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シーン 120

 翌日。

 ついにオープン当日となった。

 開店は夕方からのため午前中はシッカリ休んで本番に備えておくようみんなに伝えておく。

 その間エールはずっと落ち着きがなかった。

 緊張から身体に力が入ってしまい何もしていないのに肩が凝ってしまったらしい。

 そんな彼の緊張をほぐすようにマオは彼から離れないで話し相手になっていた。


 「エール、大丈夫よ。何も怖いことなんてない。アナタは自分の力を信じればいいの。でも、もしダメだと思ったらみんなを頼りなさい。きっと力になってくれるから」


 今回、僕はとにかく裏方に徹しようと思っている。

 可能な限りみんなの自主性を尊重したいからだ。

 ただ、何か問題が起こればそのまま放置すると言うわけではない。

 僕の力が必要ならすぐに動ける準備は整えてある。

 サフラもニーナも同様に店の入口から少し離れたところに立って三人を見守ると決めていた。

 そして、あっと言う間に開店の三十分前になった。

 外には噂を聞きつけた客が列を作り、首を長くして開店を待っている。

 その数は総勢十数人。

 客席の数が二十席と言うことを考えればほぼ満員になる人数だ。

 その間にも一人また一人と列を長くしている。


 「お待たせしました。それでは、食堂「ヒノマル」オープンします」


 オープンの時間となりペオが店の扉を開け放った。

 客たちは順序良く店内に入りマオが一組ずつ席に案内していく。

 ここまでは順調だ。

 あとは注文の確認と料理の提供をどれだけ正確に行うかにかかってくる。

 僕は我慢をして遠巻きに店内の様子を眺めた。

 マオは不慣れな作業にもすぐに順応し、持ち前の笑顔を客たちに振りまいている。

 反対に厨房で料理を作るエールの表情にはあまり余裕がない。

 客が直接彼の顔を見ることはないが厨房の中とは言え出来れば笑顔で仕事をしてもらいところだ。

 何事も楽しむ精神が大切だと思うから。


 「すみませーん、注文いいですかー?」


 満員の店内では不慣れなセルフサービスを敬遠してフルサービスを希望する客が大半を占めていた。

 そのためマオ一人しか居ない接客係に多くの負担が掛かっている。

 マオは注文の確認と料理の提供、食べ終わった食器の片づけを一人でこなさなければならない。

 さすがに彼女一人ではそろそろ限界だろう。


 「サフラ、手伝えるか?」

 「大丈夫だよ。制服、似合うでしょ?」


 サフラはフリルのあるメイド服風の制服姿を身に纏いその場で一回転して見せた。

 彼女もこの制服が気に入っているらしくいつでも手伝える状態で待機していた。


 「あぁ、最高だ!」

 「ありがと。じゃあ、手伝いに行ってくるね」

 「無理するなよ。手が足りなかったら応援を呼ぶんだぞ」

 「はーい」


 サフラはそのまま注文を待つテーブルに移動して慣れた様子で注文を取っていく。

 どうやら人前でも物怖じせず対応できるらしい。

 それと言うのも僕を相手に注文を取る練習を繰り返したからだ。

 練習をした数だけ自信に繋がっているのだろう。


 「レイジ、私は厨房の手助けに行ってくるよ。何、皿洗いくらい私にも出来るさ」

 「あ、あぁ、悪い。頼んだ」


 サフラに触発されてニーナも手伝いに行ってしまった。

 さすがに彼女は裏方なので制服は着ていない。

 きっと、長身の彼女が着れば可愛らしさが強調されただろう。

 機会があれば一度着てもらいところだ。

 二人が応援に入ったことで徐々にペースが掴めるようになっていた。

 ただ、厨房で料理を作るペオとエールにはあまり余裕がない。

 同時にいくつもの料理を作るのは不慣れなため、注文をメモした紙が徐々に溜まり始めている。

 まだ客から不満が出るほどではないが先手を打ち、そろそろ手を貸した方がいいだろう。


 「ペオ、優先して提供するメニューは何だ?」

