表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/125

シーン 20

 僕の気持ちが落ち着いたところで二人の手合わせについて評価を下した。

 客観的に見て実力は明らかにニーナの方が一枚も二枚も上を行っている。

 身長差のリーチもあるが、それ以上に相手を傷付けないよう戦うのは見た目より容易なことではない。

 反対にサフラは僕と手合わせをした時とはまるで別で正直驚いている。

 僕とやり合った時は小手先だけで対応していたのに対しニーナの時は全身をバネのように使い自らの非力を補っていた。


 僕自身、剣術や武術を語れるほどその道に精通しているわけではない。

 中学の時に体育の授業で剣道の基本動作を学んだ程度の知識だ。

 サフラの技術は僕のように力任せに振り回す剣とは違い繊細な剣裁きの中にも大胆さを兼ね備えている。

 総合力は別にしたとしても単純に技術だけなら僕よりもサフラの方が上だ。

 この先、彼女の身体が成長していくことを見越せば、最初にニーナが言っていた末恐ろしいと言う言葉が現実になる日もそう遠くはない。


 「レイジ、試験の結果はどうだ?私に負けるようでは合格とはいかないか?」

 「いや、アンタは手加減して尚あの強さだ。正直、俺とは比較的ならないさ。それを差し引いてもサフラは良くやったよ。正直驚いた」

 「じゃあ…」


 サフラは期待を込めて上目遣いをしている。

 これを見ると何でも許してやりたくなるのは僕の甘さだろう。

 隣で見ていたニーナはそれを見て何故か顔を赤らめていた。

 どういう精神構造をしているかはわからないが、恐らく良からぬことでも考えているのだろう。

 先ほどサフラを自分のものにすると言っていたので間違いはない。

 障らぬ神に祟りなしと言うため全力で無視をすることにした。


 「無茶はするなよ」

 「それ、認めてくれるってことでいいのかな?」

 「あぁ。それでも、あくまで自衛の手段として使うんだぞ。極力お前に降りかかる危険は俺が払うから」


 認めるかと言った以上サフラにも武器を買い与えてやらなければならない。

 最初に弓かナイフの経験があると言っていたことを思い出した。

 しかし、今は弓の技術を披露されたわけではないので今回買う武器はナイフが妥当だろう。

 ただ、僕はこの世界の武器事情に精通はしていないため、サフラにどんな武器が適しているかわからない。

 一口にナイフと言っても直刀や曲刀、片刃に両刃といくつか種類があるはずだ。

 いろいろ思案しているとニーナが話を切り出した。


 「サフラちゃんは突きに特化した短剣使いだろう?それなら扱うなら「スティレット」がいい。突き刺しに特化した短剣だから手にも馴染むだろうね」

 「あッ、お父さんもそれと同じ物を持っていました。形見は焼けちゃったけど…」


 不意に亡き父親を思い出したのかサフラは俯き加減で黙り込んでしまった。

 さすがのニーナもこの空気に耐えられなくなったのか代わりに新しい提案を出した。


 「それじゃあ、スティレットを買いに行こう。知り合いに腕のいい鍛冶屋がいるんだ。案内しよう」

 「え?いいの?」

 「あぁ、私とサフラちゃんの仲じゃないか」


 いつの間にかすっかりニーナのペースだった。

 ここは僕がしっかりと舵取りをしなければいけないが、そうさせて貰えない空気が漂っている。

 普段ならしっかり者で通るサフラも、この時ばかりは新しい玩具を買ってもらえる約束をした子どものように目をキラキラと輝かせていた。

 希望していたものが手に入るとなれば期待してしまうのも無理はない。

 

