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シーン 124

 地下から侵入して三十分近くが経った。

 しかし、僕らは未だに教皇のところにたどり着けていない。

 理由は先ほどから遭遇するバーサーカーたちのせいだ。

 建物内の要所で警備をしているためその都度対処しなければならない。

 今のところこちら側に目立った損失はないものの見つからないように注意するのは神経を使う。


 「…またか。いったい何人居るんだ」

 「深夜でこの人数だ。昼間だったら今ごろ取り囲まれているだろうさ」


 セシルは状況を冷静に分析して吹き矢を取り出した。

 一度使った「矢」は使い捨てになるため数には限りがある。

 確認したところあと一発が限度らしい。

 セシルは狙いを定め行く手を阻むバーサーカーに矢を放った。

 相変わらず恐ろしいほどの精度で正確に首筋を捉えると、瞬時に毒が身体を巡って神経を麻痺させ膝から崩れ落ちた。


 「これで矢は終わりだ。ここからはまた近接戦闘で乗り切るしかない」

 「教皇が居るところまであとどれくらいだ?」

 「部下の調べが確かならもうそろそろのはずだ。突き当たりを右に曲がってさらに突き当たりを左だな」


 内部はまるで迷宮だ。

 いくら地図が頭の中に入っていても迷ってしまうだろう。

 僕はすでに来た道でさえ正確に戻れる自信がない。


 「チッ、またか…」


 前を走っていたセシルが立ち止まり舌打ちをした。

 前方には三人の見張りがいる。

 聞き耳を立てると三種類の下品な笑い声が聞こえてきた。


 「短剣や鞭だけで相手をするのは無理だな。仕方ない、覚悟を決めるか。一瞬で片付ければ気付かれずに済むかもしれない」


 僕は銃を抜いた。

 こんな状況なのでさすがに最後まで使わずとはいかなかった。

 消音器付きのM1911を取り出した。

 セシルも太ももの鞘に短剣を収め愛用する剣を両手に構える。

 刹那、セシルは雷の能力で跳躍力すると天井スレスレの高さまで飛び上がった。

 電気を帯びた右手のライトニングソードがバチバチと音を立てている。

 狙われた三人のうちの一人は気付くのが遅れ、被っていた兜ごと頭を粉砕され、同時に高電圧の刀身に触れた身体は真っ黒に焦げになった。


 「て、敵だ!敵襲ーッ」


 残った二人のうち若い声の男が叫び仲間を呼んだ。

 建物に反響した声はよく通った。

 僕は冷静に銃口を浮き足立つ男に向けると心を鬼にして額を撃ち抜く。

 いくらバーサーカーとは言え頭を撃ち抜かれれば即死するのは当然のことだ。

 残りの一人はセシルが首を跳ねて呆気なく終わった。

 この間、十数秒と言ったところか。


 「今のは下級構成員だな。まるで歯ごたえがない」

 「そんなことより背後から気配がする。セシル、気を抜くな」


 今の騒ぎで仲間たちが集まってきた。

 統制の取れた動きで隊列を組み素早く退路を塞がれてしまった。


 「貴様等、生かして返さんぞ!」


 集団のリーダーと思われる男が怒鳴り散らした。

 声に凄みはあるものの恐怖して萎縮するほどではない。

 反対にセシルが押さえ込んでいた殺気を放った。

 同時に辺りの空気が冷たく張り詰めていくのがわかる。

 この感覚はまるで冷たいナイフの刃を首筋に当てられているようだ。


 「セシル、後ろから援護する。思う存分暴れてこい」

 「わかった、背中は任せる」


 セシルはライトニングソードの出力を上げて斬りかかった。

 まず一振りで二人を同時に感電させて黒焦げにする。

 先制攻撃が成功すると集団に仲間を殺された恐怖と怒りが一気に伝播した。

 どちらの感情も冷静さを失わせるには必要にして十分で、感情に支配されれば普段の力を出すことが出来なくなる。

