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シーン 125

 僕らは意を決して扉を開いた。

 中には護衛に囲まれた教皇の姿があり僕らの到着を待ち伏せていたらしい。


 「賊と聞いていたが、まさか二人とは思わなかった。随分と派手にやってくれたな…」


 教皇の見た目や声の様子から年齢は「古希」くらいだろか。

 ブレイターナにおける平均寿命が六十歳前後なので見た目の印象が正しければ長寿の部類だ。

 丈のマントを纏い特徴的な白髪と白い口髭を生やしている。


 「お前が教皇か!武装を解除し大人しくていれば危害は加えない。指示に従え」


 銃を構えたまま対話に移った。

 下手な動きがあれば躊躇なく引き金を引く覚悟がある。


 「賊無勢が私に指図するか。…ん?貴様…先の大会で優勝した男だな。隣の女も見覚えがあるぞ。そうだ、皇帝の腰巾着か。なるほど、カラクリがわかったぞ。皇帝の差し金と言うわけか?」

 「答える義理はない。抵抗しても無駄だ。大人しく投降しろ」

 「投降か。お前たちは何もわかっていない。死ぬのはお前たちだ!」


 教皇は指を鳴らすと物陰に隠れていたパルチザンの構成員たちが現れ一斉に矢を射掛けてきた。

 その数は十本以上ある。

 迫ってくる矢を咄嗟に鞭で防御したものの運悪く一本が左の肩に刺さってしまった。

 幸い傷は浅く戦いへの影響は少ない。

 セシルは飛んでくる矢を剣で全て叩き落とし無傷だった。

 僕は肩から矢を抜き真ん中で二つに折って投げ捨てた。


 「ほう…この程度では死なんか。構わん!射掛けよ!!」


 教皇は再び部下に矢を放つよう指示した。

 次の瞬間には先ほどと同様に十数本の矢が飛んできた。

 セシルは咄嗟に僕を抱えると跳躍力を生かして高く飛び上がる。

 まさか彼女に抱きかかえられるとは思っても見なかった。

 天井までの高さは十メートル程度だろうか。

 慣れていないと浮遊感に酔ってしまうだろう。

 着地した時にはすでに矢が後方に飛び去っていた。


 「女狐め…。レイチェル、お前はあの女の相手をしろ!ニクスは手負いの男だ。抜かるなよ!それとお前たち、射掛ける準備をしておけ」


 教皇の側に控えていた男女二人を僕らに差し向けた。

 実力はわからないがおそらく幹部クラスだろう。

 纏っている雰囲気が他の構成員とまるで違った。

 女の方は冷徹な視線でセシルを睨みつけている。

 男の方は激情家なのか感情を抑えることなく不敵な笑みを浮かべていた。

 それぞれ手には魔具と思われる剣を持っている。

 どんな能力があるのかはわからないため迂闊に近付くのは危険だ。

 先に仕掛けてきたのはレイチェルと呼ばれた女だった。

 見た目はニーナと同じくらいの年頃だろうか。

 身長もあり背中まで伸びた髪が特徴的な剣士だ。

 レイチェルは流れるような黒髪をなびかせ無駄のない動きでセシルに剣戟を放った。

 剣術に自信があるのか、それとも魔具の能力か、目にも留まらぬ剣裁きでセシルを翻弄している。


 「あなた、フランベルクのリーダーですね。まさか指揮官自ら乗り込んでくるとは思いませんでした」

 「ほう?私のことをご存知とは、いつの間にか人気者になっていたのだな」

 「謙遜しないのですか。さすがは雷公。倒し概がありそうです」


 セシルたちの戦いが始まったのを見届けたニクスと呼ばれた男が僕の前に立ちはだかった。


 「さて、アンタには悪いが仕事なんでね。悪く思わないでくれ」

 「それは俺も同じだ。投降するなら今のうちだぞ?」

 「生憎、そんなつもりはなくてね。教皇様のために死んでもらう!」


 男は剣を構えた。

 剣は何処にでも売っていそうなサーベルだ。

 目立った装飾はなく今のところ能力は不明。


 「まずは小手調べだ」


 男は剣道の型のような剣術の構えをとった。

 サーベルを両手で持ち脇を締めて「面」や「胴」を打ち込んでくる。

 僕は可能な限り鞭で剣戟を受け流して隙が出来たところへ銃で男の身体を撃ち抜いた。

 マグナム銃の弾は腹部に当たるとそのまま貫通し親指大の風穴を開ける。


 「…酷いねぇ。腹に穴を開けるなんて、人のすることじゃないな」


 普通なら即死してもおかしくない大怪我だ。

 それなのにニクスは表情を一つ変えなかった。

 彼もバーサーカーなのだろうか。

 しかし、不思議な事にバーサーカー特有の下品な笑い声は聞こえてこなかった。


 「お前、バーサーカーか?」

 「俺が?それは違うな。俺たち幹部は薬物に頼るような戦い方はしない。何故だかわかるか?傷付けば痛みを感じずとも出血多量で死ぬことがある。バーサーカーと呼ばれる者は使い捨ての兵士なんだよ」


