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シーン 15

 一旦宿に荷物を置き買い出しの続きに向かった。

 次に揃えるのは旅に必要な携行品だ。

 旅の基本は徒歩での移動になる。

 その関係上あまり多くの荷物を持ち運ぶのは得策ではない。

 どうしても必要と言うものだけを買う。

 商品を物色している間に「あれば便利かな?」という物に目がいきがちだが極力手を出さないと二人で決めた。


 初めに立ち寄ったのは革製を扱う露店だ。

 ここではリュックを買おうと思っている。

 今使っているリュックは厚手の綿で出来た比較的容量の小さな物。

 一般的によく使われる物だが持ち運べる量が制限される反面、あまり動作を邪魔しない特徴がある。

 特に咄嗟の動作が必要なハンターなどには向いている品だが、長旅をする上では少し物足りなさを感じる。

 今でもすでに全体の八割近くを道具たちが占領しているため、残りのスペースに制限があるのは仕方がない。

 試したわけではないが仮に限界まで物を収納するばちょっとした弾みで中身が潰れてしまう恐れがある。

 食事のマナーではないが何事も腹八分目が好ましい。

 そうなるとこのリュックはすでに腹八分目になっている。

 今後増えるサフラの荷物を考えればここでもう一つ買っておかなければ支障が出るだろう。


 店を見回すと牛革と思われる茶色の革材を使った商品を見つけた。

 大きさからして登山で使うようなテントや食材をまとめて運ぶ大型のバックパックだ。

 手に取ってみると革は分厚く手入れに注意さえすれば一生物だろうと店主が教えてくれた。

 実際この手のバッグは一つ持っておいても損はないと思う。

 荷物が入ればそれだけ水や食料を持ち歩けるし、着替えも数日分は詰め込んでも余裕で収めることができる。

 ただし、大きい故に何も入れていない状態でも相応の重さがあり、この中へ荷物を詰め込んだ後の事を考えると背負っている間はある程度の行動制限が起きるだろう。

 旅行に使うキャリーケースのように車輪でもついていれば話は別だが、現実的に考えて扱いに困るかもしれない。

 別の商品はないのかと探して見たもののある程度の容量を確保できて丈夫そうな代物は最初のバックパックの他には見つからなかった。

 大は小を兼ねるとも言うので収納に困ることはない。

 僕の身体能力が大幅に向上しているのを考えれば多少の重さは問題ないだろう。

 いろいろと思案した結果、損にはならないと判断した。


 「主人、これを貰おう」

 「おッ、お客さん、お目が高い。毎度あり~」


 気さくな笑みを浮かべる店主に代金を渡し、引き換えにお釣りと商品を受け取って店を離れた。


 「凄くおっきいね。これだと、私が中に入れるくらいかな?」

 「小さくなれば入れるだろうな。まぁ、そんなことはしないけど。それより、サフラには俺が今まで使っていたリュックをやるよ。自分の着替えとか小さな荷物を管理するんだぞ」

