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シーン 12 登場人物紹介

サフラ=アリアベル


 本作品のヒロイン。ある晩、村を魔物に襲われ孤児になった少女。歳は今年で十四歳。赤い髪を肩まで伸ばしたショートヘアーと青い瞳が特徴の美少女。幼少期に満足な栄養が取れなかったのか、同世代の女の子より少し小柄だが元気で快活な性格をしている。

 冬場だけ行商人をしていた父親の影響もあり、幼いながら経済について人並み程度の知識があり、帝都にも行ったことがあるという。


特技:笑顔、上目遣い、暗算

 二人で生活するとなれば、人並みに暮らせるよう考えなければならない。

 これからどうやって生計を立てていくか、そこが問題だ。

 少なくとも数日はゴブリンを倒して得た報奨金がある。

 二人くらいなら贅沢をしなければ数日くらいは何とかなるだろう。


 ここで不意にある疑問が浮かぶ。

 この世界の経済観についてだ。

 はっきり言って生活に必要な物の相場がまるでわからない。

 これまでは提示されるままに料金を支払い、パンやガンホルダーを手に入れてきた。

 それが本当に相場だったのか、今のところ検証する術はない。

 何より人並みの生活をするのにどれくらいの資金が必要なのか、この点をしっかりと把握しておかなければ後々問題になるだろう。

 ダメ元だがサフラに聞いてみれば何かわかるかもしれない。

 僕より若いとは言え十数年間この世界で暮らしてきたのだから、転生して間もない僕よりは詳しいだろう。


 「なぁ、サフラ、少し聞きたいんだ。知ってる範囲で教えてほしい。普通、一日の生活費ってどれくらい必要なんだ?」


 余計な質問は省いたのは必要な情報だけを得るためだ。

 もちろん、今の僕には無駄な情報などほとんど無いとも言えるが、一度にいくつもの情報を把握するのはなかなか難しい。

 わからなければその都度聞く方が効率的だ。


 「うーん…じゃあ、私の家の話をするね。朝はいつもパン屋さんでバゲットを六つ買います。これは朝と夕の二回分。そのあと、燻製屋さんでハムを買って、畑で取れた野菜を食べるの。お父さんは葡萄酒が好きだったから、これとは別に酒屋さんでワインを買ったりもしてるよ。これだけでたぶん銅貨二十枚分だったから、銀貨だと二枚かな。もちろん三人分の食費だよ。あとは、お洋服。たまに村へやってくる行商のおじさんから買っていたんだけど、少し割高だったかもね。この服は実はお気に入りなんだけど、銀貨一枚だったと思うよ」

 「じゃあ、一年暮らすのにどれくらいの銀貨が必要か分かるか?」

 「えっと、お父さんが言うには食費なら金貨が十枚もあれば十分だろうって」

 「なるほど…」


 パンの値段から察するに金貨一枚の価値は一万円札かそれよりも少し高いくらいだろうか。 

 そうなると銀貨は千円札で銅貨なら百円玉といったところだろう。

 ブレイターナではあまり貨幣経済が発達した世界ではないため、地方に住んで居る場合はあまり通貨を必要としないらしい。

 逆に、経済が発達した帝都であれば物価が違うので、同じ感覚でモノを考えてはいけないようだ。


 ただ、この他に宿屋の問題がある。

 どこかに拠点を置き生活の基盤を整えるのであれば別の問題にすり替わるが、その時は家を買わなければならない。

 この辺りはジレンマになるところだが、長い目で見れば家を買った方が経済的だろう。

 その場合、どこに生活の拠点を置くかという問題だが、これについてはすぐに結論を急ぐことはないだろう。

 しばらくの間は宿暮らしが基本になる。


 「それにしてもサフラって案外物知り何だな」

 「お父さんがね、冬の間だけ行商人になるの。ほら、冬は野菜が採れないし。それでね、たくさん教えてもらったから…」


 それだけ言うと口を固く閉じて押し黙ってしまった。

 どうやら家族と過ごした日々を思い出してしまったらしい。

 目は潤んでいるがすぐに泣き出しそうな様子はなかった。

 悲しさを我慢しているのだと気が付くと、僕は何も言わずにサフラの肩を抱き寄せた。

 歳の割にしっかりとは言えまだ十四歳の少女だ。

 サフラは抱きしめた胸の中で声もなく泣いた。


 僕らは身支度を整えて宿を出た。

 これは夜が明けてわかったことだが、村の惨状は筆舌に尽くしがたい有り様で、半数以上の家屋が焼け風景が一変している。

 家々を焼いた炎はほとんど消されているが、半日以上が経った今でも白煙が立ち上る建物もあった。

 襲撃を生き延びた村人たちの中には後片付けを始める者も居るが、呆然と立ち尽くして表情に生気がない者もいる。

 宿屋の主もそうだったが、これから先どのようにして村を再建していくのか見通しはまだ立っていない。

 

