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シーン 123

 殺気を感じ取ったセシルが眉間に皺を寄せた。

 彼女のこんな表情を見るのは初めてだ。

 それだけこの男に対して警戒心を払っているのだろう


 「…レイジ、気をつけろ。ヤツはバーサーカーだ」

 「いきなりか。セシル、気を抜くなよ!」


 バーサーカーには特徴があるらしい。

 それは笑い声だ。

 理由はわからないが痛覚麻痺剤を使用すると副作用で笑い声が出ると言われている。

 耳を済ませると「ケヒケヒ」と言う下品な笑い声が微かに聞こえてきた。

 どうやらセシルはこの声を聞きわけたようだ。

 僕らは闇の中を駆け出した。

 できる限り仲間を呼ばれる前に片付けてしまいたい。

 先に飛び出したセシルは短剣を男の喉元に向けて勢いよく振りかざした。

 きっと、並みのハンター程度の実力なら何が起こったか理解する間もなく胴から首が離れていただろう。

 しかし、男は短剣が当たらないギリギリのところでかわして難を逃れた。

 僕はすぐさま鞭で追撃を加えると甲高い金属音が響き渡る。


 「短剣使いに鞭使いか。だが残念だったな、俺にそんなものは効かんぞ」


 月明かりに浮かび上がった男は銀色に輝く鎧を着ていた。

 鞭が捉えたのは男の着ていた鎧だ。

 鞭は打撃武器のため盾や鎧に対して大きなダメージを与えることができない。

 やり難い相手だ。


 「効かないかどうか…その身で確かめてみろ!」


 セシルは身を低くして一気に距離を詰めた。

 暗闇での戦いに慣れて居なければ距離感を取るのは難しい。

 男は予防的に持っていた槍を勢いよく突き出した。

 槍はリーチがあり短剣よりも優位に立つことができる。

 しかし、槍が外れて懐に入られれば形勢は一気に逆転してしまう。

 セシルは冷静に槍をかわして男の懐に潜り込んだ。

 だが、男は鎧を着ているため簡単にダメージを負わせることが出来ない。

 それでもセシルは鎧の隙間に狙いを澄ませ切っ先を突き立てた。


 「…それがどうした?」


 普通ならこれで勝負がついていただろう。

 しかし、相手は痛覚が麻痺したバーサーカーだ。

 この程度で怯むはずもない。

 刺された傷口からは血が流れ出ている。

 しかし、男は表情一つ変えることもなく再び槍を構えた。

 ただ、このまま時間が経てば失血死と言うことも考えられる。

 それだけ傷の程度は深いものだ。

 セシルは槍の届かないところまで下がって男の様子を伺った。


 「バーサーカーとはまったく厄介な相手だよ。レイジ、ヤツの隙を作ることはできるか?」

 「やってやれないことはない。だが、一瞬が限度だろうな」

 「それでいい。その瞬間にヤツの首を切り落とす」


 僕らはタイミングを合わせて同時に駆け出した。

 男は僕らの動きを予測して槍を突き出した。

 それを鞭でいなし、僕はそのまま勢いに任せ、体重を乗せたドロップキックを放った。

 身体がフワリと浮きあがり足の裏から金属の硬い感触が伝わってくる。

 いくら鎧でも慣性の法則に敵うはずもなく、受身を取る暇さえ与えなかった。

 後方へ吹き飛ばされた男は重量感のある鎧を着ているためすぐに立ち上がることができず、セシルは素早く馬乗りになってそのまま首を掻き切った。


 「ふう…まさかあそこから飛び蹴りをするとは思わなかったよ」

 「鞭で隙を作るのは難しいからな。奇をてらってみたんだよ。成功してよかった」

 「まあ、普通は手にした武器で攻撃してくると思うからな。コイツが反応しきれなかったのも無理はない」

 「それより先を急ぐぞ。あまり時間を使いたくない」


 幸いこの戦闘に気が付いた者はいなかった。

 周囲の気配を探ったが誰も居ないようだ。

 セシルにも確認してみたが彼女も同様の答えだった。

 ただ、時間が経てば敵に発見されるリクスが高くなる。

 ここからは極力身を隠しながら進むしかない。

 暗い廊下を駆け抜け、突き当りのT字路にやってきた。

 セシルは迷わず右の道を選択し、再び駆け出した。

 どうやら事前に内部の見取図を入手していたらしい。

 地図が頭の中に入っていれば迷うこともないだろう。

 しばらく進んだところで前方に明かりを見つけた。

 近くに人の気配を感じる。

 手には槍を持っていることから先ほどと同様の敵だろう。

 耳を済ませると先ほどのような下品な笑い声が聞こえてきた。

 彼もまたバーサーカーで間違いないようだ。


 「…ヤツはまだ気付いていない。この距離なら気付かれる前にヤツをやれるだろう」

 「どうやって?」


 物陰に隠れながら気付かれないように作戦を練った。

 小声で話しているため敵には気付かれないだろう。


 「コイツを使う」


 そう言って左足に装備した細長い筒を取り出した。

 長さは三十センチくらいだろうか。


 「それは?」

 「吹き矢だ。先端に神経を麻痺させる毒を塗った矢を放つことが出来る」

 「届くのか?」

 「あぁ、二十メートルくらいなら正確に当てることができるよ」

 「わかった。やってくれ」


 セシルは物陰から半分だけ身体を出し気付かれないよう吹き矢を放った。

 矢は空を切ると一直線に敵の首筋を捉え、叫び声をあげるまもなく動かなくなった。

 毒には即効性もあるようだ。

 毒が頭に回りやすい首筋を狙ったのも効いているのだろう。


 「やるもんだな」

 「知り合いの男から教えてもらったんだ。お前も知っている毒を使う男だよ」


 毒を使う男と言って思い出すのは以前大会で戦ったことのあるガウエスだ。

 彼は南が原産の毒虫から自ら成分を抽出して戦闘に応用していた。

 当時はそれに悩まされたため毒の効果は僕のお墨付きだ。


 「お前、アイツと知り合いだったのか」

 「まあ、一方的な知り合いだな。特に親しいわけでもない。アイツは自分で採ってきた毒薬を売る商人の顔も持っているからな。客と商人の関係さ」

 「そう言うことか…」


 僕らは動かなくなった敵を横目に先を急いだ。

 気付かれなければセシルの吹き矢で無力化することができる。

 僕らとしては極力気配を悟られたくはないため好都合だ。

 まだ戦闘は二度だが銃を使っていないのは不幸中の幸いだろう。

 狭い廊下では音が反響するためいくら消音器をつけていても音が大きくなってしまう危険性がある。

 今はまだ一人ずつ相手をしているがこれが複数になれば対処は容易ではない。

 その時は全力で迎撃する必要がある。

 そうなれば銃やライトニングソードで戦う必要があるため、穏便にことを済ませようという計画が全て水の泡になってしまう。

 敵の気配に注意しながら教皇の居場所へと急いだ。

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