 「うん。あ、それと、旅をするなら外套があった方が便利かも?急な雨や砂埃から守ってくれるの。できればフード付きの物がいいよね」


 つまりマントやポンチョのような上着の上に羽織る物だ。

 突然の雨風をやり過ごす雨具の役割もある。

 サフラのアドバイスを受けて専門店を探すとこちらもすぐに見つけることができた。

 一言で外套と言ってもいろいろな種類があり、膝丈ほどあるロングコートから生地に首を出す穴を開けただけの簡素なポンチョまで多様な品揃えだ。

 特に気になったのはカーキ色のミリタリー風のコートで、膝丈ほどありフードも付いている。

 素材について聞いてみると南方に棲む水辺の草食動物の革らしい。

 店主もよくわかっていないため彼の話すニュアンスから想像するとカバやサイのような大型の草食獣だろう。

 革自体は薄いが柔軟性があり撥水加工のための油が塗られている。 

 軽い雨程度なら問題にならないだろう。

 羽織ってみると見た目より軽く想像よりも柔軟性があって動きをあまり邪魔しない。

 それでいて革自体に強度もあり、ある程度の対衝撃性も確保できるそうだ。

 これに手入れ用の油とブラシも合わせて購入した。


 サフラはと言うと頭から被るポンチョに目を奪われているらしく、大きめのサイズでフードが付いた物を探している。

 ただし、相変わらずセール品の山を重点的に捜索しているため思った物が見付からないらしい。

 安くて品質がよくデザインが気に入ったものが見つかればいいが、やはりセール品となるとどれかが欠けている場合がほとんどだ。

 僕としては身体を守るものだから少しくらい高価でも惜しまず購入すればいいと思っている。

 だからと言って積極的に高価なブランド物ばかりねだられてしまっても困りものではあるが。

 なかなか決まらない様子なので、先ほどと同様にアドバイスをしてみることにした。


 「コレなんて可愛くていいんじゃないか?生地も厚いし縫い目もシッカリしてるし丈夫そうじゃないか?」

 「うん。実はこのデザインが可愛いなって思ったんだけど、やっぱりお値段が…」


 値札を見るとセール品より割高だ。

 ただし、破格な値段というわけではない。

 僕が購入を決めたコートよりも安いためこの程度なら十分に許容範囲だ。


 「なるほどな。じゃあ、なかなか決まらないならこの二つから選んで見ろよ。色違いだから好きな方を選べばいい。あと、値段は気にするなよ?」


 壁に掛けてあった色違いを手に取り左右の手に持って二者択一で選ばせることにした。

 これは先ほど着替えを選ぶ時に気が付いたことだが、サフラは買い物となると少し優柔不断な一面がある。

 ただ、彼女が納得する理由を添えて選択肢を絞ってやれば案外すぐに答えを決められるタイプだとわかった。

 ちなみに手にしているのはカーキとグレーの二色。

 どちらも地道な色だが町中でもあまり目立たず多少汚れても気にならないという実用面も兼ねている。

 さらに理由を挙げるなら、内側に赤を基調にしたチェック柄の刺繍があり、いかにも女の子が好きそうなデザインを取り入れていた。

 このギャップは女の子なら気に入るのではと思っている。

 サフラも内側の刺繍を見て気に入ったらしく、どちらの色を選ぶかを真剣に悩み始めた。

 強いて言えば僕のオススメはカーキのポンチョだ。

 だから、グレーのポンチョを少し手前に引き、カーキを全面に押し出した。

 サフラは僕の意図に気付いたらしくニヤニヤと笑みを浮かべた。


 「じゃあ、お兄ちゃんと同じカーキにするね」

 「おう。似合うと思うぞ」

 「ありがと、お兄ちゃん」


 礼を言われて照れくさくなったが、決して悪い気はしない。

 サフラが喜んでくれるなら何でもしてやりたいと感じるのは、いつの間にか「親バカ」になっていたからだろう。

 まだ出会って間もないが昔からずっと一緒に居たような、そんな不思議な感覚を覚えた。


 買い物はまだ続く。

 今度は保存食と薬草の調達だ。

 リュックにまだ干し肉が残っているものの、肝心な主食となるパンがない。

 町の中を散策しているといい匂いのするパン屋を見つけた。

 販売しているのはバゲットがほとんどだが、バゲットを一口大に切って乾燥させたラスクも売っている。

 ラスクの表面には薄っすら砂糖がまぶしてあった。

 こちらは主食というより菓子だが日保ちがするため持ち運びには便利だ。

 バゲットと合わせて購入した。


 「いい匂い。甘くて美味しそうだね」

 「ラスク、食ったことないのか?」

 「うん。初めて見たよ。お砂糖って高価だし、普通はあまり食べられるものじゃないから」

 「そう言うことか。じゃあ、物は試しだ。一つ食べてみな」

 「いいの?」

 「あぁ、俺も一つ貰う」


 そう告げサフラが抱える紙袋の中からラスクを取り出して口へ運んだ。

 久しぶりに食べたが前世と変わらないクオリティーで満足だ。

 程よい甘さが疲れた時にはたまらなく嬉しい。

 ちなみにこの世界では調味料が高価で、特に「コショウ」や「砂糖」はなかなか手に入らないようだ。

 加えて「塩」は海から離れた内陸部ほど手には入りにくい。

 塩の場合は単に流通量の問題だが、魔物が徘徊する街道を通って物資を運ぶのはリスクが伴う。

 そのため海から距離が離れるほど価格が上がる仕組みだ。

 ハンターの中には副業で塩の輸送をする者もいるらしく、なかなかの稼ぎが得られるのだとか。

 サフラも僕が食べたのを見届けてからラスクを口にした。


 「…何コレ、すごく美味しい!」

 「だろ?でも、あんまり食べ過ぎるなよ。一応、保存食として買ったんだからな」

 「は~い」


 甘い物を食べて上機嫌になったサフラはそれから終始笑顔だった。

 何かあれば「スイーツでご機嫌取り」と言うのはベタな手だが今後何かあれば使えそうだ。

 他にも何か珍しい物はないかと散策していると、蜂蜜とチーズを売る露店をそれぞれ見つけた。

 どちらもバゲットのお供にピッタリなので迷わず購入した。

 サフラの話ではどちらの商品も少し割高らしい。

 理由は蜂蜜がウエストランドから、チーズはイーストランドからそれぞれ運ばれてきた物だからだ。

 塩と同様、輸送距離が延びればコストがかさむためその分販売価格に上乗せされる。

 また、どちらも根強い需要があるため供給量の関係からどうしても標準価格より値段が高くなるらしい。

 こう言った情報は一人ではなかなか気付きにくいためサフラの知識はとても為になる。

 ただ、どちらも必要だと判断したため値段への不満はない。

 今のように干し肉を挟んでサンドイッチを作るのも悪くないが同じ味だけではどうしても飽きてしまう。

 ちょうど何か工夫ができないかと思っていたところなのでちょうど良い物を見つけられた。


 「最後は薬草だな。えっと、傷薬に鎮痛剤、念のために腹痛の薬があればいいか」

 「薬屋さんだね。確か今通ってきた道にあったと思うよ?」

 「そうか。じゃあ、戻って買いに行こう」


 サフラの言う通り、今来た道を戻って薬屋を目指した。

 通りは人で賑わっているため気をつけないと肩がぶつかってしまう。

 サフラとはぐれないよう寄り添って歩いて行くと目的の店はすぐに見つかり、店主の説明を聞きながら薬草を買い揃えた。

 これで希望していたものが全て揃い、それらを背負っていたバックパックに収納する。

 見立て通りバックパックにはまだ余裕があり、宿に置いてきた荷物を入れても十分収まりそうだ。


 気が付くと辺りが薄暗くなっていた。

 ちょうど夕方から夜へと移り変わる頃だ。

 地域によっては時差があるものの、厳密に時間で動いているわけではないため些細な問題だろう。

 大雑把な時間の把握は腹の虫に聞けばいい。

 町中をたくさん歩き歩き回ったため、そろそろ腹のムシも鳴き出す頃だ。

 酒場などの飲食店も店を開け始める頃なのでタイミングとしても丁度いい。

 このまま店に入ろうと思ったが、その前に買ったばかりの荷物を宿に置いた方が動きやすい。

 はやる気持ちを抑え、サフラの手を引いて一度宿に戻った。

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