 こうなればこちらのペースだ。

 僕は捨て身でセシルに襲いかかる敵の急所を撃ち抜き一瞬で息の根を止めた。

 中には全身を覆うフルプレートと呼ばれる重厚な鎧を身に纏った者もいたが、セシルは構わず電撃を放って中身を丸焦げにした。

 相変わらず容赦がない。

 仲間ながらに感心してしまった。

 まだ本来の力の半分も出していない彼女にとって、この戦闘はウォーミングアップ程度なのだろう。

 顔色一つ変えずに黙々と敵を狩っている。

 戦いながら敵戦力の分析をしてみたが、彼らは先ほどの三人と同じ下級構成員のようだ。

 素人の動きではないが一人一人がゴブリン程度の実力しかない。

 対するこちらは一騎当千のセシルと僕のコンビだ。

 気が付くと一方的な暴力で相手を殲滅していた。

 残ったのは屍の山だ。


 「もはや隠密行動ではなくなったな」

 「仕方ない、済んだことは忘れよう。それよりだ、この先に新たらしい敵の気配を感じる。殺気の質が今までのヤツらと違う。気が付いたか?」

 「あぁ、恐らく上級構成員だろうな。レイジ、相手が二人以上の場合は各個撃破を心掛けるんだ。敵勢力を確実に殲滅する。情けはかけるなよ」


 改めて作戦を立て直した。

 ここまでの騒ぎになれば消音器を取り付けた銃で戦う必要はない。

 鎧を着た敵を想定して貫通力の高いM500に持ち替えた。

 アルマハウドの鎧さえ貫通するこの拳銃ならどんなに装備で身を固めても恐れることはない。


 「居たぞ!賊だ」


 灯りを手にした集団が現れた。

 中には炎が沸き立つ刀身を持った敵がいる。

 それがすぐに上級構成員だと気が付いた。

 能力はクオルと同等かそれ以上だろう。

 事前の情報通り精神的な疲弊が極めて低い「リンカー」なら最大限の注意が必要だ。


 「マズいな…この狭い廊下で炎に巻かれたら逃げ場がないぞ」


 セシルに焦りの色が浮かんだ。

 他に魔具を持った敵はない。

 見たところ他の兵士は中級か下級の構成員だろう。


 「よくも仲間たちを…死んで償え!」


 ブレイズソードを持った男が感情を爆発させると刀身の炎が激しく燃え上がった。

 火柱があがり離れていても熱気が伝わってくる。

 それは以前バレルゴブリンとの戦いでクオルが使った技だった。

 激しい炎はゴブリンを一瞬で灰にする熱量がある。


 「死ねッ!」


 男が叫ぶと炎の塊が廊下全体を覆って迫ってきた。

 炎の津波が眼前に迫っている。

 まさに万事休すだ。

 諦めかけたその時、セシルは炎に向けて可能な限りの電撃をぶつけた。

 炎と雷はどちらも譲らず激しくぶつかり合って大爆発を起こした。

 まるで対戦車地雷が爆発したように地響きと衝撃はが襲ってくる。


 「レイジ、伏せろ!」


 爆心地は巨大なクレーターが出現し、爆風と砂埃が廊下を覆った。

 周囲を覆う石の壁は粉々に吹き飛び瓦礫が散乱している。

 頭を低くしたおかげで爆風の直撃は避けられた。

 少し身体が痛むのは飛んできた瓦礫のせいだ。

 拳ほどある石が身体にいくつか当たったものの、軽傷で済んだのは不幸中の幸いだった。

 セシルは僕ほどダメージを受けていないようだ。

 対する敵勢力はリンカーの男を除いて立ち上がる者はいなかった。

 手下たちは爆風と瓦礫の直撃を受けて絶命したか動けなくなっている。


 「俺の炎を雷で相殺しただと!?貴様…何者だ!」

 「これから死ぬヤツに名乗る名前はない。大人しくしていれば一瞬で終わらせてやるよ」

 「ほざくな!」


 男は再び刀身に炎を滾らせた。

 一度見ている技ではあるものの脅威には違いない。

 直撃すれば骨まで焼き尽くされそうだ。


 「レイジ、そいつでヤツの手元を撃て。剣が術者から離れれば技は使えない。ヤツには聞きたいことがある。情報を吐かせたい」

