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シーン 29

 バレルゴブリンとの死闘を終えてから半日が過ぎた。

 正確な時刻はわからないがそろそろ夕食時と言ったところだ。

 僕らは二人を病院に送り届けた後ハンターギルドへ赴きバレルゴブリンを倒した旨を報告した。

 そこで待っていたのは三時間に及ぶ長い事情聴取だ。

 バレルゴブリンを倒したのは誰か、相手の特徴はどうだったか、トンネル内部の様子など、聴取の内容は多岐に渡った。

 何故、このような状態になったのかと言えばダイドの負傷が原因だ。

 彼は討伐チームのリーダーと「ギルドの眼」の役割を担っていた。

 つまり、負傷さえしていなければ僕らに代わって現場の状況を報告するのは彼の役目だったと言うわけだ。

 ちなみにクオルは彼の代理役でもあった。

 そのクオル自身も魔具を使った反動で動けなくなってしまい今は面会謝絶の状態だ。

 それに、二人ともバレルゴブリンを仕留めるまで意識を保っていなかったため報告役の責任を果たしきれていない。


 僕に向けられた聴取はサフラやニーナとは違い、「銃」に対する知的探求心からの追及に多くの時間が割かれた。

 僕は仕方なく大まかなギミックから殺傷能力、射程距離や特性などを事細かに説明することになり、建物裏の中庭でデモンストレーションまでする大盤振る舞いだ。

 ようやく開放された頃には精神的に参っていたのは言うまでもない。

 銃の性能を証明際には大勢のギャラリーが集まる結果となった。

 それを見た関係者たちが目を丸くして「魔法」だの「魔具」だと言うものも居た。

 ちなみに、今は宿に戻り一息ついたところだ。


 「…なぁ、ニーナ、ギルドってあんなに煩わしいところだったのか?」

 「そうだな。彼らは基本的に現場主義のところがあって、自分たちの目で見たもの以外はなかなか認めようとしないんだよ。ただ、例外として仲間だと認めた筋からの情報はよほどのことがない限り疑わないのさ」

 「だからダイドさんが俺たちに同行したのか」

 「初めはクオルだけだったんだがな、近くで話を聞いていたダイドがお目付役を買って出てくれたんだよ。クオルにしてみれば面倒な報告は先輩に任せられるし、自分は自由に暴れまわるつもりだったらしい」

 「なるほどな。確かにその方がアイツ向きだ」

 「つまり、ニーナさんはこのためにバレルゴブリンを倒したかったってことですよね」


 隣で話を聞いていたサフラが目を輝かせた。

 ニーナからバレルゴブリン討伐の協力を依頼された際に聞いた「ギルドからの信頼を得たい」と言っていたのを覚えていたようだ。


 「その通りだよ。私はどうも人に説明するのが苦手でね…。毎回似たような聴取をされ困っていたのさ。だから彼らに実力を証明する機会をうかがっていたんだ。まあ、今回のことでようやく信頼を得られたように思うよ。キミたちが協力してくれたおかげだ」

「いや、活躍したのはお前とクオルだ。俺は別にたいしたことはしてないよ」


 実際に僕はニーナやクオルほど活躍はしていない。

 やったことと言えば離れた位置から援護射撃をしていただけだ。

 無数にいた雑魚の処理はクオルとダイドがほとんど担当したため僕の出番はほとんどなかった。

 それに、バレルゴブリンに至ってはニーナが留めを刺している。

 サッカーで言うところの「アシスト」はしたものの「ゴール」を決めたわけではない。


 「いやいや、キミがうまく援護をしてくれたから楽に立ち回ることが出来たんだよ。クオルもそう感じているはずだ」

 「そうか。まあ、そう言ってもらえると手伝った甲斐があるよ。ありがとな」


 礼を言うとニーナは照れくさそうに笑った。

 彼女のような美人には笑顔が良く似合う。

 これはサフラにも言えることだ。


 翌日。

 僕とサフラはギルドからの呼び出しを受けて指定された場所に向かった。

 呼び出されたのはギルドの支部長室だ。

 待っていたのは頬に深い刀傷のある肩幅の広い中年男性だった。

 一目見た印象はダイドより少し歳上といった感じがする。

 男性は支部長の席に深く座り威厳たっぷりと言った雰囲気だ。

 ただし、嫌味のある権力者と言う感じはしない。

 現場の苦労を良く知る叩き上げと言った感じだ。

 だから、一目見た感想は権力者と言うより苦労人と言う方が適切だろう。

 支部長と言う立場から努力して威厳ある様子を装っているようにも見えた。


 「やあ、待っていたよ。ほお…話しに聞くよりずっと若く見えるな」

 「どうも」

 「そんなに身構えなくていい。キミたちは町の英雄だ。何も取って食おうなどとは思っていないさ」


 そう言うと男性は高笑いをした。

 見た目の印象とは違い性格はずっと快活そうだ。


 「それはどうも。あぁ、私はレイジ、こっちはサフラ。見ての通り旅人です」

 「私は支部長のフレイズと言う。その若さで旅人とは…何か訳ありかな?」

 「えぇ、野暮用で帝都を目指す途中です。共闘したニーナとはこの町で偶然知り合って、あとは聴取の通りです」

 「なるほど。確か報告書によればニホンという国からの来訪者だとか。銃と言う不思議な武器の使い手ともあるな」

 「えぇ。日本はここから帝都よりも遥か遠い地にあります。銃は日本ではありふれた武器です」

 「ふむ…そんな国があったとは。戦争にでもなれば大変なことだ」

 「その点はご心配なく。日本はこちらの国と一切の交流がありません。それに、戦争をするにも遠過ぎてお互いに干渉することは無いでしょう。それに私はただ成り行きでこちらにたどり着き旅をしているだけですから。そちらも聴取通りです。それよりここへ呼ばれた理由を聞いてもいいですか?」


