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シーン 23

 翌朝。

 町は異様な雰囲気に包まれていた。

 理由は噂になっているバレルゴブリン絡みだ。

 昨日、ハンターギルドから派遣された勇士の一団がバレルゴブリンの討伐に向かったところ、今朝になって「全滅した」と言う情報が流れたのが原因だった。

 派遣されたメンバーは五人でそれぞれがキャリアを積んだベテランだったらしい。

 町の人たちはハンターギルドにかなりの信頼と期待を持っていたため今回の出来事は大きな衝撃が走った。


 ちなみに送り込まれたメンバーはゴブリンよりも上位種であるオーク十数体を討伐できる程度の戦力があったらしい。

 ギルド側もバレルゴブリンの実力を低く見積もっていたわけではなく、想定していたよりも強力な相手だったということだ。

 つまりバレルゴブリンの強さはオーク十数体よりも強いと言うことになる。


 「レイジはどう思う?」

 「情報が本当ならかなりヤバい相手だな。正直戦いたくはない」

 「…そうだな。ただし、こんな情報もあるぞ。討伐時の報酬をさらに金貨三十枚分上乗せするそうだ」

 「金貨三十枚分上乗せとは思い切ったな。それだけギルド側もこの件に本腰を入れたということか。それで、討伐に向かおうっていう動きはありそうか?」

 「今のところ表向きは落ち着いているよ」


 ニーナは早起きをして出来る限りの情報を仕入れてきたようだ。

 情報の信頼性もかなり高いと太鼓判を押している。


 「レイジ、もう一度だけ聞く。私とバレルゴブリンを討伐しないか?」

 「言っただろ、サフラを危険な目に遭わせたくない。そりゃ、懸賞金は魅力だがそれ以上にリスクが大き過ぎる」

 「ふむ…じゃあ、そのリスクが少なければ話を呑むと?」

 「リスクを少なくって、そんなことが出来るなら話はかわってくるが…」


 これは僕に出来る最大限の譲歩だ。

 ニーナが提示する条件によっては考えを変えるかもしれないと言う意味でだが。


 「わかった。少し気が進まないが一人あてがある。そいつを仲間に入れるというのはどうだ?」

 「おいおい、気が進まないヤツを仲間に入れるのか?それは問題だろう」

 「いや、実力はかなり高い。それこそ、私に近い実力の持ち主だ。それに、ヤツはギルドでBランクに指定されていたエルフを倒した男でもある。実力は折り紙つきだよ。ただ、私が気に入らないのはヤツの性格でね。コミュニケーション能力に少し難があるんだ」

 「それは実力以前の問題じゃないのか?」

 「まぁ、そうとも言えるな。だがヤツの力を借りれば私たちだけでも十分にバレルゴブリンと渡り合えるだろうさ」


 ニーナは自身あり気に胸を張った。

 文字通り胸を突き出したため目のやり場に困ってしまう。 

 僕の隣で黙って聞いていたサフラは少し不安そうだった。

 自分よりも強い相手と対峙すると言うことはそのまま命の危険に直結する。

 戦うにしても相応の準備がなければ犬死にに行くようなものだ。

 ニーナもその事は理解しているため即戦力になる僕をどうにか仲間に引き入れたいという意図が痛いほどわかった。

 ただ、バレルゴブリンの情報があまりにも乏しいため想定外の事態が起こるかもしれない。

 論理的に考えてバレルゴブリンをどう討ち取るか真剣に議論する必要がある。


 「とりあえず話を聞こう。参加を決めるかどうかは内容次第だ。あてのあるハンターは一体どんなヤツなんだ?」

 「そうだな、見た目には細身だがオークを一振りで倒す実力を持っているよ」

 「それは凄いな。具体的にはどんな武器を使うんだ?」

 「一見、何の変哲もないショートソードだ。ただ、特徴的なのは刀身に古代の文字が刻まれていることだな。何でも魔法を操るエルフ族から奪った剣らしい」


 刀身に文字と言われ思い出した顔がある。

 初めてこの町に来た際ハンターギルドの前で絡んできた男のことだ。

 名前は聞いていなかったが今のところニーナの言う特徴と一致している。

 嫌な予感がした。


 「…そいつって、背は俺より少し高いくらいで、やたらと目つきが悪いヤツじゃないか?」

 「あぁ、そうだな。付け加えれば髪は薄い青色で短髪のヤツだ」

 「そうか。そいつなら前にケンカ…いや、ヤツにしてみれば本気だったと思うが、一度襲われたことがある。俺の実力を知りたかったらしい」

 「ほう、それで?」

 「バカそうなヤツだったんで、コイツで牽制したら逃げて行ったよ」


 そう言ってホルダーから銃を抜いた。

 恐ろしく軽いが質感は本物の金属と変わりない。

 この銃には何度も世話になったが、これから先もずっと付き合っていくことになるだろう。

 僕がこの世界で生きていくための生命線だ。


 「ふむ…それが銃というヤツか。そんな小さな物でゴブリンを殺せるとは…実際に見ても信じられないな」

 「だろうな。初めて見る物だから疑われても仕方ないさ。そうだな、一度どんなものか見せておこうか。その目で見て効果を実感してくれればいい。気に入らなければ他を当たってくれ」


