シーン 27
まずは冷静になって状況を整理しなければならない。
今の状況を適当な一言で表すなら「最悪」だ。
パーティーのリーダー的存在だったダイドは今生死の境をさまよっている。
「今すぐに…」と言う危機的な状況ではないが早く医者に見せて適切な処置を行いたいところだ。
他の面々もそれを理解しているためどこか戦闘に集中できていない。
ニーナやクオルもどこか上の空のまま剣を振るい本能だけで敵を倒しているように見える。
対するゴブリンは戦闘開始時に比べ確実に数を減らしてはいるものの特に士気が下がっている様子はない。
むしろ、バレルゴブリンの戦線参加によってわずかに士気が高まっているようにも見受けられる。
数が多いだけに長期戦になればこちらが不利になるのは明らかだった。
どうにかしてこの状況を打破しなければこちらが危ない。
それには群がる雑魚を素早く処理してバレルゴブリンに致命傷を与える必要がある。
まず先に動いたのはゴブリンたちだった。
動きは先ほどにも増して統制が取れており集団で各個撃破をしようとしている。
ただし、数体程度で取り囲んだところで相手にならないため、クオルは群がるハエを潰す程度にしか思っていないだろう。
ニーナもどう思っているかはわからないが切っ先は確実にゴブリンを捉えている。
「…このままじゃジリ貧だ。ニーナ、何とかしてヤツの動きを止められないか?」
「それについては私も先ほどから考えている。だが、雑魚が邪魔をしてなかなか活路が見いだせないんだ」
「クオルはどうだ?」
「…手はなくはない。だが少し集中する時間が欲しい。そうすればこの状況を打破できるはずだ」
「ほう、アレをやりつもりか。わかった、しばらく私が前衛を務めよう。レイジ、私たちの援護を頼む!」
ニーナとクオルの間ではこれから何をするのか意志の疎通が出来ているようだ。
僕にはまだ何をするのかわからないが援護射撃をしながら状況を見守る事にした。
ニーナはクオルの周りに群がってくるゴブリンを倒しつつ的を絞らせないよう素早い剣裁きで翻弄している。
クオルは両目を深く閉じ両手で剣を握りながら念を込めていた。
すると、次第に刀身から炎が沸き立ち激しい火柱が上がっていく。
その熱気は後方に居る僕のところにまで伝わってきた。
「ニーナ、避けろ!」
クオルは叫びながらそのまま剣を真横に薙払った。
ちょうどテニスのフォアハンドでフルスイグするのと同じだ。
片手で素早く振り抜いた刀身から炎の帯が横一線に広がり、そのままゴブリンたちを飲み込んでいく。
灼熱の炎を浴びたゴブリンたちは全身を炎に巻かれ動きを止めた。
彼の剣は鉄さえ溶かす高熱を放つため、炎に焼かれた死体は黒こげになっている。
しかし、炎を放ったクオルの様子がおかしいことにも気が付いた。
今にも倒れてしまいそうな脱力感に襲われ足元がおぼつかなくなっている。
「…ハァハァ…ニーナ…あとは…頼む…」
そう言って彼はフラフラと歩きながら前線を離れてしまった。
しかし、炎によって近くにいたゴブリンは焼き尽くされ残っているのはバレルゴブリンだけとなっている。
バレルゴブリンも先ほどの炎でいくらかダメージを受けているものの、身体の一部を焦がした程度で致命傷には至らず未だ健在だ。
クオルは最後の気力を振り振り絞って後衛である僕らの方へ戻ってきた。
「どうしたんだよお前!」
「これがあの技を使った代償だ…。精神的に酷く疲弊する。…レイジ、俺は少し休む…あとは頼んだぞ…」
それだけ言うとクオルは壁を背に座り込んでしまった。
まだ目は閉じていないがすっかり覇気がなくなっている。
今なら子どもにも負けてしまうのではと思うほど弱り果てた姿だ
おそらく今の技は彼にとって切り札だったのだろう。
代償が大きかった分使うのを躊躇している様子だった。
ただ、ダイドの負傷をきっかけに覚悟が決まり力を使い果たしたようだ。
おかげで敵勢力は討伐対象のバレルゴブリンだけとなった。
ただ、不気味なことにバレルゴブリンは動揺した様子もなく振り上げ剣を無慈悲に振り下ろすばかりだ。
仲間にも容赦なく攻撃を浴びせていたところを見ると一人になったところでどうとも思っていないらしい。
「あの炎を耐えたのか…まさに化け物だな。レイジ、アイツは私が何とかして仕留める。キミはアイツの動きを封じて欲しい」
「あまり自信はないが…何とかしてみるさ!」
銃を構えてみたものの普通に銃弾を撃ち込んだだけでは怯ませることはおろか動きを止める事もできない。
頭も高い位置にあり腹部と同様に分厚い脂肪で覆われていることから致命傷を与えるのは難しそうだ。
「お兄ちゃん、私に考えがあるの。ちょっといいかな?」
「何だ?」
「ゴブリンの足の指、そこを狙ってみたらどうかな?」
「足の指…そうか!足には神経が集まってるから痛覚を感じるかもしれない。動きを鈍らせるには十分かもしれないな」
「うん。試してみる価値はあると思うの」
つまり、タンスの角に足の指をぶつけた時の状況を作れと言うことだ。
身体の構造が人間と同じであればきっと効果はあるだろう。
サフラの言う通り試してみる価値はありそうだ。
幸い身体の上部にある急所を狙うより足元を狙う方が照準を合わせやすい。
僕はすぐさま足元に向けて銃弾を放った。
発砲音と同時に数発の弾が目標物を捉える。
「ぐぉぉぉぉぉおおおおおッ」
「レイジ、効いてるぞ!その調子だ」
「任せろ!」
今までとは明らかに違い予想通りの効果を示した。
それを証拠にバレルゴブリンの動きが明らかに鈍っている。
神経が集中している足の指は急所の一つになるらしい。
ただ、出血量が少なくこれが致命傷になるわけではなく一時的に動きを鈍らせる効果しかなさそうだ。
それでも僕は絶えず足の指ばかりを狙って引金を引き続けた。
絶え間なく続く発砲音がトンネル内にこだます。
そして、ついにバレルゴブリンは膝をついた。
「よくやった!あとは私に任せろ」
そう言ってニーナは洞窟の壁から突き出した突起を一度だけ足場にして高く飛び上がった。
その高さはちょうどバレルゴブリンの肩と同じだ。
ニーナはそのまま剣を首筋に向かって全力で振り降ろした。