 鍛冶屋に向かう途中、ニーナはこっそりと僕に近づき耳元で囁いてきた。

 内容はサフラに関するもので、このまま鍛錬をすれば並み以上のバウンティーハンターに成長する逸材だと言う。

 下手をすれば近い内にニーナの実力を超える可能性も秘めているらしい。

 もちろん、それにはちゃんとした師匠の下で修行する必要がある。

 先ほどの体裁きを見ればサフラが普通の女の子でないことは良くわかった。

 幼い頃に父親から受けた英才教育の賜物だろうと、ニーナは何故か一人ご満悦だ。

 サフラの父親には会ったことはないが剣の腕はそれなりに覚えがあったのだろう。

 きっと、ゴブリンの襲撃事件も一対一だったらやられることはなかったのかもしれない。

 僕は運命論者ではないが、父親の死が必然なら彼女との出会いも偶然ではなかったと今にしてそう考えるようになっていた。

 元々、僕も死がきっかけでこの世界に転生することになったのだから。


 ここで一つ気になったことがある。

 サフラの話ではまだ実践経験は一度もないらしい。

 正確には過去に一度、芋虫を大型犬程のサイズにした魔物「クローラー」と対峙ことがあるらしい。

 その時は一緒に居た父親が倒したため実質的な経験は皆無に等しいのだとか。

 ちなみにクローラーはゴブリンに比べて低級な魔物だ。

 普段、農作業程度で身体を動かす農夫なら二、三人が武器を持って攻めかかれば容易に倒せるらしい。

 ハンターギルドでの格付けも最低のランクに分類されている。

 ニーナの見立てではサフラの能力ならクローラーなら遅れを取ることはなく、ゴブリンが相手でも問題ない程度の実力のようだ。

それでも、リーチの長い武器との戦いや集団戦となった場合など今後の課題はいくつかある。

 それでも並みの一般男性よりは強いといことになるので、武器さえ手にしていれば町で暴漢に襲われても一人で対処できそうだ。

 むしろ過剰防衛になるとは思うがそこは気にしないでおこう。


 ニーナの案内で町の南東にある鍛冶屋にたどり着いた。

 外からでも鎚で鉄を打つ金属音聞こえてくる。

 中に入ると強面の店主が剣を鍛えていた。

 ニーナは店主に声を掛けると、作業が終わるまで待つように言われた。

 その間、棚に並んだ品物を眺めながらこの世界で使われる武器や防具などの知識を深めていく時間に当てる。

 ニーナによればこれは一般的な常識として広く浸透してことのようだが、基本的に武具は鍛冶屋から直接購入するケースがほとんどだ。

 中には各地から買い付けてきた武具を売る商人の店もあるが店の数はあまり多くない。

 鍛冶屋から買う最大の理由としては鍛冶職人と購入者の信頼関係にある。

 購入者は鍛冶職人の人柄や製品の品質を精査し、総合的に判断をして商品を選ぶようだ。

 反対に、商人の店では製作者の事を知らないまま購入するため、粗悪品を掴まされる場合もあるらしい。

 武具は命を預ける大切な道具なので何でもいいと言うわけにはいかず、気軽に購入するものではないと教えてくれた。

 また、すでに店頭に並んでいる武具であっても購入者に合わせて微調整をするサービスがあり、これは商人の店では決して真似のできないサービスだ。

 他にも武具は厳密に言えば消耗品になるためある程度使い込めばメンテナンスが必要になる。

 そうした場合、購入した店に持ち込めば割引が利いたりもする。


 ニーナも各地で贔屓にする鍛冶屋がいくつかありこの店もその一つなのだとか。

 店の中はそれほど広い間取りではないが壁に備え付けられた棚を最大限に活用して武具が展示されていた。

 売れ筋は扱いが容易な短剣やショートソードで、数は少ないがクレイモアと呼ばれる両手持ちの大剣も置いてあった。

 特に短剣は装飾が施されたものが多く美術工芸品のようだ。

 反対に大剣は無骨な鉄の塊と言った造りのものがほとんどだった。

 しばらくすると店の奥から聞こえていた鍛冶の音が鳴り止んだ。


 「おまたせ。久しぶりだな、ニーナ」

 「マスター、ご無沙汰だ。今日は客を連れてきたよ」


 そう言って僕らを紹介した。

 店主は納得したのかカウンター越しから営業スマイルを浮かべた。


 「それで、お客さんはそちらのお兄さんでいいのかな?」

 「いや、こちらの少女だ。彼女が扱いやすいスティレットを探している」


 店主は少し驚いた様子だったが、すぐに気持ちを切り替え、思い当たる商品の説明を始めた。


 「それじゃあ、鋼で作った物がいいだろう。鉄製よりは値は張るが、耐久性は申し分ない」

 「鋼鉄製か、悪くない…が、前に「テイタン」で作ったスティレットがあっただろ?。あれが見たい」


 テイタンとは産出量のとても少ない金属の名前だ。

 一般的な鋼鉄よりも二倍程度の強度があり、重さに至っては半分程度いという特性がある。

 また、その硬さから加工がとても難しいようだ。

 加工するためには鉄を精錬するよりも高い温度が必要になるため設備もそれなりの規模でなければならない。