 「わかった。お前はその隙に力を溜めておけ」


 普通、暗闇で的を正確に撃ち抜くのは難しい。

 しかし、自ら炎を発する剣のおかげで男の周りは昼間のように明るくなっている。

 ここからでも顔がハッキリ見えた。

 僕は剣を持つ腕に向けて弾を放った。

 マグナム銃特有の爆裂音とともに撃ち出された弾は腕を軽々貫くと背後の壁に奥深くに突き刺さった。

 弾は腕の「腱」と「骨」を破壊したため男は剣を握ることができず剣はそのまま床に落ちた。

 だが、バーサーカーという特性上、痛みを感じないため平然と立ち尽くしている。


 「き、貴様、何をした!」


 狼狽える男に対してセシルは無言で左手の剣で男の手首を切り落とした。


 「き、貴様等…」


 痛みは感じずとも出血で血圧が下がれば身体に力は入らない。

 急いで止血をしなければ助からないだろう。

 セシルは冷たい姿勢を男に向けた。

 まるで地面を這う小さな虫を見ているような目だ。


 「その腕では二度と剣を握ることもない。そこで一つ提案だ。命を助ける代わりに教皇の居場所を吐け。でなければこの場で首を切り落とす」


 鬼神のような迫力で男を睨み付けると身の危険を感じた男が一歩退いた。

 彼女の視線には凄みがあり味方である僕も思わず背筋が冷たくなった。


 「わ…わかった。教皇様は今ごろこの奥の礼拝堂だ。危険が迫れば広い場所に避難する決まりなんだ…」

 「そうか、教えてくれてありがとう。…さようなら」


 セシルは目を見開いて容赦なく男の首を跳ねた。

 初めから助けるつもりはなかったらしい。

 どのみち出血が多すぎて輸血をしなければ助からなかっただろう。

 苦しむくらいなら楽にしてやろうとでも思ったのか、それとも仕事と割り切ってのことだろうか。

 セシルは落ちていた炎を操る剣を拾いテイタンの剣を鞘に戻した。


 「その剣、お前でも使えるのか?」

 「適合するかは運次第だ。それにこんな物騒な物を置いてはいけないだろ?」


 魔具はリンカーでなくとも代償を払えば使うことができる。

 どちらにしても所有者がいない武器や防具、道具や金銭の取得は特に制限は設けられていない。

 つまり「拾った者勝ち」だ。


 「試しに使ってみたらどうだ?いきなり実践で使うのは危険だろう」

 「そうだな。危ないから離れていろ」


 セシルは剣に意識を集中した。

 すると刀身には炎が浮かび上がった。

 熱量が多くないのはいくらか出力をセーブしているからだろう。


 「どうだ、精神的に負担は大きいか?」

 「いや、あまり感じないな。だが多用すれば疲弊はするかもしれない」

 「さすがに適合まではいかないか。そう言えば魔具を二つも操ることなんて可能なのか?」

 「私はゼロリンカーだからな。ライトニングソードから受ける影響はゼロだ。問題があるとすればもう片方の魔具だな。これで答えになるか?」


 つまり、彼女に限って言えば炎の剣との相性もそれほど悪くはないため両立することは可能らしい。

 ただ、僕の場合はライトニングソードを使って激しく疲弊したため彼女のようにはいかないだろう。


 「さて…周囲を探ったが敵の気配はない。この男の言葉が確かなら、奥の礼拝堂にヤツがいる。気を抜くなよ」


 廊下を進むと視線の先に木製の大きな扉が見えた。

 高さは背丈の二倍ほどある。

 扉の近くに護衛は見当たらなかった。

 しかし、扉の奥には複数の気配を感じる。

 扉を開けてすぐに襲い掛かってくる可能性もあるだろう。

 気を引き締めて敵の本丸に乗り込む覚悟を決める。

 ゲームなら如何にもボスが待ちかまえていそうな雰囲気だ。

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