 昨日散々追求されたことなので特に突っ込んだ話はしてこなかった。

 ここで長話になればたまったものではない。

 幸いフレイズもそこまで話を大きくする気はないようだ。

 彼は一つ咳払いをすると僕らをここへ呼んだ経緯を説明し始めた。


 「そうだったな。昨日キミたちの報告を受けた後にギルドの手練れを数名トンネル内部に送り込んだんだ。状況の把握のためにね。彼らの報告によれば一部落盤が発生したトンネル内部には夥しい数のゴブリンの死骸と討伐対象であるバレルゴブリンの死骸が見付かったと聞いている。これらの状況は聴取内容と一致したためバレルゴブリンの討伐達成を正式に認めるものとする。従ってキミたち二人にはギルドから懸賞金を手渡すことになった、と言うのが今回の理由だ」

 「そうでしたか。わざわざお呼びいただき、どうも」

 「機嫌を悪くしないで欲しい。煩わしいとは思うがこれは規則でね。勘弁していただきたい。それで、これが懸賞金だ。受け取りたまえ」


 そう言って革袋を手渡された。

 手にズシリと伝わる重さからサフラの村でゴブリンを倒して得た懸賞金よりも明らかに多いことがわかる。

 フレイズは詳細について書かれた書類も一緒に手渡してくれた。

 そこには討伐したゴブリンの数と場所や懸賞金の金額が明記されている。

 驚いたのは金額の欄だ。

 そこには「各自金貨百枚」と明記されている。

 つまり僕とサフラ合わせて二百枚分だ。

 それにはサフラも驚いた様子で目を丸くしながら何度も書類を確認していた。


 「これ…金額が…」

 「あぁ、それは正当な対価だ。受け取っておきたまえ」

 「でも、これには各自と…」

 「うむ。我々も少し…いや、かなりと言うべきか。バレルゴブリンと言う化け物を低く見積もっていたと反省したよ。あれほどの化け物はギルドの主力部隊を送り込まなければならないほど強敵だ。それをキミたちはたったの四人で討伐した。主力部隊を動かすには多額の費用が必要になる。それを考えればこれくらいの対価は当然だ」

 「確かに数は多かったですね。バレルゴブリンも聞いていたより巨大な化け物でした」

 「つまり、それだけ感謝しているのだ。理解してもらえたかな?」

 「そうですか。だから疑わしい目で見られたらわけですね。納得です」


 これで執拗な聴取を受けた理由が理解できた。

 そうでなければあれほど長い間事情を聴かれるのは不自然だ。

 得られた懸賞金のことを考えればバレルゴブリンを倒した苦労と事情聴取に割かれた時間の対価としては十分に納得ができる。


 「うむ。そして、銃と言う兵器を目の当たりにしてその考えは変わったよ。あの武器は素晴らしい。銃が実用化されれば戦争の概念は大きく変わるだろう」

 「…私は平和主義者なので人が殺し合うところは見たくはないんですよ」

 「別に人間同士で争うわけではないさ。我々の宿敵であるドワーフやエルフの殲滅は皇帝陛下をはじめ人民の悲願だ。もちろん我々に仇なす亜人族も例外ではない」

 「なるほど。理屈はわかりますよ。ただ、出来れば私たちの関知しないところでやっていただきたい。それだけです」

 「ふむ…旅人のキミには理解し難いか。それも一つの答えだろう。聞けばニホンと言う国にはドワーフやエルフたち関わりがなかったそうだな」

 「えぇ、全てお話した通りです」


 僕はハンターでも殺し屋でもなければ戦えと強要されて戦場に赴く兵士や傭兵でもない。

 元々は戦争と無縁の世界に暮らしていたので平和を望むのは当たり前のことだと思っている。

 ただし、自分に不利益があるとわかれば黙って見過ごすわけには行かない。

 正当防衛と言う理由があれば覚悟を決めて戦うと決めている。

 だから理由のない戦いは僕とは関わらない世界でやってもらいたい。

 この考え方がハンターギルドに所属するハンターたちとの違いだろう。


 ニーナはどう思っているかわからないがきっと彼女も生活のために戦っているに違いない。

 討伐対象を倒して得た懸賞金はそのまま生活の糧になる。

 何不自由ない生活を送っているのであればあえて危険な世界に飛び込むこともないはずだ。

 しかし、彼女の本質が戦闘狂であるのなら話は別なのだが。


 結局、僕が軍人らしからぬ反論をしたおかげで「ハンターとは何か」とフレイズ支部長直々に説明を受けた。

 規則や美学と言った独自の考え方があるらしい。

 ただ、それを知ったところで今の僕には一つも感心がもてなかった。

 出来れば早く宿に帰ってゆっくりしたい。

 フレイズはひとしきり説明すると僕らを開放してくれた。

 満足そうにするフレイズとは対照的に僕らは疲れきっている。

 話が終わった頃にはすっかり辺りが茜色に染まっていた。

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