 この工房にはテイタン専用の炉があり数は多くないが鉄や鋼鉄製の品物より上位の武具として生産している。

 ちなみにニーナが愛用する武器もテイタン製らしい。

 店主は奥から革の鞘に収まった短剣を運んできた。

 どうやらニーナが目を付けていた品らしい。

 ただ、まだ完成しているわけではないらしく持ち手の部分は地金が剥き出しになっている。


 「これがご所望の品だ。まだグリップと柄の加工の途中だが…試しに持ってみるかい?」

 「はい。是非!」


 短剣を受け取ったサフラは急に驚いた顔をした。

 理由を聞いてみると思っていたよりもずっと軽いらしい。

 通常この程度の短剣は重いもので一キロ近くになる。

 スティレットは突き刺す事に特化した細身の短剣だが、鋼鉄を使った物になると特別軽いと言うわけではない。

 それなのにテイタン製のスティレットはまるで自分自身が力持ちになったのではと錯覚するほど軽いようだ。


 「不思議…軽いのに、何て存在感なの?」

 「だろう?ウチのテイタンは特に純度が高いから、そこらの安物とはワケが違うさ。それこそ鉄製の安物と打ち合えば相手の方が刃こぼれを起こすぞ?」

 「何だか凄い剣みたいだな」

 「ウチがオススメする業物だからな。銘を「夜桜」と言う」

 「夜桜?」

 「テイタンそのものの色なんだが刀身が黒っぽいんだ。嬢ちゃん、そいつを鞘から出してみな」


 サフラは言われるままに刃を抜くと黒光りした刀身が現れた。

 これもテイタンの特徴で金属自体が薄墨色をしている。

 ちなみに銘にあった夜桜の「夜」はテイタンの色を表し「桜」はこれから施すグリップと柄の色を赤系統にする予定らしい。


 「綺麗…」

 「そうだろう、そうだろう。ソイツを研ぐ時はダイヤを使うんだ。並の砥石じゃ歯が立たないからな」

 「マスター、一つ忠告を忘れているぞ?いつものアレだ」


 ニーナは店主にそう言うとアイコンを送った。

 指摘を受けた店主は苦笑を浮かべながら説明を付け加えた。


 「おぉ、そうだった。これはテイタンの特性でもあるんだが、鉄製の武器に比べて非常に軽いから武器自体の重さ頼った攻撃はできないんだ」

 「確かにこれだけ軽いと打ち負けてしまうかもしれませんね」

 「そうだ。相手の武器が重ければ勢いに押し負けることもある。そこは注意が必要だ」


 サフラも理解が出来たのか短剣を眺めながら感慨深げに頷いている。

 確かに軽ければそれだけ早く振ることが出来る反面、真っ向からの打ち合いにはあまり向いていないらしい。

 サフラのスタイルは突きに特化しているので非力は手数で補えばいい。

 それに直接受け止めるより「いなす」方が得意なので必ずしもデメリットにはならないだろう。


 「どうだい、嬢ちゃん?気になったのなら、急いでこしらえるが?」

 「ぜ、是非お願いします。あッ…お兄ちゃん…いいよね?」

 「もちろんだ。その代わり大事にするんだぞ」

 「ありがとう、お兄ちゃん」

 「と、言うわけだ。急ぎの仕事で悪いが彼女に合った調整もしてくれないか。彼女はあまり手が大きくはないからグリップは少し薄めがいい。あとは、マスターの判断に任せるよ」

 「了解だ。じゃあ、少し時間をくれ。そうだな…完成は明日の午後までには何とかしておく。お代はその時にでも」

 「わかった。よろしく頼む」


 僕らは店を後にした。

 サフラとニーナはどこか晴れ晴れとした顔で満足気だ。

 僕はと言えば少し複雑な気持ちが残る。

 本当にサフラを戦場に立たせると言う漠然とした不安からだ。

 実際、ニーナとの手合わせで大体の実力は把握できてはいるが、いざ実戦となれば訓練などとはまるで違う緊張がある。

 相手が自分よりも強ければ命を落としても不思議ではない。

 その辺りの判断は彼女に任せるほかないだろう。

 僕には銃があるから少し距離が離れていても援護をすることは出来るが、咄嗟の判断が常に理想通りに働くという保証はない。

 短剣は常に前衛に立って戦う必要があるため危険はつきものだ。

 想定される戦いのスタイルとしては僕の背中を預けるくらいがちょうどいいだろう。

 サフラは賢い子だから状況に応じて僕を助けてくれるような気がする。


 「ニーナ、悪かったな。買い物に付き合ってもらって」

 「気にすることはない。今回は自分のことのように真剣に考えてしまってな。いずれ私とともに行動してもらわなければいけないんだ、それくらい考えても不思議じゃないだろう?」

 「…だから、サフラが困ってるだろ。嘘でも軽々しく口走らないでくれ」

 「ふむ…あながち冗談ではないのだがな」


 ニーナは少し悲しそうに言った。

 これだけ見てもどこまで本気なのかはよくわからない。

 きっと大袈裟に言っているのだろう。

 いや、そうでなければ困るのだが。

 娘を持つ父親はこんな気分を味わうのだろうか。

 願わくば娘の幸せを願わずにはいられない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