温度差
「理玖、ごめん」
凛は何度目かわからない謝罪を口にした。しゅんとして、申し訳なさそうな顔をしている。伏せた睫毛から見える瞳は、泣き出しそうにも見えた。
凛の小さな手には、壊れた模型があった。
理玖は後ろを向いて笑いをこらえた。凛はものすごく真剣に謝ってるのだから、茶化してはいけないと思ったからだ。
模型は理玖と凛が小学校のころに、凛が作ったものだった。夏休みの工作体験のようなものに参加したと理玖は記憶している。そういった体験教室に参加したのは、その一度きりだった。
理玖はそういった細かい作業は苦手で、たいして面白いと思わなかった。途中からは早く外に遊びに行きたいと思ったていた。反対に凛は熱中して、大人でも集中力が必要になりそうな模型を、ほぼ1人で作り上げた。
理玖はそばにいただけだったが、凛の中ではこれは2人で作り上げたことになっていた。
凛はそれを大事にしていて、事あるごとにその思い出を口にした。
その模型が、凛の不注意で壊れてしまった。
理玖が学校の友人たちと別れて帰宅した時から、凛はこの状態で理玖に謝り続けていた。
中等部の制服もまだ着たままだったから、理玖が帰るまで何も手がつかなかったのだろう。
耳と尻尾があれば、全て項垂れているに違いない光景に、理玖の内心は、可愛いで埋め尽くされる。
「ごめん…」
怒っていないと何度伝えても、凛には聞こえていないようだった。
「2人で作ったのに…」
「いや、凛、あのな、」
「りくー…っ」
とうとう、ぽろ、と頬を涙が伝った。白く丸い頬に伝う透明の涙は、理玖が知るどの泣き顔よりも可愛かった。
理玖は凛の足元にしゃがみ込んで、「りーん」と呼んだ。
「壊れちゃったものは仕方ないだろ。残念だけど。でもおれに謝る必要は、ほんと無いから。な?」
「でも2人で作ったのに」
「んー、おれ何にもやってないと思うんだけどなあ」
「土台やってくれたもん。理玖と作ったんだもんー…っ」
「わーかった、ごめん。今のはおれが悪い。りん、大丈夫だから。なによりおれは怒ってないから」
泣き出した凛の頭を撫で、理玖は模型を床に置いた。
凛を抱き上げて、額をくっ付ける。泣いて赤くなった目と鼻先を見て、理玖は「かわいーな、ほんと」と笑った。