 僕らは宿の裏庭へ向かった。

 ここならばまず人目にも触れることもなく、流れ弾による被害が発生する可能性も

低い。

 僕は的の代わりになる物がないかと辺りを見渡し、炊事や暖房に使われる薪の束が積まれているのを見つけた。

 たくさんあるため一つくらい拝借しても問題はないだろう。

 用事が済めばまた元の場所に戻しておけばいい。

 僕はそれを手に取って地面に立てた。

 円柱状なのである程度の安定感があり少し風が吹いたくらいでは倒れない。

 僕らは薪から少し距離を置いた。


 「簡単なデモンストレーションだからあまり期待しないでくれ」

 「それで、今から何をする?」

 「ここからコイツであの薪を撃ち抜く」

 「ふむ…まぁ、やってくれ」


 サフラとニーナに少し離れるように言って銃口を薪に向けた。

 距離は十数メートルほど離れている。

 この程度ならまず外すことはない。

 特に気負うこともなく呼吸を落ち着かせて引金を引いた。

 乾いた発砲音と同時に銃口から弾が飛び出す。

 弾は狙い通り的に命中すると衝撃で薪は後方へと跳ね飛んでいった。

 かなりの勢いがあり建物の壁まで吹き飛び思い切りぶつかって音がするほどだ。


 「なッ…何が起こったんだ!」

 「今、音が聞こえて…薪が急に跳ねたね」


 ニーナは何が起こったのかわからないと言った表情で目を見開いている。

 サフラはと言えばこうして銃を使うところを見たのは二度目だ。

 しかし、まだ仕組みをよく理解していないらしい。

 こんな時はどんな風に説明したらいいのだろうか。

 回りくどい説明を省いた方がかえってわかりやすいと言うこともある。

 思案した結果見たままを説明することにした。


 「これが銃だ。この穴から金属の弾が飛び出して目標物に穴を開けるんだ。そうだな…人の頭なら簡単に貫通するくらいの威力がある」

 「俄かに信じられんな…」

 「疑いたい気持ちはよくわかるよ。うーん…そうだな、お前が知ってる火薬を使った攻城兵器、あれを誰でも扱えるよう、小型化したのがコレだと思えばいい」

 「ふむ…では実際にどれほどの破壊力がある?この目で見てみないと納得はできないな」

 「お前もなかなか用心深いヤツだな。今のを見て納得しないのか。わかった。じゃあ、アレを撃ってみよう。そうすれば、どれくらいの威力か大体理解できると思うぞ」


 僕は近くに積まれていた赤レンガを見つけた。

 赤レンガの近くには花壇がある。

 どうやら花壇に使われるもののようだ。

 これを撃ち抜いてしまえば数が一つ減ってしまうためあとで困ることがあるかもしれない。

 ただ、数が多くどう見ても余分にある。

 一つくらい拝借しても問題ないだろうと判断した。

 どうしても必要に迫られれば弁償すればいいだろう。

 僕はレンガを先ほどと同じように地面に立てて置き再び距離を取った。

 レンガは薪よりも小さいため慎重に狙いを定める必要がある。

 実際これほど低い位置にある的を狙うことはほとんどない。

 ただ、今回はデモンストレーションなので考えるだけ無駄だ。


 「行くぞ。破片が飛び散る可能性があるから十分距離を取るんだ」


 そう言って二人に距離を取るよう伝えた。

 安全を確認すると一呼吸置いて心を落ち着けると躊躇なく引金を引いた。

 発射された弾は先ほどと同様に見事レンガを捉え、その衝撃で的の上部が粉々に吹き飛び辺りに破片が散乱する。

 撃ち抜いた弾もしっかりと貫通して地面の奥深くまで潜り込んでいる。


 「これくらいの威力はある。納得したか?」

 「あ、あぁ。それにしても恐ろしい兵器だな。あんなものが頭に当たったら即死だろう」

 「そうだな。コイツでゴブリンも即死だった。人なら同時に何人殺せるか…恐ろしくて試す気にもならないさ」

 「銃については理解した。だから改めて問う。私と共に討伐へ向かわないか?」

 「それについては仲間に入れるハンター次第だ。実際、俺はヤツと一度やりあっているからな。あまりイイ印象はない」

 「それについては私に任せてもらいたい。いや、何とかすると言う意味だが」

 「期待しないようにしておくさ。とりあえず参加は保留にさせてくれ」


 ニーナは必ず話をつけると言い残し慌てて駆けて行った。

 取り残される形になった僕らはニーナが戻ってくるまでの間、これからのことについて話さなければならない。

 特に重要なのは参加すると決まり、戦闘になった時の対処法だ。

 これは普段から身を守ると言うことにも繋がる。

 サフラはそれなりに実力があるとは言え積極的に前線へ立たせて戦わせたくはない。

 できれば後ろに控えさせて身を守るために力を使わせる方が安心できる。

 しかし、サフラに確認したところ意思は固く積極的な戦闘への参加を希望した。


 「…サフラ、お前が強いのはよくわかったよ。だけどな、無理をすることが俺のためになるとは思わないでくれ。俺が望むのはお前が元気で笑顔で居ることなんだからな」

 「うん、大丈夫。お兄ちゃんを悲しませるようなことだけは絶対にしないよ」

 「わかった。くれぐれも注意してくれ」


 結局ニーナが戻ってきたのは話し合いが終わり昼食を食べ終わった後だった。

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