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シーン 104

 数では絶対的な不利があったものの仲間の一人が魔具使いと言うことで戦力に大きな開きはなかったらしい。

 ただ、その魔具使いはリンカーではなかったらしく、戦況が変化するに連れて精神を疲弊し、最後には戦えなくなり命を落としたそうだ。

 もう一名も深手を負ったが残ったアルマハウドが何とか残りを討ち取った。


 「残りって言っても、今の話だと一人で五体も倒したのか?」

 「あぁ。あの時は無我夢中だった。生きていたのは奇跡だな」

 「それで、その話はそれだけじゃないだろ?」

 「まぁ焦るな。本題はここからさ」


 ここから少し昔話の方向性が変わっていった。

 アルマハウドの戦いによって命を救われた彼女は彼に恋心を抱いてしまったらしい。

 しかし、翌日には婚約者への輿入れを控えておりその恋は決して叶わないものだった。

 アルマハウドもそれをよく理解していたため彼女に対して特別な感情が生まれないよう自制を心がけていたそうだ。


 「美女との恋愛話か。お前にもそんなことがあったんだな。いや、変な意味じゃなくてな」

 「ふん。私だって人並みの感情は持ち合わせているさ。普段は押し殺しているがな…」


 彼が普段、感情を表に出さないのは二つの理由から。

 一つはいつでも戦える心構えを崩さないため。

 心に迷いがあれば戦いに少なからず影響を及ぼすため剣を振るう時は必ず感情を押し殺す。

 残ったのは相手を打ち倒すための殺意だけ。

 彼のことをよく知らなければただの戦闘狂としか映らないが実のところそうではない。

 もう一つは感情表現があまり得意ではないと言うこと。

 こちらは生まれ持っての性格で対人恐怖症とまではいかないが、不特定多数の人たちに心を開くのが苦手らしい。

 ただ、ある程度気心が知れた相手ならば話は別のようだ。


 「お前、案外シャイなんだな?」

 「うるさい。私も好きでこうなったわけではないさ。生まれつきだ」


 僕とこうして話をしているぶんにはそんな一面は見られない。

 普段、よく無愛想にしているが初めから気安いタイプの人間は疑いたくなる質のため、どちらかと言えばアルマハウドくらいストイックなタイプの方が接しやすい。

 彼は一つ咳払いをして話を続けた。

 オークを倒した晩、その日は野宿になってしまったらしい。

 予定より行程が遅れたため仕方なくと言うのが実情のようだ。

 実際、オークとの戦いから護衛役を務められるのがアルマハウド一人になってしまったため寝ずの番で馬車を警護したらしい。

 それだけ聞けばただの苦労話だがここで終わらないのがこの昔話だった。

 

 徹夜が確定し、火の番をしていた彼の元に、彼女が現われた。

 その姿は透き通った極薄生地のランジェリー姿で、話の内容からそれがキャミソールだとわかった。

 ただし、下着は身に着けておらず薄い布の下には生唾を飲む込むほどのしなやかで艶かしい肌が微かに覗いていたそうだ。


 「おいおい…それ、誘われるじゃないか」

 「あぁ…さすがにあの時は肝を冷やした。何せ生殺しだからな…」

 「確かに、これから人妻になろうって美女には手が出せないよな…」

 「そうだな。相手が貴族で身分も違うからなおさらだ」


 彼女は何も言わずアルマハウドの隣に座ると肩を寄せ合い耳元で囁いたそうだ。

 「今宵、私たちを邪魔する者はおりません」と。

 言葉通りのお誘いだった。

 並みの精神を持った一般男性ならそれで理性が吹き飛んでしまうだろう。

 僕だって生唾を飲み込むほど魅力的な女性ならその場の感情に流されてみたくもなる。

 ただ、生真面目な性格のアルマハウドはその誘いを丁重に断り、傍らで一夜を過ごすことだけは何とか許可したらしい。

 一晩中いい匂いのする女性がずっと隣に居たため、理性がオーバーヒート寸前になったのは言うまでもないようだ。

 結局、男女の関係には至らなかったものの僕とサフラの光景を見て当時のことを思い出したらしい。

 アルマハウド曰く男性の本分は女性を守ること。

 何があっても、たとえ命を賭してでも、それが愛する人のためであれば尚更だと彼は言った。


 「惜しいことをしたな。黙ってたらバレなかったんだろ?」

 「無理を言うな。そうやってクライアントに手を出した仲間が処刑をされたことだってある。命が惜しければ、黙って心を無にするしかないんだよ」

 「まあ…命を投げ打ってまで欲望に流されたらお仕舞いだよな…」

 「ふん。それよりだ、お前はその娘を死ぬ気で守れ。それが男として生まれてきた定めだ」

 「わかってるよ。サフラは家族だ。誰が何と言おうと守り抜いて見せるさ。もちろん、居候をしているニーナも例外じゃない」

 「そうか。そう思っているのなら、私が口出しすることではなかったな。マンイーターとの戦いを見ていたが、あの時のお前は真に男だったよ。もし私が女だったら惚れていたかもな」

 「よせよ、褒めたって何も出ないぞ?って、そんな冗談も言えるんだな」

 「言っただろう。私は感情を抑えているだけで表に出せばこれくらいのことは言えるんだよ」

 「そうか、そうだったな」


 マンイーターとの戦いは僕とサフラの心を近づけるきっかけになったと思う。

 それまでニーナとの修行で強くなっていく彼女を見て、もう僕は必要ではないと勝手に思い込んでいた。

 しかし、今回のことでそれは間違いだと気がついた。

 彼女には僕が必要だ。

 そして、僕にも彼女が必要だ。

 もちろんニーナだって例外ではない。

 家族は誰一人として欠けてはいけないのだから。

 それを思えばペオも大切な家族だ。

 ペオが待つ家に無事帰ることを揺れる馬車の中で強く胸に誓った。

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