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シーン 107

 全ての負傷者を運び終え戻ってみるとすでに戦闘が繰り広げられていた。

 二対五という不利な状況にも関わらず二人はまだ無傷だ。

 反対に二匹のマーナガルムは身体から血を流している。

 二人は確実に相手の戦力を削り戦闘を有利に進めていた。

 そんな時、一匹が身を屈め全身のバネを使ってアルマハウドに体当たりをした。

 矢のように放たれたマーナガルムの身体はそのままアルマハウドに激突すると彼の身体を簡単に吹き飛ばした。

 ただ、衝突の間際に身体を後方に反らしていたためある程度のダメージは受け流されている。

 それでもマーナガルムの体重は普通乗用車ほどもあるため普通の人間なら打ち所が悪ければ死んでしまうだろう。

 アルマハウドは着ていた鎧と足首ほどの高さまで積もった雪面がクッションになり致命傷には至らなかった。

 アルマハウドは素早く起き上がり追撃を仕掛けようとしていたマーナガルムに太刀を浴びせかける。

 マーナガルムの恐ろしさは統率された連携プレーだけではない。

 特に脅威なのはこの凍てつくような環境下でも常に身体能力が衰えないところにある。

 通常、生き物は寒さを感じると筋肉が萎縮して運動性能が落ちてしまう。

 そうなればいくら飛び抜けた身体能力を持っていても最高のパフォーマンスを発揮することは難しい。

 また、寒さで身体が硬くなっていれば怪我もしやすくなる。

 マーナガルムは全身を覆う毛で体温を一定に保ちこの厳しい環境に適応していた。


 「すまん、遅くなった!」


 僕は急いで援護射撃に適した狙撃ポイントへ移動すると肩の力を抜いて銃を構えた。

 先ほどは一体だけだったが今回は五体を相手にしなければならない。

 幸い全てのマーナガルムが一斉に二人を攻撃しているわけではなく、散発的な攻撃によって的を絞らせないようにしている。

 その度に攻手が入れ替わるため適切な狙撃のタイミングは慎重に行わなければならない。

 ただ、拳銃では致命的なダメージには繋がらず何発か撃つことで一時的に足止めをする程度の効果しかない。

 僕の使うM1911にはリロードや射撃時の反動がないとは言え機関銃のように弾を連続で発射するタイプの銃ではいない。

 小型で扱いやすい利点はとても気に入っているが相手が複数いる今回のような状況には不向きな面もある。


 僕はこの状況に適した武器を求め銃に念を込めると、M1911は全長が九百センチほどある自動小銃「AK-47」に姿を変えた。

 自動小銃は実用的な全自動射撃能力を持ち至近距離から中距離での狙撃性能も高い。

 ただ、小型で扱いやすい拳銃とは違い銃身が長いため細やかな取り回しは少し劣る面もある。

 素早い動きを得意とした相手の場合では銃口を向けている間に間合を詰められる恐れもあるだろう。

 ただし、今回のように少し距離を取った戦闘シーンにはとても向いている。


 「二人とも、援護する!」


 射線軸上に二人が入らないよう注意を払って銃口を向けた。

 この銃は引金を引き続けると装填された弾の数だけ発射することができる。

 もちろんこれまでの銃と同様にリロードも反動もないため引金を引き続けている間は装填数に関係なく無限に弾が発射される仕組みだ。

 僕は牽制を兼ねてセシルに襲いかかろうとしていたマーナガルムに弾を浴びせた。

 M1911より貫通力が高いAK-47は数発で足止めの効果を表し、その隙にセシルが雷を帯びた渾身の一撃で切り伏せていく。


 「その調子だ!次を頼む」


 手応えを覚えたセシルは嬉々としていた。

 残るマーナガルムはあと四体。

 こちらの損失は特になし。

 サフラとニーナは万が一に備え僕の後ろで待機しているがこの調子なら出番はないだろう。


 「すまん、二人とも、背中を任せるぞ」

 「気にするな。キミは公爵たちの援護に集中してくれ」


 ニーナは辺りに警戒しながら戦況を見守っている。

 実際、一番頑張っているのはアルマハウドとセシルだ。

 僕はいつも通り引金を引くだけの簡単な仕事を淡々とこなすだけでいい。

 仲間が倒されマーナガルムたちは浮き足立っていた。

 元々、連携プレーが得意な魔物のため数が減ればそれだけ優位性がなくなっていく。

 僕は間髪入れずに残りのマーナガルムに銃弾を浴びせた。

 拳銃とは違い連射性能に優れるAK-47は想像以上の戦果をもたらしてくれる。

 当たり所が悪ければ数発でマーナガルムの動きを完全に封じ、怯んだ隙に二人のどちらかが止めを刺すと言った具合だ。

 気が付けば残るは身体が一番大きな個体だけになった。


 「信じられん…」


 不意に背後から声が聞こえた。

 声の主は先ほどドワーフのリーダーだ。

 リーダーを務めるだけあって彼もそれなりに実力を持っているのだろうが、たった三人で五体のマーナガルムを殲滅していく僕らを見て、得体も知れない恐ろしいモノを見る目で見ているようだ。