 「あ、レイジ様。えっと、そこにメモが来ています。上から順にお願いします」

 「わかった。エール、足りない材料を倉庫から持ってきてくれ。それと乾いた器から順に並べるんだ。その方が盛り付けの手間が省ける」

 「わかりました!」


 結局、初日は想定していた人数の倍近い客が訪れ大繁盛となった。

 その中には僕が声をかけた管理事務所の職員やクオルの姿などもあり、オープン初日に華を添えてくれたようだ。

 初日のとしてはこれ以上ないと言うくらいの大成功だろう。

 ただ、一日やってみて思ったのは今日くらいの客入りの場合、六人居ないと店が回せないと言うことだ。

 この問題はみんなと相談して解決しなければならない。

 しかし、大きなトラブルも無く店を閉められて何よりだった。

 仕事を終えた後の心地よい疲労感が身体を満たしている。


 「みんな、お疲れ様。初めてにしてはうまくいったじゃないか」

 「はい、途中でレイジ様が厨房を手伝っていただいたのでスムーズに料理を提供することができました。エールも頑張ってくれたのが良い結果に繋がったと思います」

 「ペオも頑張ってたよね」

 

 サフラはペオに声をかけて仕事ぶりを労うと彼は頬を赤くした。

 あまり人から褒められることになれて居ないのだろう。

 それとも相手がサフラだったからだろうか。

 どちらにしても普段見られない彼の顔が見れると言うのは新鮮だ。

 

 「サフラさんもおかげでホールもスムーズに対応することができました。本当にありがとうございます」

 「私は自分が出来ることをしただけだよ。それに私は少しサポートをしただけなんだから」

 「いや、二人とも頑張っているのは厨房からも見えていたよ。サフラもマオもよくやってくれたよ」

 「まったくだよ。ホント、私も頑張ったのだがな…」


 今度はニーナが弱気な声を上げた。

 もちろん彼女の役割も今回の成功を大きく後押ししている。

 

 「ニーナもよくやってくれたよ。皿洗いなんて裏方の仕事だったのに悪かったな」

 「いや、いいんだ。私は料理も出来ないし注文を受けるのも得意ではないからね」

 「そうか?お前ならホールスタッフに適任だと思ったんだがな」

 「いやいや、私はこう見えてもシャイなんだよ。知らなかったのかい?」

 「初耳だな。まあ、それならそれでいいんだが」

 「レイジ様、少しよろしいでしょうか?」

 

 隣で僕らのやり取りを聞いていたペオが耳打ちをしてきた。

 どうやら僕以外の者に聞かれるとマズイことらしい。

 しかし、その様子はバッチリみんなの注目を集めている。

 ペオはそんな様子を気にもせず事の詳細を告げてきた。

 それはニーナに関することだ。

 何故ニーナが皿洗いを買って出たのか、それについての見解が寄せられた。

 彼によれば厨房からサフラの制服姿を眺めるのが目的だったのだろうと言う意見が伝えられた。

 確かにその見解に間違いはないだろう。

 そう思わせるのはニーナが皿を洗いながら終始ニヤニヤと笑みを浮かべていたからだ。

 普通、皿洗いと言うのは率先してやるものではない。

 よほどの綺麗好きなら話は別だがニーナがそのタイプとは考え難いからだ。

 ただ、この見解が正しいのか、それを知るには直接ニーナに聞くほかはない。


 「何だ何だ、二人して私をチラチラと…言いたいことがあれば直接言ったらどうだ?」


 ニーナも僕らの視線を感じて不審に思っているようだ。

 

 「えっと、ニーナさんはサフラさんの制服姿、どう思いますか?」

 

 ここで思わぬ伏兵が声を上げた。

 その声の主はいつも笑顔が絶えないマオだ。


 「それはもう最高だ!天使だ!!女神様だ!!!」


 ニーナはそう高らかに宣言すると鼻息を荒くした。

 これを見て僕らは確信する。

 ペオの見解が間違っていなかったと。

 マオはニーナの姿を見ていつもの笑みを浮かべていた。

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