 彼の言葉が本当なら腹の傷は致命傷のはずだ。

 計り知れない痛みに襲われているに違いない。

 それなのに何故か笑みを浮かべている。


 「恐怖で気が狂ったか?」

 「バカを言うな。俺は至って冷静だ。見ろ、傷などすでに塞がっている」


 よく見ると腹部に開いた穴がなくなっていた。

 考えられるとすれば身代わりのコインの効果だろうか。

 それならば彼が余裕なのも頷ける。


 「コインを持っていたのか。準備がいいな」

 「コイン?何のことだ。まさか身代わりのコインとでも思ったか?だとすればそれは間違いだ。残念だったな」

 「じゃあ、何だと言うんだ!」

 「そうだな、冥土の土産に教えてやるよ。ズバリ、この剣の能力だ。身代わりのコインよりも遥かに優れた回復力を秘めた奇跡の剣。この程度の傷なら造作もない」

 「傷を癒やす剣だと!?」

 「おッと、余計な話はここまでだ。お前がいくら俺に風穴を開けようと勝ち目はないぞ。そろそろ幕引きと行こうか!」


 男の雰囲気が一変した。

 まるで今まで溜め込んでいた殺意を吐き出すように周囲の空気が震えている。

 殺気の圧力が尋常ではない。

 僕は咄嗟に銃をソードオフショットガンに持ち替えた。

 すぐに傷が回復していくのならそれ以上のダメージを与えればどうだろうか。

 試してみる価値はありそうだ。

 それにはある程度の距離に接近する必要がある。

 銃身が極めて短いこのショットガンではその点がデメリットだ。

 隙を作るため鞭で剣戟を受け流しつつチャンスを伺った。


 「…そこだ!」


 手を伸ばせば触れられそうな至近距離で腹部に散弾を放った。

 銃身から拡散した弾は内臓に無数の穴を開ける。

 弾が貫いた腹部は見るも無惨な姿だ。

 通常なら即死してもおかしくない。


 「…いてぇな!!」


 腹に受けた衝撃で身体が後方に吹き飛んだ。

 それでも男は倒れることなくこちらに向かってきた。


 「不死身かよ!」

 「言っただろう!どんな傷だろうと瞬時に回復するんだよ!!」


 叫びながらサーベルを振りかざし、頭を狙って振り下ろされた。

 それを紙一重でかわし後方へと下がって距離を取る。


 「ったく…何で当たらないんだよ!てめぇ、少しは手加減しやがれ!!」

 「そんなこと出来るわけないだろ!…これでダメなら、打つ手なしだ」


 僕は再び銃を念じて自動小銃AK-47を取り出した。

 今度は距離を取りながら連続で弾を撃ち込んで回復の速度を上回るか確かめてみる。

 照準を合わせて引金を引いた。


 「くッ、何だその武器は!見ろ、身体が穴だらけだ!!」


 その言葉通り身体が蜂の巣のようになった。

 辺りに飛び散った血肉の惨状は誰が見ても気分を悪くするほどグロテスクなビジュアルになっている。

 それなのに男は怒りをあらわにするだけで一向に倒れる気配はない。


 「…化け物め」

 「言ったろ、何回やっても同じなんだよ!」


 瞬時に回復した男は素早く距離を詰めてきた。

 ただ、男のスピードでは僕を捉えることはできない。

 少し身体の軸を傾ける程度の動作で剣戟をかわした。

