一条と凛
校舎を出たところで、凛が一人立っていた。
冷えた夕暮れの風に、伸びた黒髪が揺れている。白い肌に冷えた頬だけが赤い。遠くを見ている姿が、どこか幻想的だった。
上着を羽織らないその姿は寒そうに見えて、一条は側に寄った。
「凛ちゃん、兄ちゃん待ってんの」
凛は一条を一瞬見上げたが、明らかにがっかりしたふうに頷いた。
「がっかりすんな、失礼だろ。おまえ、それ他で絶対やるなよ。いつか酷い目に遭うぞ」
「…うん」
「うんじゃなくて、ハイ、な。年上にタメ口きくな」
「はーい」
気怠気に返事する凛を見て、こういうところが兄貴によく似てんなと思った。
「りーんちゃん。わざわざ敵作んな」
「ハイ」
凛はあっさり頷いた。凛は馬鹿ではないから、一条に今、楯突く意味はないと考えたのだろう。素直に返事されると、容姿も相まって愛らしい。
そりゃあいつも甘やかすわ。一条は納得した。
「凛ちゃんさ寒くない?」
「あー、大丈夫です」
「……おまえ、俺の事ほんと嫌いよな」
凛は再び、一条をちらりと見上げた。その目に感情の色は無くて、何を考えているかを察するのは難しかった。
御伽話に出てくる姫のようで、黙られると一条がまるで悪者だった。
実際、通りかかる下校中の顔見知りたちからは、「中学生いじめてんな、くそダサい」と笑われた。
「いじめてねーわ」
ポケットに両手を突っ込み、一条は凛の隣から動かない。首に巻いたマフラーを貸してやろうかと思ったが、面倒くさくてやめた。
「理玖のどこが好きなん? 優しいところ?」
凛は答えなかった。
「顔? めちゃくちゃかっこいいもんな、おまえの兄ちゃん。背も高いし、女には死ぬほどモテるし。知ってるか? この間、三年生の女とーー」
「全部です」
凛は一条のほうはもう見ていなくて、おそらく理玖が来るであろう方向を見ていた。
「理玖の嫌いなところ探すほうが難しいから」
「全部ねー」
強い風が吹いた。凛の華奢な身体が突風にふらつく。一条は思わず手を伸ばした。
届いたはずだったが、その手は空を切った。
「りく、」
凛の身体はいつの間にか現れた理玖の腕の中に、すっぽりと収まっていた。
「凛、待った? 遅くなってごめんな」
「ううん。いいよ、待ってない。でも寒かった」
そう言って凛は、自分を抱く腕にしがみついた。冷えてより白くなった凛の頬に手を当て、理玖が「冷たくなってる」と言って、首に巻いていたマフラーを凛に巻いてやる。
「あれ、一条も一緒だったんか」
「やー、弟くんが寂しそうだったんで、ついねー」
理玖は何か言いかけて、やめた。その目はさっきの凛と少し似ていて、一条は背筋がひやっとする。
それから、凛に目線を合わせて屈み込み、額をくっつけ合う。
「次から教室で待ってな。ちゃんと迎えに行くから」
「…うん、そうする」
理玖の首に腕を回して、凛は安心したように抱き付いた。
なんだこれ、当て馬気分なんておかしいだろ。見た目だけなら本当に麗しいって得だよな。一条は苦々しい顔で唇を突き出した。




