし、ニーナはどうしてもこの商品が欲しいらしい。

 彼女は一つ大きな息を吐くと決意に満ちた表情で拳を天に突き上げ高らかに宣言した。


 「金貨百枚だ!」


 これには会場に居た全員が今日一番の驚きの声を上げた。

 反対に宣言したニーナは清々しい顔をしている。

 一緒に張り合っていた商人もさすがに金貨百枚を越える金額を提示できず商品はニーナが無事に落札した。

 ニーナはステージに上がりサーベルを高々と掲げて満面の笑みを浮かべている。


 「どうだ、二人とも!念願の魔具だぞ」


 ニーナは僕らと合流して落札した剣を自慢げに見せてくれた。

 近くで見ると確かにクオルが持っていたブレイズソードとよく似ているのがわかる。 


 「に、ニーナさん、お金…大丈夫?」

 「問題ないよ。幸運なことにバレルゴブリンの懸賞金も入ったところだ。安いものさ」

 「だからって、金貨百枚はやり過ぎじゃないか?この剣が本物だって保証はないだろう」

 「いいや、本物だよ。なにせ、この剣を出品したのはハンターギルドの本部だからね。大方、エルフを倒したハンターが証拠品にと本部へ献上したんだろうさ」

 「なるほど、ギルドが出品者なら偽物は出さないか…」

 「それこそコイツが偽物ならハンターギルドの信用は失墜する。だから下手な偽物を出すはずがない。そう言うことさ」


 ハンターギルドは絶対的な信頼の元に成り立っている。

 その信用を損なうようなことがあっては組織のあり方その物に一石を投じると言うことだ。

 それがわかっていればハンターギルドが偽物を出すはずがないと納得できる。

 ニーナにしてみれば念願だった魔具を手に入れて大満足と言ったところだろう。

 僕にしてみれば高い買い物のように思えたが、彼女の価値観に置き換えれば些細な問題のようだ。

 こうしてオークションは大成功に終わった。

 次回の開催は半年後になる。

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