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シーン 119

 明日はいよいよ食堂「ヒノマル」がオープンする。

 この名前は僕のアイデアでみんなに由来を説明したところすぐに快諾された。

 ちなみにオープンがここまで遅れたのはペオに頼んでおいた食器の調達に時間がかかったからだ。

 それも何とか数が揃いオープンに間に合った。

 食器は全て木製にこだわっている。

 採用の理由は扱いやすさを重視したからで、木製なら落としても割れる心配がない。

 陶磁器の場合下手をすれば客に怪我を負わせる危険があるとペオが指摘してきたことが決め手となった。

 他にも調達コストが安く「知り合い価格」も適応出来たようだ。

 ただ、陶磁器とは違い表面を漆や塗料でコーティングしていないため、洗った器は湿っているため乾くまでしばらく使えず少し管理に手間がかかる。

 対応策としてあらかじめ予備を多めに揃えると言う方針になった。


 「レイジ様、こんな形で注文しておきましたが、如何でしょう?」


 ペオは届いたばかりの食器の中から味噌汁を入れる器を取り出した。

 当初想定していた「椀」にコーヒーカップのような持ち手がついている。

 これもペオのアイデアでこちらの食文化に配慮した形だった。

 この形ならティーカップと似ているので直接口をつけて飲むことができる。


 「いいんじゃないか?あとは具材を細かくして食べやすくする必要があるな」

 「他に問題はありませんか?」

 「一通り確認したけど問題ないと思うぞ。これって欠品が出たらすぐに注文出来るのか?」

 「一つ二つなら半日もあれば作れるそうです。ただ、まとまった数は材料の関係で時間が欲しいとのことでした」

 「そうか。まあ、磁器じゃないから割れてなくなる心配はないよな。わかった、引き続きマオたちと準備を進めてくれ」


 午後。

 僕は一人で広報活動に出かけた。

 出来ればパンフレットやチラシがあれば説明に便利だが、そこまで準備する時間は確保できなかった。

 とりあえず人が集まる場所を中心に出向き口頭で伝えるしかない。

 まず向かったのは居住区画の管理事務所だ。

 ここで職員に説明をして周知に貢献してもらおうと思う。


 「あら、男爵様。今日はどうしましたか?」

 「こんにちは。実は自宅の一階を改装して飲食店を開くことになったんです。今日はそれをお伝えにきました」

 「そうでしたか。そう言えば以前から工事や準備を進められていましたね。ペオさん…でしたか、あの方からお話は聞いていますよ」

 「なるほど、それでは話が早いですね。その店が明日オープンする予定なんです。良かったら遊びに来てください」

 「はい。是非お伺いしますね」


 受付の女性に説明して周知活動にも貢献してもらうよう伝えておいた。

 次に向かったのはハンターギルドだ。

 ここも人の出入りが多いため広報活動にはもってこいの場所である。

 いつも情報をくれる職員に食堂の話をすると興味を持って快く応じてくれた。


 「…ん?レイジじゃないか。仕事か?」


 ギルドを出たところでクオルに出会った。

 大会の一件以来、人が変わったように仕事を熱心に取り組んでいる。

 今日もどこかで護衛の仕事を済ませ報告に戻ってきたようだ。


 「あぁ、ウチで飲食店を開くことになったんだ。お前も良かったら利用してくれよ」

 「ニーナが言ってた店か。いつからだ?」

 「明日だ。時間は夕方から」

 「そうか。それなら同僚たちとお邪魔するよ」

 「よろしく頼む」


 簡単に説明してクオルと別れた。

 続いてキャラバンギルド、商工組合などの事務所を巡り普及活動を進めて行く。

 気付いた頃には夕方になっていた。

 思いつきの行動とは言え広報の成果としてはまずまずだろう。


 「レイジ~お疲れ様~」


 帰路の途中サフラが僕を迎えに来てくれた。

 彼女は昼からペオの手伝いをしていたがようやく店の準備が全て整ったらしい。

 僕らは夕日を背にそのまま帰路についた。


 「明日が楽しみだね」

 「そうだな。二人の様子はどうだ?エールなんかは緊張してるんじゃないか?」

 「そうなの。大丈夫かなって不安がってたよ。ついさっきまでマオさんが励ましてたの」