 僕はそんなことには気にせず残った一体に集中する。

 そして、僕が放った弾により残ったマーナガルムは動きが鈍くなった。


 「今だ、やれ!」

 「うおおおッ!」


 アルマハウドは雄叫びをあげ渾身の力を込めて剣を振るうとマーナガルムは完全に息の根を止めた。


 「倒したのか…」

 「二人とも、お疲れさん」


 戦いを終えた二人の労をねぎらうとアルマハウドも珍しく安堵の表情を浮かべた。

 彼自身、一時は危うい場面もあったが終わってみればかすり傷程度しか負っていない。

 さすがは歴戦の猛者たちだと感心する。

 アルマハウドは大剣についた返り血を払い背負っていた鞘に剣を収めた。


 「そちらも片付いたようだな」

 「あぁ、負傷者はみんな医務室だ」

 「キミの援護があって助かったよ。その銃は初めて見るな?」


 セシルは僕も持つ銃を興味深げに眺めた。

 思えば両手持ちの銃を手にしたのはこれが初めてだ。

 ショットガンも銃身が短く片手で使用することができた。


 「これはアサルトライフルと言う銃だ。拳銃よりも大きくて両手が塞がってしまうのは難点だが援護射撃にはちょうどいいんだよ」

 「確かに物凄い勢いで弾が飛んでいたな。私も初めは驚いたよ」

 「拳銃とは性質が違うからな。弾の形状も違うんだよ」

 「そうなのか?銃と言うものは奥が深いのだな」


 セシルは感心して頷き一人で納得していた。


 「さてと、改めてアンタにお願いがあるんだ。コルグスに会わせてもらえないだろうか?」


 少し離れたところで先ほどのリーダーの男が立ち尽くしていた。

 まだ、戦闘の余韻が残っているのか、心ここに在らずと言った顔をしている。


 「あ、あぁ…すまなかった。まだ目の前で起きたことが信じられなくてな」

 「戦いは終わったんだよ。そう言えばまだ名を名乗っていませんでしたね。私はレイジ。特使として和解のためにここへ来ました」

 「レイジ…?その名前、以前コルグス様から聞いたことがある。まさか、アナタがそうだったのか。私はケルド。ここの部隊長だ」

 「なるほど、それなら話が早い。それで、彼はどこにいるんです?」

 「生憎、コルグス様はここには居ない。今は王宮に居られるよ」


 ケルドと名乗ったドワーフは僕らへの警戒を解き、同時にマーナガルムを退けてくれた礼を言って頭を下げた。

 彼によればこの施設は南からの侵攻を防ぐ目的で立てられた防衛の前線基地らしい。

 元々、人間から身を守る目的で建てられたものだが、ここ最近はこの辺りに住み着いたマーナガルムを殲滅する拠点として機能していたようだ。

 今回の戦闘でドワーフ側には何人かの死傷者が出たものの、僕らが加勢しなければ被害はさらに甚大なものになっていただろう。

 下手をすれば全滅と言う最悪の事態に陥っていたかもしれない。


 「何度も重複するようで悪いが、私たちは戦いに来たんじゃないんです。長きに渡るわだかまりを解消するため和解を申し入れに来ました」

 「和解…か。確かに、あなた方は我々の知る人間像とはまるで違っていた。命の恩人だ、感謝している」

 「困っている相手を助けるのは当たり前ですから。それに、友好の証に土産も持参しました。コルグスに会わせてはもらえませんか?」

 「…わかった。では明日、あなた方を王宮へ案内しよう」


 不意に誰かの腹の虫が鳴いた。

 振り向くとその主はニーナで緊張感を台無しにしてしまったと顔を赤くしている。


 「す…すまん…」