 僕は気になってサフラが暮らしていた家を見てみることにした。

 家は屋根が焼け落ち、黒く焼け残った骨組みを残すだけだ。

 両親の遺体は崩れた家に押しつぶされてわからなくなっている。

 サフラは悲しそうな顔を見せ、僕の袖を掴んだまま口を固く閉ざした。

 焼け跡の中から彼女に何か残せるモノはないかと見渡すと、真っ黒に焦げた小さな箱を見つけた。

 箱は薄い銅の板を加工して作られた宝石箱らしく、開けてみると中には青い石の付いたペンダントがあった。


 「…それ、お母さんの…」

 「…そうか。これはお前が持ってろ。今日を忘れないために…」

 「うん…ありがとう、お兄ちゃん」


 村を出る前に一つ確認しておくことがある。

 昨晩倒したゴブリン共に懸賞金が掛けられていなかったかと言う点だ。

 あれだけの徒党を組んで暴れまわったのだから、ハンターギルドに討伐の依頼が出ていてもおかしくはない。

 それを確かめるには近隣のギルド支部へ赴いて確認する方が早いだろう。

 それが難しければ関係者を見つけて聞くと言う方法もある。

 今は情報が乏しいだけにわからないことは一つ一つ解決していくしかない。

 それらしい人物が居ないか辺りを見渡すと、少し離れたところからこちらへ歩いてくる男性がいた。


 「あなたはもしや、昨晩一人でゴブリンを倒した旅の方では?」

 「えぇ、そうですが…あなたは?」

 「私は村長代理をしておりますプラウフと申します。昨晩亡くなった村長に代わり、心よりお礼申し上げます」


 そう言ってプラウフは深々と頭を下げた。

 プラウフによれば村長は村を守るために勇敢に戦い、息を引き取るその瞬間まで村の行く末を案じていたという。

 彼の肩書きは今のところ代理だが、近いうちに正式な村長となることが決まっているようだ。


 「昨晩はお気の毒様でした。私がもっと早くゴブリン共を仕留めていれば…」

 「いえ、村を守っていたハンターですら歯が立たなかった相手にございます。あなたが居なかったら村は全滅していたでしょう」

 「申し訳ない…」

 「…ところで、あれだけの力をお持ちということは、あなたもハンター…いや、紋章はお持ちでないようですね」


 ハンターの身分を表す紋章は普段からわかりやすいところに身に着けておくものらしい。

 一般的なのは背中や腕など一目でわかる場所だ。

 これまでに見てきたハンターも今のところそのようにして紋章を身に付けていた。


 「えぇ、遠い異国の日本というところから旅をしています。今は帝都へ向かう途中で、ハンターギルドの本部にも顔を出そうと思っているところなんです」

 「そうでしたか。あなたほどの腕があればすぐに認められるでしょう」

 「それで、少しお聞きしたいのですが、この村にハンターギルドの支部はありませんか?少し確認しておきたいことがありますて…」

 「懸賞金のことですかな?あいにくですがこの村に支部はございません。村に駐在していたハンターも隣町の支部に依頼をして派遣していただいておりました」


 小さな村だけに支部はない。

 もし、この村にも支部があり多くのハンターが駐在していれば被害はここまで広がらなかっただろう。

 

 「なるほど…そうなると、次の町へ行かなければならないと言うことですね」

 「そうなります。今し方、早馬を手配して隣町の支部に遣いを送りました。もちろん、あなたが一人で倒した十数匹ゴブリンとコボルトのことも書状に書いておきました」

 「そうでしたか。それでは一度隣町に顔を出してみます」

 「是非そうしてください。それと、つかぬことをお聞きしますが、その子はサフラでは?」


 プラウフは僕の陰に隠れていたサフラに気が付き不思議そうな顔をした。

 誰でも村の子どもと旅人が一緒にいれば疑問に思うだろう。

 実際、当人の僕でさえ昨日までこうなるとは思ってもみなかった。

 今さらながら僕もプラウフと同じ気持ちだ。


 「えぇ、家族を亡くし、私が引き取ることにしました。本人の希望です」

 「そうでしたか。お強い旅の方ならきっと大丈夫でしょう。彼女は芯の強い子です。村の者を代表し、よろしくお願いします」


 プラウフは再び頭を下げ、それを見たサフラも僕に頭を下げた。

 僕がサフラの頭を撫でると彼女は猫のように目を細くして笑った。

 話が終わりプラウフとの別れ際、隣町のハンターギルドに宛てた案内状を手渡してくれた。

 これを見せれば細かい話をしなくても通るようになるらしい。

 最後に村の再建を祈ると共に別れを告げて次の町を目指した。

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