 そこへ再び雨のような銃撃を浴びせてみたが男は平然と立っている。


 「レイジ、何をやってる!ヤツの剣を奪って破壊しろ」

 「ちッ、アイツ、余計なことを!!」


 戦いながらこちらの様子を見ていたセシルの声が聞こえた。

 同時に男の顔が曇った。

 そして、先ほどの戦闘で得た教訓を思い出した。

 「剣は術者から離れると効果を失う」

 僕は剣を握る腕に照準を定め「腱」や「骨」が粉々になるまで撃ち続けた。


 「う、腕がぁぁぁッ!」

 「まだだーーーッ!!」


 激しく撃ち続けると腕はミンチになりやがて手から剣がこぼれおちた。

 その瞬間、男は断末魔の悲鳴を上げると床に倒れてのた打ち回った。

 どうやら剣が術者から離れ効果を失ったらしい。

 作戦は成功したようだ。


 「何をやってる!レイジ、剣を破壊しろ!!回復されるぞ」


 セシルの言葉で我に返り床に落ちている剣に向けて弾を撃ち続けた。

 しかし、AK-47の威力では表面に傷は付けられても破壊することはできない。

 銃を再びソードオフショットガンに持ち替え床に落ちた剣に向けゼロ距離で弾を数発撃ち込んだ。

 すると、瞬間的な破壊力に勝る散弾は剣を真っ二つにした。


 「そうだ、よくやった!」

 「ええい、この女、私をどこまで愚弄するつもりだ!!」


 罵声が聞こえるセシルの方を見ると女の攻撃を見ないで全てかわしていた。

 全て紙一重だが一向に当たる気配はない。

 一見するとセシルは遊んでいるようにも見える。

 彼女は僕の戦いを見届けると女に向き合って本日最大級の電撃を放った。

 それはマンイーターと戦った時に見せた雷とほぼ同等の威力で、閃光と爆裂音が同時に建物内に響き渡った。

 爆心地に残ったのは先ほど女が使っていた剣だけで本人の姿はない。

 代わりに消し炭のような跡が床に残っている。


 「ば…バカな…レイチェルが消滅した…だと?」


 目の前で起こった出来事に教皇は愕然としている。

 自分の右腕のような彼女が一瞬にして消し炭になり、残ったのは一仕事終えて涼しい顔をするセシルだけだったのだから。

 僕の方も剣を破壊され回復することが出来なくなった男がたった今息を引きとったところだ。


 「さて…教皇、まだやるか?」

 「お、お前たち、何をしている!この者どもを始末しろ!!」


 教皇はやぶれかぶれになって残っていた構成員たちを仕向けてきた。

 ただ、残っているのはどれも中級か下級の兵士だ。

 飛んでくる矢にだけ注意している間にセシルが電撃で一網打尽にした。


 「ば、化け物…」

 「私に言わせれば教皇、アンタの方がずっと化け物さ。敵わないとわかりきった相手に部下を差し向けたんだからな。これは当然の結果だ。人の命をゴミのように扱うアンタこそ、化け物そのものだよ」

 「こ、皇帝はこんな化け物を囲っていたのか…。これではまるで予言通りじゃないか」


 教皇は気になる言葉を呟いた。

 聞こえた声が確かなら予言で間違いはない。

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