 「そう言えば食事がまだでしたな。急いで用意させます。今日は酒宴といたしましょう」


 ケルドは仲間に告げて早速準備に移らせた。

 僕らはその間、会議室へ案内されしばらく待つように言われた。

 それからさらにしばらく経って食事の準備が整ったと告げられた。


 「こちらのお部屋にご用意しております」


 迎えに来たのはコック帽を被ったドワーフだった。

 食事が用意された部屋に案内されると僕は思わず言葉を呑んだ。

 部屋は結婚式の披露宴会場ほどの広さがありテーブルには豪華な料理が並べられている。

 特に目を引くのは牛一頭を丸焼きにした豪快な料理だ。

 他にも見たことの無い食材で作られたスープやサラダなどが並んでいる。


 「取り急ぎ用意したのでこの程度しか用意できず申し訳ない」

 「いえ、十分過ぎますよ」

 「では、冷めないうちにお召し上がりください」


 食事の席に参加したドワーフたちは士官クラスの軍人だった。

 最初は怖い顔をしていた彼らもケルドの説明で徐々に心を開き乾杯が始まる前には敵意が完全になくなっていった。

 ケルドが酒宴と言った理由はすぐにわかった。

 ドワーフたちは普段、飲み水代わりに酒を飲むらしい。

 地下世界では地上に比べて水資源が乏しく飲み水を得るのは簡単ではない。

 代わりにアルコール含んだ酒は長期の保存が利き、同時に身体を芯から温めることが出来る。

 そのため比較的乾燥に強く地下の暗い世界に適応した葡萄の品種でワインを作っているらしい。

 特にドワーフたちはアルコールを分解する能力が人間よりも高く、子どもでも少し酒を飲んだくらいでは酔うことがないようだ。

 ケルドが乾杯の音頭を取ると、官たちは一斉にグラスを空にした。

 僕は何とかグラスの半分くらいまで飲んでみたが一度にたくさんの酒は身体が受けない。

 それを見てケルドが不思議そうな顔した。


 「お口に合いませんでしたかな?」

 「いえ、味は大丈夫なんですが酒を飲むと言う習慣がないもので」

 「なるほど。人間はあまり酒がお得意ではないと?」

 「あなた方ほど強くはありませんよ。元々、身体の構造が違うからでしょう」


 よく見るとサフラも無理をして酒を飲んでいた。

 この世界では成人しか酒を飲んではいけないと言う法律は無い。

 むしろ、子どもは小さいうちから酒を嗜むものと主張する者もいる。

 ただ、それは前世の知識から脳の発育を阻害する恐れがあるため、僕は極力サフラには酒を飲まないようにと言い聞かせていた。


 「おい、大丈夫か?」

 「う、うん…」

 「顔赤いぞ?」


 今までの経験からサフラが酒に強くないことは知っていた。

 少量ならどうと言うことはないが一度にたくさん飲んでしまえば許容量を超えてしまう。

 加えて今は空腹時だ。

 空腹時はアルコールが吸収されやすく酔いが回りやすい。

 サフラは空気を読むタイプなので周りに合わせて一気にグラスを空にしてしまったようだ。

 おかげでアルコールの影響から焦点が定まっていない。

 彼女が大丈夫と気を張っていたので注意する程度だったが、突然テーブルに倒れ込んでしまった。


 「サフラッ!」


 サフラの顔は真っ赤になり息が絶え絶えになっている。

 無理をし過ぎて急性アルコール中毒の一歩手前と言う状況だ。

 騒然とする会場の中、僕は冷静さを何とか保ちサフラを抱えるとケルドに急いで部屋を用意させた。

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