 「そうなのか?まあ、エールはいつも通りだとして、やっぱりマオは頼りになるよな。彼女が居てくれたらウチも安泰だ。ホント、ペオはいい子たちを見つけてくれたよな」

 「誉めていただき、ありがとうございます」

 『わッ!?』


 背後から急にマオが声を掛けてきた。

 僕らは同時に声をあげ、お互いの顔を見合ってしまった。

 驚きすぎて心臓が踊っている。

 別に悪口を言っていたわけではないが、前触れもなく本人が現れるのは心臓に悪い。

 マオはいつの間にか気配を消す技を身に付けていた。

 僕が気配を察知出来るのは敵意を持った敵がほとんどだ。

 そのため気心の知れた相手が自ら気配を消した場合はどうしても気付くのが遅れてしまう。

 これはペオにも言えることだ。

 どちらかと言えばこの場彼女がペオの真似していると言うべきか。


 「驚かせてしまってすみません…」

 「い、いや…気にするな。少し驚いただけだよ」

 「お二人で楽しそうに喋っていましたので、声をかけるタイミングが見つかりませんでした」

 「気にするなよ。ん、一人か?」

 「はい。サフラさんが出て行くのを見たので、こっそり後をついてきたんですよ」

 「なるほど、そういうことね。じゃあ、夕食の準備はペオとエールでやってるわけか?」

 「はい。ペオさんは明日の練習も兼ねて、弟の実技試験もやるって張り切っていました。あの子、緊張すると普段の力が出せないタイプなので少し心配しているんですよ」


 弟のことを誰より知る彼女ならではの悩みだ。

 ただ、そんなことはペオにもわかっているだろうから、自信を喪失されるほどの行き過ぎた教育はしないだろう。

 必要なら僕も手伝う予定なのでみんなで協力して行えばいい。


 「マオさんは接客係ですよね。あ、でも、ペオには何か考えがあるって言ってましたよね。アレ、何のことなんだろう?」

 「ん?アイツから何も聞いてないのか?」

 「うん。ただ、直接聞いたわけじゃないから教えて貰ってないだけかな」

 「そういうことか。なら、今ここで話しておくよ。アイツの考えたアイデアだ」


 店が忙しくなることを考慮してペオから提案があった。

 それは料理の提供方法をセルフサービスとフルサービスにわける案だ。

 セルフサービスは文字通り客に動いてもらい各自で配膳をする方法。

 具体的にはある程度料理を作って置き事前に盛り付けられた皿の中から好きな物を選びトレーに乗せていくパターンだ。

 これなら接客に掛かる手間が大幅に減るためマオの負担も軽減できる。

 フルサービスの場合は出来たてを提供出来る反面、提供までの時間がかってしまう。

 こちらは時間に余裕がある高級志向の客に向けたスタイルだ。

 ただし、貴族や富裕層の多い地域で出店しているため後者の方が多いだろうと予想している。

 二人にこの話をすると各々難しい顔をした。

 どうやら言葉で伝えても実感がないらしい。

 むしろ、この世界にはセルフサービスと言う概念がなくイメージができないようだ。


 「つまり…お客さんに手伝ってもらうってこと?」

 「そうだ。日本ではそう言うスタイルの店があったんだよ。まあ、ペオはこれを頭で考えて思いついたらしいんだけどな」

 「レイジもそう言うお店を利用したことがあるの?」

 「あるぞ。毎回じゃなかったけどな」


 似たような店でよく覚えているのはうどん屋のチェーン店だ。

 以前通っていた高校の近所にあり昼休みに抜け出して食べに行ったのはいい思い出だった。


 「レイジ様はペオさんに寛大なのですね」

 「ペオだけじゃないさ。俺はみんなにも同じように接してるつもりだよ。ただ、ペオが積極的に動き回るから俺が判断する機会がみんなより多いだけだな。何ならアイデアがあれば積極的に出してくれてもいいんだぞ?筋が通っていたら反対はしないからさ」


 ペオがいつも提案する内容はどれも理にかなっている。

 過去の経験とシミュレーションを頭の中で瞬時に行えるためこの世界にはない革新的なアイデアも想像することができるようだ。

 まさに天才とは彼のためにある言葉だろう。

 僕が彼と同じ立場であったとしても決してそうはいかない。

 おかげで僕が直接手を下すシーンが少なくて助かっている。

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